人形を愛した男②

「私は、ゐいそらにお願いをして人形を作ってもらったんです。皆さんもゐ空に会いに行くのでしょう?」


宮部さんは、私に質問をしていいですよと手を差した。


「あの、当時のゐ空さんは、新米でしたよね?」


「はい、だから頼んだんです。」


「ゐ空さんは、よく破門になりませんでしたね。」


「ゐ空の師匠が、全ての罪を庇ったんだ。来てごらん。見せてあげる」


私達は、川澄さんに別の部屋に通された。


そこの椅子に座る綺麗な女性。


「私の愛した彼女だよ。」


「まるで、生きているみたいですね。」


「手を握ってごらん」


私は、手を握る。


「まさか!!!」


「握り返してくれるだろう?」


「錯覚ですか?」


「違うよ!宝珠君。これは、ゐ空の能力なんだ。」


「ゐ空さんの?」


「あぁ、そうだ。三日月のもの達の人形を作る人形師は一人立ちするまで30年は掛かると言われている。それを、ゐ空は僅か一年で作ってくれた。」


「これをですか?」


「そうだよ。シリコンで、顔や体の型をとらなくても、私のビジョンを読み込んでゐ空は形にした。今では、1ヶ月に1体だけ作れるようになった。これを作った時は1年で1体だった。」


「温もりがあるのも、ゐ空さんの能力ですか?」


「そうだ。この髪の毛一本一本植えているんだよ。ゐ空が…。」


「まるで、人だ。でも、なぜ、これが見つかったのですか?」


私の言葉に、川澄さんは私を見つめる。


「万珠が、見つけた。私が、彼女と交わったのを見ていた。彼女は、ある場所に隠していたんだ。」


「それで、破門になったのですか?」


「生き写しの義をやったと思われたからだ。彼女は動くし、少しだけ話しも出来るから」


「動く、話せる?」


私の言葉に川澄さんは、彼女の肩を撫でる。


ゆっくりと動き出した。


『愛してる』


川澄さんの頬を撫でる。


「私もだよ。莉乃」


川澄さんは、泣いてる。


また、肩を撫でると動きが止まった。


「まるで、人間ですね」


「だから、万珠に告げ口されて破門になったのだ。当時、人形に、命を生き写す事は三日月ではご法度だったからな。」


「でも、魂をうつしたわけではなかったのですよね」


「そうだ。だけど、うつしているように見えるだろ?彼女は…。」


「はい、見えます。」


川澄さんは、愛しいものを見る目で見つめていた。


「なぜ、ご法度だったのですか?」


光珠が、尋ねる。


「当時、犯罪に使われたりしたからだよ。人形に魂を写し、強盗、強姦、殺人。痕跡を辿れば人形に辿り着いて終わり。それが、流行っていたんだよ。人形使いと人形師が、当時、一緒にやっていた。」


「だから、三日月はご法度だったのですね。」


「あぁ、そして私も破門になった。それから、ずっと彼女といる。もう、40年以上になる。」


「恋はしなかったのですか?他に好きな人は?」


川澄さんは、首を横に振った。


「さっきも、言っただろ?落雷に打たれたような恋だったって。あの共鳴を忘れられなかった。体の奥底から、沸き上がる感情きもち。口では、説明など出来ないよ。震え上がったんだ。私の世界を彼女は変えた。だから、失った瞬間。絶望した。絶望しかなかった。世界は、暗黒になった。彼女は、旦那さんの名前を呼んで事切れた。あんなに、肌を重ね、愛を囁きあったのに、私はあの男に勝てなかった。一度も…。」


川澄さんの目から涙が流れ落ちていく。


「それでも、失いたくなくて…。ゐ空の元に行ったのだ。ゐ空は、快く作ってくれた。私の感性を全て読み取り。全てのパーツを再現した」


「全てですか?」


「全身だよ。その感度まで、全て。」


「凄いですね」


私は、彼女を見つめていた。


「歯並びも、舌の感触も、手を握る強さも、全て彼女なんだ。私は、ゐ空が作ってくれた彼女がいなければ死んでいた。そして、ゐ空は今も沢山の人を助けている。」


そう言うと、川澄さんは一冊のアルバムを取り出した。


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