辛い仕事

「では、こちらに来て下さい」


そう言われて、私達はもう一つ奥の部屋に案内された。


「こ、これは…」


その光景に、全員の顔が青ざめた。


「こちらにあるのは、暴行、強姦、殺人をされた人形です。」


目が飛び出てるもの、顔が潰れたもの、お腹が潰れてるもの、足がないもの、手がないもの…。


「出血をする、叫ぶ、泣く、犯人からしたら楽しいようですね。」


ゐ空さんは、泣きながら人形達にれている。


「最低ですね」


宮部さんは、泣いていた。


「これが、終われば人間に行くのですよ。私には、わかります。それを防ぐために通報しても取り次いでもらえません。人形だからですよね。五木結斗、柊真琴、原白亜希はらしろあき三村早苗みむらさなえ、旭川愛梨、えっとそれから…」


「あの、ゐ空さん。それは何ですか?」


「人形の名前で、頼まれたものですよ。」


私と宮部さんは顔を見合わせる。


「その人形は?」


「こちらに、返ってきたんですよ。」


ゐ空さんは、殴られた人形達をさわる。


「では、通報したのですか?」


「しましたよ。警察に…。取り次いでもらえなかったですが…。」


「亡くなったニュースを見たのですね。」


「やっぱりなって、思いました。こちらに、やってきた人形が凄い有り様だったので。何度言っても信じてもらえないんです。」


ゐ空さんは、悲しそうに目を伏せた。


「あの、人形は、一体いくらで買えるのですか?」


「三万円から百万円までで買うことが出来ます。」


「こちらの人形は、比較的安いのですか?」


「はい!写真をいただいて造るので、だいたい三万から十万程で出来ます。なので、高校生が頼んだりもしてきますよ。ただ、安いせいか、犯罪の練習に使われる事が多くなってきましたので、よほどの事情がない限り、今はもう引き受けなくなりました。」


「これは、今までのですか?」


「そうです。100体程返品されて返ってきました。」


私は、気になってる事を聞いた。


「何故、解体するのですか?」


「解体しなければ、幽体が入るからです」


「幽体が、入るのですか?」


「はい、私の人形は成功に造られた器です。三日月の皆さんは、戦いで人形に血を飲まし生き写しの義をしますよね?」


「はい」


「その時、人形が身代わりになる。その為の、器になる。私が、造る人形も同じです。私の能力を注ぎ入れる器になっているのです。だから、解体しなければ本物の幽体が入り込んでしまうのです。」


ゐ空さんは、そう言うと解体するきっかけになった事件の話を始めた。


「私は、最初幽体が入るのを気づいていませんでした。成沢瑠依なるさわるいさんって女の人の人形を造ったんです。依頼主は、成沢健吾なるさわけんごさん、結婚して3ヶ月で妻を亡くしたので造って欲しいと依頼されました。私は、彼の望みを叶えました。しかし、彼女を造って二ヶ月後。彼に、新しい相手が現れました。同じ会社の後輩の渡瀬志保わたらせしほさん。ずっと彼を好きだった相手でした。それに気づいたのか彼女の人形に、彼女の幽体が入ったのです。そして、彼を殺しました。」


「彼をですか?」


「はい!人形は、幽体の気持ちと融合するまでには時間がかかるようです。元々、私の造る人形は独占欲が強いのです。それをもっている人形と彼をとられたくない彼女の気持ちが重なりあった結果。彼は、殺されました。遺体の刺し傷は、50ヶ所を越えていたそうです。私は、それを知り解体する事にしました。そして、新しく愛する相手を見つけたら返品してもらう事にしました。」


ゐ空さんは、泣いている。


「独占欲を抜けば、解体しなくていいのではないのですか?」


宮部さんの疑問に、ゐ空さんは首を横に振った。


「無理なのですか?」


私の言葉に、ゐ空さんは首を縦に振った。


「どうしてですか?」


「人が、さらに植え付けるからです。私の造る人形は、愛される事が前提です。しかし、人の手に渡ると過剰なまでの執着心や愛を与えられる。置いて行かないでと泣いてすがられる。それらを、注がれ続け人形は成長をする。ただ、愛されたいだけの人形が、憎しみや怒りをもって返ってくるのです。それだけ、皆さんが失った悲しみや痛みが辛いのがわかります。」


ゐ空さんは、顔が潰された人形を撫でている。

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