人形師

三度目の死

「可愛そうに、ニ度目の解体になるね。」


私達が、覗くと男の人が人形の頭を優しく撫でている。


三日月宝珠みかづきほうじゅ宮部希海みやべのぞみ黒須喜与恵くろすきよえ三津木光珠みつきこうじゅ、いらっしゃい。」


私達に気づいて、ニコッと笑いかけた。


「お邪魔ですよね?」


「いえ、大丈夫です。来るのは、解っていましたから…。」


細目の目に、白い縁取りの眼鏡をかけている。


髪は、ボサボサだ。


とにかく、全身から優しさが滲み出ている。


「さっき、聞こえたのですが…。ニ度目なのですか?その…」


「あー。この子はね。ニ度目なんだよ。男の子、戸苅勇太とがゆうた君。8歳だよ。」


「ニ度目とは?」


「一度目はね、この子が事故に合って49日が終わった時に作ってって頼まれたんだ。そしたら、半年後に妊娠したからいらないと言われた。それで、解体したんだけどね。産まれてきたのが女の子だったから、また作ってくれって言われてね。作ったら、また返品されてきた。ちょうど半年経って妊娠したみたいだよ!今から、解体するから見ていてくれるかな?」


「はい」


私達は、解体作業を見る。


『また、いらないって』


勇太君は、ゐ空さんに手を差し出す。


「そうなんだ。ごめんね。君を置いておけないから…。」


『知ってるよ。おじちゃん』


ゐ空さんは、泣いている。


優しくおでこにチュッとする。


「髪の毛から、ゆっくりはずすよ」


『うん』


勇太君とゐ空さんは、泣いている。


『イテッ』


「ごめん、痛かったかい」


『ううん』


血が、出てる。


まさか、そんな事が…


【安易にゐ空に人形を作らせないで】の言葉の意味がわかった。


髪を抜く度に、血が出る。


「痛いかい?」


『大丈夫。ニ度目だから』


「偉いね。イイコだ。」


頭を優しく撫でている。


『イテッ』


「もうすぐ、終わるからね」


『うん』


何て、酷いのだ。


なぜ、造らせたのだ。


私は、涙が止まらない。


「さぁー。終わったよ。血を拭いてあげようね。」


『うん』


ゐ空さんは、何かをつけて頭を拭いてあげている。


『これすると、眉毛と睫毛するの痛くない。』


「そうだね」


『眉毛?』


「先に、そうしようね」


ゐ空さんは、眉毛を消している。


『ハハハ、ハハハ』


「こしょばいかい?」


『うん』


勇太君は、笑っている。


「じゃあ、睫毛にいくよ」


『はい』


睫毛を抜かれていく。


『イッ』


「痛いかい」


『大丈夫』


優しく、丁寧に睫毛を抜いた。


目の回りは、血まみれだった。


「さ、消毒しようね。」


『はい』


瞼を閉じれるのが、不思議だった。


消毒をされる。


「さぁー。これを注射したら、もうさよならだよ。まだ、話したい事があるなら聞くよ」


『お母さんとお父さんに、男の子が産まれるから、僕は二度と生き返らないでしょ?おじさん』


「そうなるね」


『最後に、ギュッってして。』


「どうせなら、皆にしてもらうかい?」


勇太君は、私達を見つめた。


『いいの?』


「いいよ」


私は、言った。


ゐ空さんは、彼を膝からおろす。


走ってきた!


『ギュッてしてーー』


光珠に飛び付いた。


光珠は、ギュッと抱き締めて泣いてる。


『ありがとう』


離れて、喜与恵に抱きついた。


『ギュッー。』


喜与恵も、ギュッとした。


『ありがとう』


宮部さんの所に行く。


『ギュッー』


宮部さんも、抱き締める。


『ありがとう』


私の所にやってきた。


『ギュッー』


私は、ギュッと抱き締める。


うっすらと感じる温もり、人間と同じ皮膚の感触、息づかい、トントンと聞こえる鼓動。


生きてる人間、そのままだ。


『ありがとう』


彼は、三度目の死なのだ。


ゐ空さんに向かって、走っていった。


『ギュー』


「ギュー」


『おじさん、僕を二度作ってくれてありがとう』


チュッと頬にキスをされていた。


「ゆっくりおやすみ。」


『おやすみ』


ゐ空さんは、何かを肩に打った。


ダランとした。


「さよなら、勇太君」


目を落として、口を落として、爪を落として、体を解体していった。


「お疲れさまでした。」


終始、人形に敬意をはらっていた。


私は、その光景にずっと涙を止められなかった。




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