人形師
三度目の死
「可愛そうに、ニ度目の解体になるね。」
私達が、覗くと男の人が人形の頭を優しく撫でている。
「
私達に気づいて、ニコッと笑いかけた。
「お邪魔ですよね?」
「いえ、大丈夫です。来るのは、解っていましたから…。」
細目の目に、白い縁取りの眼鏡をかけている。
髪は、ボサボサだ。
とにかく、全身から優しさが滲み出ている。
「さっき、聞こえたのですが…。ニ度目なのですか?その…」
「あー。この子はね。ニ度目なんだよ。男の子、
「ニ度目とは?」
「一度目はね、この子が事故に合って49日が終わった時に作ってって頼まれたんだ。そしたら、半年後に妊娠したからいらないと言われた。それで、解体したんだけどね。産まれてきたのが女の子だったから、また作ってくれって言われてね。作ったら、また返品されてきた。ちょうど半年経って妊娠したみたいだよ!今から、解体するから見ていてくれるかな?」
「はい」
私達は、解体作業を見る。
『また、いらないって』
勇太君は、ゐ空さんに手を差し出す。
「そうなんだ。ごめんね。君を置いておけないから…。」
『知ってるよ。おじちゃん』
ゐ空さんは、泣いている。
優しくおでこにチュッとする。
「髪の毛から、ゆっくりはずすよ」
『うん』
勇太君とゐ空さんは、泣いている。
『イテッ』
「ごめん、痛かったかい」
『ううん』
血が、出てる。
まさか、そんな事が…
【安易にゐ空に人形を作らせないで】の言葉の意味がわかった。
髪を抜く度に、血が出る。
「痛いかい?」
『大丈夫。ニ度目だから』
「偉いね。イイコだ。」
頭を優しく撫でている。
『イテッ』
「もうすぐ、終わるからね」
『うん』
何て、酷いのだ。
なぜ、造らせたのだ。
私は、涙が止まらない。
「さぁー。終わったよ。血を拭いてあげようね。」
『うん』
ゐ空さんは、何かをつけて頭を拭いてあげている。
『これすると、眉毛と睫毛するの痛くない。』
「そうだね」
『眉毛?』
「先に、そうしようね」
ゐ空さんは、眉毛を消している。
『ハハハ、ハハハ』
「こしょばいかい?」
『うん』
勇太君は、笑っている。
「じゃあ、睫毛にいくよ」
『はい』
睫毛を抜かれていく。
『イッ』
「痛いかい」
『大丈夫』
優しく、丁寧に睫毛を抜いた。
目の回りは、血まみれだった。
「さ、消毒しようね。」
『はい』
瞼を閉じれるのが、不思議だった。
消毒をされる。
「さぁー。これを注射したら、もうさよならだよ。まだ、話したい事があるなら聞くよ」
『お母さんとお父さんに、男の子が産まれるから、僕は二度と生き返らないでしょ?おじさん』
「そうなるね」
『最後に、ギュッってして。』
「どうせなら、皆にしてもらうかい?」
勇太君は、私達を見つめた。
『いいの?』
「いいよ」
私は、言った。
ゐ空さんは、彼を膝からおろす。
走ってきた!
『ギュッてしてーー』
光珠に飛び付いた。
光珠は、ギュッと抱き締めて泣いてる。
『ありがとう』
離れて、喜与恵に抱きついた。
『ギュッー。』
喜与恵も、ギュッとした。
『ありがとう』
宮部さんの所に行く。
『ギュッー』
宮部さんも、抱き締める。
『ありがとう』
私の所にやってきた。
『ギュッー』
私は、ギュッと抱き締める。
うっすらと感じる温もり、人間と同じ皮膚の感触、息づかい、トントンと聞こえる鼓動。
生きてる人間、そのままだ。
『ありがとう』
彼は、三度目の死なのだ。
ゐ空さんに向かって、走っていった。
『ギュー』
「ギュー」
『おじさん、僕を二度作ってくれてありがとう』
チュッと頬にキスをされていた。
「ゆっくりおやすみ。」
『おやすみ』
ゐ空さんは、何かを肩に打った。
ダランとした。
「さよなら、勇太君」
目を落として、口を落として、爪を落として、体を解体していった。
「お疲れさまでした。」
終始、人形に敬意をはらっていた。
私は、その光景にずっと涙を止められなかった。
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