人形師に会いに行く《光珠の視点》

「おはようございます。」


「光珠、おはよう」


「私が、運転手しますよ!今日は、暇なので」


「私に、取られたくなくていつも迎えに来てるのではないのか?自信がないのか?まだ、そうなっていないのか?」


宝珠は、私に聞こえる声で言った。


「宝珠。希海さんと喜与恵さんは、ちょっと待ってて下さい」


「「はい」」


私は、宝珠を引っ張っていく。


「何だよ」


「そんな話を宝珠から、されると思いませんでした。」


「迎えに来るのは、何故だ?」


「宝珠に取られるのが、嫌だからかもね。」


「最初の頃、onにしてたのか?」


「あぁ、馬鹿でしょ?何か、初めてだった。希海さんの前だとありのままでいれると思った。だから、onにしていた。」


「聞いてしまったのだな!私への気持ちを…。」


「はい、聞きました。宝珠を愛してると…。」


「それで、信用出来ないのか?」


「信じたいです。でも、あんなに悲しそうな感情と声を聞いたら…。信じたくても信じられないんです。それで、宝珠の記憶が戻りインタビューをすると言われたので。」


「ついてきちゃったのか?仕事を全部休んでか?馬鹿だな」


宝珠は、私の肩を叩いた。


涙が、でてくる。


昔からだ!


宝珠に肩を叩かれたら、自分の悩みなど小さきものに思う。


相変わらず、宝珠は素晴らしい。


私、何かよりも沢山辛い思いを抱えてきたからだ。


「泣くなよ。縁は、光珠の方が強いし、私は宮部さんへの感情はないし。宮部さんだって、もうないんだよ。」


「それでも、宝珠が希海さんといたいと思っていた日があったのを感じる。」


「今、onにするなよ!」


宝珠に肩を叩かれた。


「すまない。私は…。」


「失えば、壊れるんだろ?あの子以来の恋か?」


「あぁ、そうです。私は、20年恋愛をしていませんから…。難しいですね。」


「宮部さんに、気持ちをぶつけてみたらどうだ?そんなんで、いなくなるわけないから!それぐらい強い縁なのだから…。」


「無理ですよ。無理です。私は、怖いのです。わかりますよね。宝珠」


「失うのは、誰だって怖いものだよ。」


宝珠は、私を抱き締めた。


「20代とは違います。今、失えば立ち直れない。」


「そんな事ないよ。人は、誰でもそう思うけれど…。立ち直れるもんだよ。光珠、一人じゃないだろ?大丈夫だ!私もいる。」


「宝珠、向き合わねばならないって事ですよね。」


「今から、会いに行く人の話を聞けば変わるんじゃないか?」


「必要な時しか、近づいてこないんですよね!」


「そうだよ、行こう」


やっぱり、私は物心ついた時から三日月宝珠が大好きだった。


三日月宝珠は、憧れであり、目標であり、私の分身だった。


「すみません、お待たせしまして」


「いえ」


希海さんがいるのは、私の隣なのだから…。


「光珠さん、おにぎり食べますか?朝ごはん、まだですよね?」


「ありがとうございます。」


私は、希海さんからおにぎりをもらって食べる。


宝珠は、喜与恵さんとはしゃいでいる。


「喜与恵、これ辛い」


「あーー。それ、私のです。キムチおにぎり返して下さい」


「もう、食べちゃったから」


「宮部さんが、私に作ってくれたんですよ。辛いの苦手ですよね!返して下さい」


「嫌だよ」


私は、ミラー越しに二人を見た。


「フッ」


笑ってしまった。


「楽しい?」


「あぁ、ごめん」


「ううん、よかった。楽しんでて」


「出発するよ」


「うん」


私は、エンジンをかけて発進した。


宝珠と向き合えばよかった。


さっき、onにした。


宝珠は、気づいていたと思う。


それでも、宝珠はありのままを私に聞かせた。


喜与恵が、好きだーーか!馬鹿だな。


「もうすぐ、つきますね」


「そうだね」


「ここですね」


私は、車を停める。


「近くの駐車場に停めてきますね」


「はい、待ってますね」


私は、駐車場に停めに行く。


宝珠と、もっと話そう。


希海さんと出会ってから、宝珠と

話せていなかったから…。


だから、ヤキモチ妬くんだよな。


私は、車から降りて歩き出した。



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