第3話 なんか生き延びたけどロリコン認定されたわ

「金子練…邪神の遣いの始末が終わりました。」


静寂を破り、騎士が台詞を吐く。

さっきまで、おっさんで賑わっていた部屋にはもう、王とエティアルの2人しか残っていなかった。


「おおエティアルよ、よくぞ戻った。

実は今日アビス様から神託があってな『もう一度召喚の儀を行え』……とな。

アビス様に刃向かう獣人どもをまた集めなければいかんなぁ?」


まるで、「やってくれるよなぁ」と言わんばかりのその台詞に、エティアルは目を閉じ、膝をついたまま答えた。


「お任せください、王よ。」


「おお!行ってくれるか、エティアルよ。」


非常にワザとらしくそう告げた。

確実にこいつの支持率は最悪だ。

それでもこいつが王なのは、この世界に支持率という概念がないからだ。そうに違いない。


「仰せのままに。」


なんの嫌気も見せず騎士団長が答えた。

そのまま命令を遂行しようと、立ち上がり振り返った騎士に、更に王は声をかける。


「それにしても…獣人は馬鹿の集まりではないのか?アビス様を信仰せず、邪神である悪戯の女神トレイアばかり崇めおる……そう思わぬかエティアルよ。」


「ええ、王の仰る通りでごさいます。」


振り返らずに、エティアルはそう答えた。

王が目を細める。


「…そうか、それでは頼んだぞエティアルよ。」


「ハッ…全ては為……」


王の舌打ちに、エティアルは聞こえないフリをし、その場を後にした。




それは、高さ100メートルはあるであろう崖の下での出来事だった。


「う…………ぐ…………、」


木々の隙間から射し込む木漏れ日が暖かいと同時にうざったい。


「眩しっ……って、ん?あれ?……もしかして俺、生きてる……のか?

どういうことだ?」


ここが天国という可能性も捨てきれないが、一旦生きていると思うことにする。


(俺は確か……あいつだ、エティアルに落とされて……。)


軽く首を振って、ゆっくりと目を開く。

そして、付近をを見渡すと自分を中心に周りが真っ赤に染まっていた事に気付いた。

比喩でもなんでもなく、血の池に練はポツリと座っていたのだ。


「こ、これ、まさか俺の血?……でも身体は痛くないし、背中の傷も治ってる……?」


何故生きていたのか、どうして自分が五体満足なのか、しばらく考えたが、一切答えは出てこない。


「うーん……今そんなことを考えても仕方ないか。

とにかく、雨風を凌げる場所と水を探さないとな。」


そうして彼はこの場から立ち去る。

後はギラギラとした太陽が、まだ真新しい血溜まりを照りつけるだけだった。



さて、時計の短針が少し動いた頃────つまりは1時間程が経過したときのことだった。


「おっ……アレはもしや!」


練は、遠くの岩肌に不自然に暗い所を見つけた。

近付くと、そこは予想通り、浅い洞窟のようになっていた。


「取り敢えず入ってみるか。」


小一時間程度歩き続けた成果の中に入ってみると、周りの壁がほんのり光っていて、ここが異世界である事を再度突きつけられたようだった。


「涼しくて快適ぃ!よっし、洞窟なら寝泊まり位はできるかな?」


涼しいというよりむしろ冷たかったが、外は暑かったので丁度良いくらいだ。

そのまま壁に沿って歩いていた練だったが、どうやらあまり広い洞窟ではなかったらしく、十秒程で洞窟の行き止まりに着いてしまった。


「ん?これは……」


洞窟の奥には少し生活感を感じるもの、机と椅子などが置いてあり、その中で1番練の目を引いたのは、大きな楕円形の卵のようなものだった。


「どういう状況だこれ……。」


よくみると机の上には手紙があったが、洞窟の明かりでは暗くて読めない為、練は外へ向かい、手紙を読み始めた。


「ええと、なになに……

『我が同族よこれを読んでいるとき私は死んでいるでしょう』いや俺人間や。

『奥にいる子の名前は決まっています、ルミナと呼んであげて下さい、月の女神ルナからとった名前です』……これもしかしなくても月の女神さん日本人だろこれ絶対!

『どうか大切にしてください』

……で終わりか、机と椅子と…………後は卵しかなかったけど……。」


そう言いながら洞窟に入りなおすと、

パキ!パキパキ!……と、何かが割れる音がした。

練は「なんか聞こえるなぁ〜」と、呟きながら歩みを進めていたが、洞窟の奥に辿り着いてようやくその音の正体に気付いた。


「あぁ!卵か!」


呑気に「ぽん」と手を打ち鳴らし、そして逃げようとして盛大にこけた。

運動音痴の本領が発揮されてしまったのだ!雑魚gg。


「あいって!くそぅ!日頃から運動しとくべきだった!」


これ、遺言です。

バキィ!そして遂に殻が完全に砕け散った音がした。

ATK10で運動音痴の彼にはもうなにも出来ない!

あぁ一貫の終わり。あぁさようなら。


「うわぁぁぁぁぁぁ!!!」


──you are died──


『うぬゅう!』


さてさて、卵の上半分が消し飛び、そこに姿を現したのは圧倒的幼女!

一切の穢れを知らない、圧倒的透明感の幼女!!

どっからどう見てもすっぽんぽんの幼女!!!

その長い髪は洞窟の僅かな灯りの中、まるで自ら発光するように輝いていた。

さて、クッソ無様な体勢でその幼女にご対面した主人公くんは、その声を聞きゆっくりと目を開ける。


「…………うぬゅう?」


書き慣れない声に主人公くんは困惑していらっしゃるようだが、それはこの卵っ娘も同様!!


「『…………!』」


お互い、お見合いの場で二人きりにされた時のように黙ってお互いの事を見つめていたが、卵の殻から顔を覗かせたまま、この生まれたばかりの幼女は遂に、主人公の性癖を目覚めさせる、ある一言を放ったのだった。


『パ……パ………?』


ズギュゥゥゥゥン!! 練の心にクリティカルヒットした。つまり心肺停止。エティアルさん良かったね!始末成功!!


『称号:ロリコンを獲得しました』


だってさ、主人公ロリコン

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