初めてと…今

涙がとまらなくて、止められなくて…。


「食べてみてもいいですか?」


宝珠ほうじゅは、ビックリした目を私に向ける。


「今日は、さわるだけにしよう。」


宝珠も恐れているのがわかった。


「はい、勿論ですよ。」


私は、宝珠の目を見つめて頷いた。


「ぁぁっ、喜与恵」


「気持ちいいですか?」


「うん」


宝珠は、私を見つめてくれる。


「喜与恵、私もやってあげるよ」


そう言われて、宝珠にさわられるだけで身体中が熱を持ち出す。


「私の目を見て、喜与恵」


「はい」


照れながらも、宝珠の目を見る。


そんな風に、不器用に手探りで、私と宝珠は愛し合った。


「喜与恵、よかったよ」


「私もです。宝珠」


好きな人との初めてが、こんなに嬉しいものだとは思いませんでした。


それからは、もう私と宝珠は猿みたいでした。


しかし、身体は歳には勝てません。


一日中、家にいる宝珠と働きだした私とでは体力が違いすぎます。


求められて、こたえる方に変わりました。


リバーシブルの意味がわかりました。


.

.

.

.


「喜与恵、どうしたの?何か、考え事?」


「二人で過ごした日々を思い出していただけだよ。」


「もう、喜与恵と同じ家に住めないんだよね!神社から引っ越したら?また、家にくる?」


「行くわけありません」


「どうして?」


「わかってるくせに、聞かないで下さい」


「ごめん。意地悪しちゃったね」


キャラが変わりすぎて戸惑う。


もっと、三日月宝珠はお堅い人だと思っていた。


なのに、記憶を失った三日月宝珠は、お堅い人ではなかった。


そして、記憶を取り戻してからも私にはお堅い人ではなくなったのだ。


「喜与恵、怒ってるの?」


「別に、怒ってません。」


「あっ!!わかった。宮部さんと話してたからヤキモチ妬いたんでしょう?」


「それは、ありません。」


「どうして?」


「宮部さんは、宝珠を好きじゃないですから…。」


「最初からわかってた?」


宝珠は、寂しそうに目を伏せた。


光珠こうじゅさんの事ですか?」


「見せてもらったから、二人の事」


「そうでしたか…。」


「安心だった。光珠なら、許せた!任せられると思った」


「その通りでしたね」


私は、ニコッと笑った。


「それでも、私ならよかったのにと思った瞬間はあったんだよ。」


「そうですよね。」


「でもね、見た時に気づいたんだよ!あー。私といるより宮部さんは幸せだってね。宮部さんをあんな風に笑わせてあげられるのは、光珠だからだね」


「分身みたい。私は、幼き頃からそう見えていた。宝珠と光珠さんは、二人で一つみたいだと…。」


「私も気づいていたよ。大きくなった光珠が、私を宝珠と呼び慕った時から気づいていた。この子は、私の分身のような子だと…。能力が、強くなっていくにつれてさらにそう思った。」


宝珠は、私を自分の腕の中に引き寄せた。


「喜与恵、だからこそ、喜与恵は取られたくなかった」


「何を言ってるの?」


「あの子は、私の真似をした。だから、真理亜は会わせなかった。そしたら、真理亜に似た幽体を見つけてきた。だから、喜与恵だけは取られたくなかった。でも、喜与恵はあの子になびかなかった。幼いあの子に嫉妬するなんて、私は馬鹿だったんだよ。」


「宝珠…。」


「宮部さんを、諦めると決めた瞬間から喜与恵は失いたくないと思った。私は、嫉妬深い人間だ。喜与恵を誰にも渡したくない。喜与恵も、そう思ったのだろう?」


私は、目を合わせないようにした。


「ちゃんと、自分の口で言ってごらん。」


「私も、宝珠を渡したくない。」


ボロボロと涙が、流れ落ちてくる。


「よく、言えたね。」


私の髪を撫でてくれる。


「掃除の仕事は、もうすぐ終わりだろう?」


「はい。こちらにもどってくるので」


「そのまま、人として生きればよかったのではなかったか?何故、記憶を戻したのだ?」


宝珠は、私の目をジッと見つめる。



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