取材二日目

レコーダーの話

朝、神社にやってくると三日月さんと案内人さんは、来ていた。


神社に辿り着けるのは、光珠こうじゅさんの能力のお陰だった。


「おはようございます。」


「おはようございます。」


私は、三日月さんに頭を下げた。


ボイスレコーダーに入っていた話を聞きたかった。


「三日月さん」


「はい」


「ボイスレコーダーに入れてくれていた、占い師さんについてお話を聞きたいのですが…。いいですか?」


烏丸からすまるの話ですね。これは、子を宿せない方にとってとても、辛いお話になりますが、いいでしょうか?」


「はい、真実ならばきちんと書きます。それは、三日月さんが聞いてきた真実なのでしょう?」


「はい。そうです」


「それなら、今日はそちらからお願いします。」


私は、宮部さんを案内する。


宮部さんは、ボイスレコーダーを再生する。


「では、今日は烏丸のお話から始めましょう。」


.

.

.

.


「子宝の縁、ないですよ。」


私が、占い師として、働き始めて6年が経った頃、隣から聞こえた声に驚いた。


泣き崩れながら、夫婦は帰って行った。


「あの、酷いですね。」


「何が?」


「今のです。子宝の縁がないって何ですか?」


「はあ?あんたさ!見えてないんだろ?俺には、見えてんだよ。化け物の目をもらってるから」


眼帯を外した目は、まっ黄色だった。


「それでも、占い師ならば期待を持たせる言い方や、優しい言い方が出来ないのですか?」


「あのさ、三日月さん。あの人達が、何で俺の所に来たかわかってる?」


「それは、少しでも希望を…」


私の言葉に、烏丸は怒鳴り付ける。


「あんたには、わかんねーのか!あの二人は、希望ばっかり与えられて疲れたんだよ。あんなに、肉体もボロボロになって!一言、無理だって言って欲しかったんだよ!自分達じゃとめられなかったから」


私は、その言葉に固まった。


占い師なら、希望を与えるべきだと思っていた。


「あんたが、俺より人気がない理由は優しすぎるからだよ!化け物になった俺にはわかる。縁がなければ無理なんだ!」


「そんなもの自分で引き寄せればいいものではありませんか?」


「引き寄せる?フッ」


烏丸は、鼻で笑った。


「細い縁を引き寄せた所で、幸せになれんのか?流産、死産、暴力、虐待、同性愛者、殺人。あんたも、能力者の端くれならわかるだろ?無理やり引き寄せた縁など、簡単に切れる。苦労するのは、引き寄せられた子供なんだよ」


睨み付けられた目に怯んだ。


「知ったような口を聞くな」


私の言葉に烏丸が、また怒鳴り付ける。


「知ってるんだよ!俺は…」


「どういう意味ですか?」


「俺は、烏丸家からすまるけの世継ぎとして、不妊治療の末に授かった子供だ!」


「そうなのですか!!」


「俺はね、不妊治療が悪いって一言も言ってないよ。やりたいなら、やればいい。でもな、俺はな。生きづらかった。無理やり繋げられた縁だったからだと化け物に言われた。俺は、ずっと自分の中から沸き上がる黒くてドロドロした感情を消せなかった。化け物に言われた。歪な魂を繋げ合わせ手繰り寄せた細き縁。それが、お前だと…。」


私は、烏丸の言葉に泣いていた。


「だからかぁー。妙に納得したよ。だって、俺、物心ついた時から家族全員殺したかったんだ」


その言葉に、胸が痛みだした。


「殺さずに占い師になったのか?」


「違うよ!化け物にあげたんだよ。目玉と一緒に、俺のドロドロを…。両親とは、絶縁した。従兄弟の子供が烏丸家を継いだ。それでよかったんだ。そうじゃなかったら、俺はあの家を全滅させていたよ。治療が悪だとは言わない。ただ、俺のような人間が産まれおちる可能性を少しでも考えて欲しい。わかってほしい。ただ、それだけだよ」


烏丸は、そう言うと涙を一筋流した。


「生きづらかったな。ずっと、ずっと、心が変でグチャグチャしてて。だから、俺の元に来る人にはちゃんと伝える。縁がないって!それを、三日月さんにとやかく言われたくない。俺はね、刺される覚悟持ってやってんだよ!わかる?」


烏丸の言葉に、やめろとは言えなかった。


私は、宮部さんを見つめる。



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