あなたを探しに
ゼオンとエレノアがいつものように起きて、畑仕事を手伝っているときだった。村長であるジュレーという若い女性が慌てて二人に駆け寄ってきた。
ジュレーはどうやら走ってきたようで、肩で息をしながら二人の前で止まる。
ゼオンはジュレーを近くのベンチまで連れて行き、エレノアはコップ一杯の水を手渡した。先程よりは落ち着いた様子のジュレーに、エレノアは話しかける。
「村長、そんなに急いでどうしたんですか?」
「大変よ。あなたたち、街にこんな張り紙で」
ジュレーはワンピースのポケットにぐしゃぐしゃに入れた一枚の紙を二人に見せた。そこにはエレノアとゼオンだとはっきりと分かる似顔絵と特徴などが書かれた指名手配書だった。
二人は顔を見合わせる。確かに国からは逃げた。エレノアはまだ分からなくもない。亡国であるヴィエータ王国の生き残りだ。ましてや国をあげて処刑しようとしているのだ。そうなると逃亡の手助けをしたとして、ゼオンも容疑にかけられているのだろうかと考えた。
どちらにせよ、他国にまで指名手配を言い渡しているのだ。逃げ道がないと言われているような、エレノアはそんな気がした。
「とんでもない罪を犯したとか、そんなことないわよね。だって、あなたたちこんなに良い人じゃない。何かの間違い、よね……?」
ジュレーは怯えながらもそう尋ねる。ジュレーもとても心の優しい人間だ。村長として上に立つ者でありながら、皆のことを良く理解していて、きっとどんな都会より住みやすい村だろう。
そんなジュレーを見ると、エレノアは余計に心が苦しめられた。何か悪いことをしたわけじゃない。だが、たった二年でここまで信用して悲しんでくれる人に何か嘘をついているように感じて、いたたまれなくなった。
「詳しいことは言えないけれど、生まれた家の関係で、私はずっと命を狙われてきた。国から逃げたらこの有様ってわけよ。この人は私の命を狙う側の家に生まれながら私の逃亡を助けてくれたの。……今は、これしか言えない。でも信じて欲しい」
エレノアのいつになく真剣な言葉にジュレーもゆっくりと頷いた。
「こちらでどうするか、明日には決めておく。あなたたちには迷惑かけないわ。じゃあ、また」
エレノアはジュレーの肩を一度さすると自分の家に向かって歩き出した。
そんなエレノアの背中をゼオンは見つめていた。その背中が、悲しそうだったから。
その夜、エレノアたちの家はただただ沈黙が流れるだけだった。
この先どうすれば良いのか。全く分からない。国へ帰るか。ここに留まるか。それともまた別の場所へ行くか。
選択肢なんてたくさんある。しかし、それらのどれを選べば正しいのか。それすらも判断できなかった。
「ゼオンは、どれが正しいと思う?」
「知らねぇ。俺はどれ選んでも、結局同じ道を辿るとしか思えねぇな。アーサは、きっと俺らがこれからどうするかも分かってんだ」
ゼオンは固唾を呑んだ。なぜアーサがエレノアにあんなに執着するのか。なぜアーサはルゼの攻撃に耐えられたのか。アーサに関する謎がどんどん浮かび出て止まらない。
アーサは何者なのだろうか。本当に自分と同じ血が通ってるのだろうか。何が目的なのだろうか。
「悩んでいても仕方ないわね。確か皇国には大聖堂があったはず。そこの聖女様に話を伺ってみるわ」
「ああ、伝説の聖女か。今の聖女は初代聖女と同じくらいの力を持ってるって噂だよな」
エレノアはゼオンのその言葉に頷く。
聖女。それは他国にもその名が知れ渡り、影響を及ぼすような存在だ。聖女は世襲制ではない。大聖堂がお告げを受けたときの数十年の間存在する、いるだけでレアな人物でもある。よって聖女の間に血の関係はない。
皇国には皇王がおり、最高権力者はその皇王だ。大聖堂はというと皇国にはあるものの皇王の権威は行き届かず、大聖堂の司教、いる場合は聖女が絶対的な権限を持つ。しかし国を直接的に動かすことは不可能だ。ただ、聖女は国内、世界でただ一人だけ神からお告げを聞き受けることのできる人物であることから聖女は世界をも動かせるほどの力があるといっても過言ではない。
皇国は小さいながらも世界を動かせる大きな力を持つ重要な国である。
ゼオンとエレノアは翌日、首都にある大聖堂へ行くことを決めた。
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