私の決意

「酔う度に、宝珠が真理亜と口に出した。私は、二人の縁を断ち切れなかった。だから、戻そうと思った。」


「それだけじゃないだろ?」


「はい。あの日々よりも、宝珠と繋がり合えなかった日々の方が愛しいと気づいたのです。」


「これから先、ずっとお預けをくらったままになるのに?」


「もう、歳だからいいと思った。」


宝珠は、私をさらに抱き締める。


「私は、こんなになるのに、我慢しろと言われるのか?喜与恵は、ならぬのか?」


「意地悪。私だって、こんなにくっつかれたらどうにかなる。」


「かわいいな!でも、これは喜与恵が記憶をとった結果だろ?」


「皆さんの事も思い出して欲しくなった。宮部さんとの約束も叶えて欲しかった。そして、二人でまた幽体を救って欲しかった。だから、戻したかった。本当は、嫌だったんだ。もう、いいから帰ってよ」


私は、宝珠を押した。


神社だって、忘れていた。


「じゃあ、一緒に帰ろう」


「無理です。」


「何故、一緒にいれないと言うのだ。」


「いたら、宝珠を欲しくなるからです。」


私は、そう言って部屋にもどろうとしたのに腕を引き寄せられて、また抱き締められる。


「私だって欲しいのだ。だから、一緒にいてくれ。お預けをくらうのは、私も同じだ。」


「宝珠」


私は、宝珠の気持ちを忘れていた。待てと言われて、待ち続けるのは、宝珠も同じなのだ。


「帰って、Blu-rayを見よう。」


「しんの最新作ですね」


「うん!【待てを言われた僕達は…。】見ようよ。ヒントがあるかもよ?私達の恋愛と同じだと思ったから買ったんだよ。」


「宝珠は、本当にしんが好きですね。」


「大好きだよ!」


「記憶がなくても、見てましたもんね。」


「えっ?そうなの?」


「はい、見てましたよ。レンタルして」


「あー。あれは、宮部さんに貸したんだ。身体に染み付いちゃったのかな?それぐらい、見ていたから…。」


「かも、知れないね」


私は、宝珠に笑いかけた。


「じゃあ、帰ろう。早く荷物持って」


「わかりました。」


私は、キャリーバッグを部屋から取り出した。


宝珠は、それを奪って歩いていく。


「また、明日。気をつけてね。喜与恵」


「巫女さん、いいのでしょうか?」


「よいではないですか、望み通り一緒にいれば…」


「でも…。」


「人形師に頼めばどうですか?」


「したくなったら、ですか?」


「昔、誰かがそうしたと聞いています。あの人は、プロです。それに、あの人の人形は生きてる人と変わらないでしょう?もしも、辛いなら頼みなさい。それでも、宝珠と居たくて堪らないのでしょ?私は、喜与恵の母ですよ!全てわかっています。」


巫女は、私の涙を拭ってくれる。


「では、また明日」


「はい、お気をつけて」


深々と頭を下げた。


外に出るとぶぅたれた顔をした宝珠が待っていた。


「ごめんね」


「別に、いいけど…。行こう」


「あのさ、話かわりすぎるんだけどね。成木さんに紹介するのって私だったんだよね?」


「あー。明後日だね!」


「えっ?何が?」


「成木さんに紹介するの」


「やっぱり、私を…」


「なわけないだろ?」


宝珠は、車のトランクに私のキャリーバッグを乗せた。


「だったら、誰を?」


「明後日になったら、わかるから…。喜与恵は、心配しないの」


「いつ、そんな約束をしたのですか?」


「記憶がもどって、連絡先を見てた時にね。それで、今お付き合いしてる人を聞いたらいないって言ってて!むしろ、怖くて作れないって言われた。それは、勿体ないと思ったから約束したんだよ!」


「宝珠は、優しいですね」


「そうかな?優しくは、いたいとは思うけどね」


駐車場に車を停めて、助手席を開けてくれる。


「ありがとう」


キャリーバッグをおろして、車を閉める。


キャリーバッグを押してる。


最初に比べたら、今の方がいい。


私は、宝珠の腕に腕を絡ませた。


「なに?」


「私のもの」


「見た目がおじさんだったら、キャーって叫ばれてるよ」


「酷い」


能力者は、驚く程に若い。


しかし、体力は衰えていく。


宝珠は、家の鍵を開けた。


玄関で、すぐに私を抱き締めた。


私と宝珠は、その日一緒に眠った。



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