人形を愛した男③

川澄さんは、アルバムを見せる。


「これは?」


「ゐ空が、助けた人達だよ」


そう言って、人形と写る人達をさして話す。


「彼はね、奥さんを亡くしてね。彼女は、彼氏を殺されてね。彼女は、事故で息子さんを亡くしてね。」


そう言って、説明をしてる。


三日月のものとは、違う。


人形師は、実態を与えられるのだ。


「ゐ空には、ルールがあってね。ゐ空の作る人形以上に愛する者を見つけたら返さなくちゃいけないんだ。」


「何故ですか?」


「ゐ空の作った人形が、相手を殺すからだよ。」


「それは、いつわかったのですか?」


「宝珠君、それはゐ空に聞きなさい。」


そう言って、川澄さんは笑った。


「私は、人形でもこうやって彼女と生きていきたいんだ。一生傍にいる。それを選択した人も沢山いる。私もだ。あんな痛みや苦しみを味わうのは二度とごめんだよ。破滅した愛を抱えた人間は、おいそれと垣根を飛び越えられないんだ。目の前の小さな石にさえ、つまづいてしまうんだよ。」


川澄さんの言葉に、私と光珠は泣いていた。


「何か解るところがあるんだね」


川澄さんは、私と光珠の頭を撫でる。


「また、失うと思うと私は、前に進めなかった。でも、もし進める人間だったら…。私は、家族をもっていたのだろうか?人生には、そんな話しはないだろう?選んだのは、紛れもなく私だ。私は、この人形を返してまで新しい恋は出来なかったよ。だから、私の人生はこれでいいのだよ。」


川澄さんは、アルバムを棚にしまった。


「私は、人形を返した人を沢山見たよ。凄いよね。新しい恋が出来るって、新しい子供をもてるって、私には出来なかったから…。凄いと思った。だって、二度殺すんだよ。ゐ空に渡して、ゐ空が人形を泣きながら解体するんだ。今日もやってる。毎週水曜日だ。見てくるべきだよ。」


川澄さんは、宮部さんを見つめる。


「宮部さん、お願いします。世の中の人に安易にゐ空に人形を頼んで作らせないようにしてあげて欲しい。だから、どうか、記事にしてやって下さい。ゐ空の痛みを書いてあげて下さい。」


川澄さんは、宮部さんに頭を下げ続ける。


「わかりました。書かせていただきます。」


「ありがとう。私の事も書いてくれていいから…。人形を人間のように愛した哀れな男だと書いてくれ。」


「哀れなんかじゃありません。ここまで、愛しているって凄いですよ。誰がなんと言おうと、川澄さんの気持ちは紛れもなく愛です。」


宮部さんは、泣きながら川澄さんを見つめていた。


「ありがとう、宮部さん。会えてよかった。」


そう言って、宮部さんに握手をした。


「宝珠君、また会おうね」


「はい」


「喜与恵君も、また会おう」


「はい」


「光珠君も、また会おう」


「はい」


私達は、川澄さんに深々と頭を下げて家を出た。


「人形師、ゐ空。初めて、会いますね」


「確か、引き継いだのは10年前だね。」


「私達が、関わり合いがないのは当たり前だな」


「川澄さんちから、近いようなので、歩きましょう。」


「はい」


私達は、歩いて人形師の元に向かう。


どんな人間なのだろうか?


名前だけは、聞いた事があった。


糸埜いとのさん達なら知っていたかな?」


「どうだろうか?少なくとも、本家だから知っているだろうね。私は、名前しか知らなかった。」


「私もです。」


「私もそうだ。」


しばらく歩いてると【人形売ります】と書かれた看板が現れた。


絶対に、ここだ。


ピンポーン、ピンポーン


「はい」


「三日月宝珠と申します。ゐ空さんにお会いしたいのですが…。」


「師匠は、入って左側の工場にいますのでそちらにお願いします。すみません。とても、忙しいもので、鍵は開いてますから」


そう言われて、私達は門を開けて左側に向かって歩いて行く。


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