第5話 ライバルと彼女が急接近!?
輝明はとてもいい奴だった。
勉強ができる僕に「勉強を教えてくれ!」と頼み込んだ時に「ラーメン奢るから!」と気持ちいいぐらいの頼み方をしてくるし、休日にみんなで遊ぼうと簡単に声をかけてくる。
僕も輝明も親友と言っても過言ではないぐらいは仲良くなった。
「転校はするのか?」
「しないって。しばらく転勤はないらしい」
輝明が卒業まで一緒にいられると知り、僕も他のクラスメイト達も喜んだ。もちろん、姫子もそれなりに。
いくら輝明がいい奴でも、僕と輝明が仲良くなっても、彼に対する僕の警戒はなくならなかった。彼に釘を刺してもそれは変わらなかった。
いつか、僕の姫子が彼に奪われるんじゃないかという恐怖が常に僕にはあった。
また、とられるんじゃないかという不安が胸のうちに広がる。
「健太くん、最近、私といると怖い顔をしてるわよ」
テストも終わり、午前中だけで終わった学校からの帰り。
僕と姫子は、ハンバーガーショップに入って、店内の隅の席で一緒にハンバーガーとフライドポテトを食べていた。
前世で彼女がお姫様だった時は食べたこともないジャンクフードを彼女は好きになってしまったようで、たまに一緒にハンバーガーショップに行こうと誘われる。彼女はフライドポテトを一本指でつまむと不機嫌そうに頬を膨らませてそう言った。
「え、そう?」
「そうよ。私といるのに、楽しくないの?」
「え、いや……」
姫子といるのに、輝明のことばかり考えていたとは言えない。デート中に他のことを考えるのもアウトなのに、さらに姫子が輝明のことを好きになるんじゃないかと心配するなんて……。
そんなことを考えているとバレたら、姫子は僕のことを嫌いになってしまうだろう。
せっかく手に入れられたのに。
今生では彼女と一緒に幸せになれると思っていたのに。
「その……前世のことを思い出して……」
僕の言葉に彼女はジュースを一口飲むと眉尻を下げた。
「そう……もしかして、また夢を見たの?」
「まぁ、そんなところ……」
僕は彼女に前世の記憶はたまに夢で見るだけで、最初から全部覚えているわけではないと言ってある。実際、覚えていないところもあるし、覚えているところもある。
だから、手っ取り早く、夢でたまに思い出すと言ってあるのだ。前世について気まずい話題が出ても、やり過ごせる。
例えば、彼女が死んだ時の光景とか。
「今回はどんなことを思い出したの?」
「そうだな……たくさんの農民が城に攻め入る場面かな」
「そう……それはクーデターの時の記憶ね」
悲しそうに伏せられた目を綺麗だと思ってしまう。彼女が憂い、目を伏せる様も美しい。
「私も怖かったわ。あの記憶を夢に見たのだとしたら、そうね……。怖い顔をしちゃうのも分かるわ。でも、今はもうあの世界ではないの。私たちが生きてるのは平和な世の中なのよ。安心して」
僕よりも彼女は肝が据わっているかもしれない。彼女は手を伸ばして、僕の頬をその細い指で撫でた。それだけで心に巣くっていた黒い気持ちが拭われる。
そうだ。
彼女は前世のことを今でも覚えている。
そもそも前世など興味もなさそうな輝明などに惹かれるはずがない。
僕はそう思って、輝明と姫子がどうにかなるなんて考えを頭の中から消そうと努めた。
でも、見てしまったのだ。
姫子と輝明が、他の人から隠れて、体育倉庫の隣で楽しそうに会話をしていたのを。
全てが崩れ去る音が聞こえる気がした。
「なぁ、輝明。姫子となんの話をしてたんだ?」
「え、話って?」
教室に戻ってきた輝明に僕は声を潜めて、追及した。
「とぼけるなよ。さっき、体育倉庫の隣で二人で話してただろ。ずいぶん、楽しそうにお喋りしてたじゃないか」
「いや、あれは……」
輝明は口ごもった。
僕に言えないような話を二人でしていたのだ。姫子と輝明が僕に隠すことなんて、一つしかない。
二人が付き合い始めたんだ。
「僕、釘を刺したよな? 姫子は僕の彼女だって」
「それは知ってる! 手なんか出さないさ。友達の彼女だぞ!」
「じゃあ、なんでなにを話してたか教えてくれないんだ?」
ふと姫子の方を見ると、彼女は心配そうにこちらを見ていた。僕が輝明と自分の話をしているのに気づいたからだろう。
「……彼女に聞いてくれ」
輝明はしばらく考え込んだと思うとそう言った。煮え切らない輝明から離れて、僕は心配そうにこちらを見ていたい姫子の手首を握って、教室から出た。人気のない校舎の片隅へと彼女のことを連れて行くと彼女はたまらなくなったのか、声を出した。
「健太くん、痛いっ」
「さっき輝明となにを話してたんだ?」
僕は彼女から手を離した。彼女は輝明と同じように気まずそうに視線を逸らした。二人が僕に隠し事をしているのは明らかだ。
「もしかして、私が輝明くんを好きになったと思ってるの?」
彼女は僕に握られた右手首をさすりながら、丸くした目でそう問いかけてきた。僕が首を縦に振ろうとした瞬間、彼女は僕の右頬を驚くほどの速さで平手打ちした。
「えっ」
「私の恋を甘く見ないでくれるかしら? 私の恋は前世からよ。今更、目移りするなんてことがあると思う?」
僕は彼女を甘く見ていた。
彼女は盲目だ。前世から慕う王子を今生でも最後まで好きでいたいと心の底から思っている。
僕は安心した。でも、疑問は残っている。
「じゃあ、輝明とはなにを……」
「来月、健太くんの誕生日でしょう? だから、親友の彼に何がいいか相談していたのよ」
確かに今では僕と輝明は親友と呼べるほど仲がいい。僕の好みを知りたいと思ったら、輝明に聞くのが手っ取り早いだろう。でも、それは恋人の姫子だって同じはずだ。むしろ、姫子の方が輝明よりも僕のことを知っているに違いない。
「わざわざ輝明に?」
「男の子同士じゃないと話さないこともあるでしょう? 健太くんも輝明くんも、楽しそうに二人でよく話してるじゃない」
もしかして、輝明とよく話しているから、妬いているのでは……?
僕はその可能性を思いついて、思わず笑ってしまった。彼女は顔をだんだんと赤くしていって、今度は先ほどよりも軽く僕の頬をはたいた。
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