第6話 2人の旅は続くよ。ずっとずっと。
「う、うわぁ…………。」
目の前は伐採された樹と真っ二つになった魔物でいっぱい。練の顔面は真っ青。
(どうしよう、とてもまずい……!この先にもし人がいたら俺は…………)
妄想開始。
「金子練だな?大量虐殺の疑いで拘束する!」
「やめろっ!違う!やってない!」
「お前がやったって魔力の残滓で分かるんだよ!!オラッ!立てッ!!」
「さ、君。危ないからこっちにおいで。」
「おい!!ルミナに触んな!!!おい!!!!」
「オラッ!暴れんな!!大人しくしろ!!!」
「ルミナ……クソッ…………ルミナァァァァァァァァァ!!!!!!!!」
妄想終わり。
(……なんてことになりかねない……!!
でもこの先に行けば人と会えるかも……?いつまでもルミナに洞窟暮らしをさせる訳にもいかないし……ルミナを連れてこの先へいくか……?)
なんて葛藤しているうちにも『ウィンドスラッシュ』は夜の森を突き進む。
ドドドドド
「おい、何か聞こえないか?」
「いいや?」
ドドドドドドドドドド
「やっぱり聞こえるよ!」
「やっぱ俺も聞こえたわ。」
そして爆発音────轟音が目の前の大木をザワザワと揺らし、ようやく奇妙な音は終わりを告げた。
「「へ?」」
そして、突然の出来事にポカンとしている二人の衛兵を、ウィンドスラッシュの残り風がなでる。
(……魔力……!?)
ほんのり感じる魔力。つまりこれは、この恐るべき攻撃はすべて『何者かの手により発動した魔法』ということ。
「お、おい。見ろよこれ……!」
同僚に促され指差した方を見ると、大木に大きな斧で付けられたような傷があったのだ。
つまり……丁度二人が立っていた位置の真ん前にあったこの大木が受け止めてくれなかったら……目の前の薙ぎ倒された木々と一緒に…………!
「ほ、ほ、報告だ!」
「そ、そうだ報告しよう!」
そうして二人の獣人の衛兵は上に報告するため夜の道を走り抜けるのだった。
さて、時は夜明け。
「それじゃいくぞ!ルミナ、手を繋いでくれる?」
練はそう言いながらルミナへと手を差し出す。
どうやら、この殺伐とした新鮮な道を進むことに決めたらしい。
『はい、パパ!いつでもいいよー!』
何一つ疑う素振りを見せず、その手を元気に握る。
そんな様に感動し、溢れ出そうな涙をぐっと堪え、
「よし!じゃこの先へ『移動』!」
元気よく『鍵』となる言葉を叫ぶ。
(これは考案者俺、使用者俺の素晴らしい技だ!その名も練金転移!ある程度の情報……目で見えてたり、場所に地名とかがあればそこまで一瞬で移動可能ッ!!!)
そう、地名さえあれば。つまり……
(戻れちゃったんだよな……日本に。)
話は、昨日の晩に遡る。
錬金術をどう扱えばいいのか、試行錯誤していた時のことだった。
「では、ゴホン日本の我が家に『移動』!!」
────日本。金子宅、練の部屋。
時刻は夕方。たった数日離れていただけなのに懐かしく、何故か寂しさも感じる。
軽い気持ちだった。絶対失敗すると、そう確信していたのに成功してしまった。
「……とにかく……戻ってこれたのか。」
取り敢えず練は、家の外へ出ることにした。
暖かな食事が置かれたままの家には、何故か誰も居らず、扉という扉が開け放たれていたからだ。
「全く……空き巣にでも入られたのか?」
……と、呟きながら歩いていると、遠方に見知った顔の初老の男性が見える。
(……あれは、先生。)
真太朗先生。和やかな笑顔が評判の良い先生で、練の担任だ。
学校をサボっている(少なくとも練はそう思っている)という罪悪感を感じながら、軽い会釈と共に挨拶をする。
「こんにちは。」
しかし、返答はなかった。
仲が良かったとは言い難いが、悪くもなかった先生からの一方的な無視。
思わず、通り過ぎた先生の肩に手を伸ばす。
「ちょっと!先生!」
スカッ、そんな擬音が正しく似合う空振り。
練の手は先生を煙のように貫通した。
まるで幽霊。いや、まさにと言うべきか。
「……そういうことか」
そして、理解した。
恐らく、日本に帰るためにはまだ何かが足りていないのだ。
「……かーえろっと、異世界の我が家に『移動!』」
そして視界は暗転する。
身体にかかる重さが心地良い。まさしく『生きている』という感じだ。
(ま、何でも簡単に解決とはいかないか。)
彼はそう心の中で呟き、軽い挫折を吐き出すようにため息をついた。
そして、何となくで眠っているルミナの頬をつつく。
『むにぁ…………やぁあ……や…………。』
「ヌ゜ピ!!!!!!!!!」
あまりの可愛さに鼻から噴水。いや、噴血。
一瞬で貧血気味になり、地面へと倒れ伏す。
キッショ。
……さて、悪い血を出して冷静になったのか、練は星空を見上げながら呟く。
「……まずは、日本に帰るために必要な『何か』を見つけないとな。」
それは、漠然とした目標。何故そう思い至ったかも分からない。けれど、やらなくちゃいけない。そう思うのだった。
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