第2話 裏切り?追放?そんなのあるワケないじゃーん!
「ゴ、ゴホン、それでは自己紹介を……
私はカルス・アビル11世と申します。」
さて、その国王と名乗る男性は、言葉遣いに反して明らかに悪人面。頑張って柔和な笑顔を作ろうとしているのが尚更キモイ。
具体的には下心丸出しの豚貴族って感じの、なろう系主人公がいかにも目の敵にしそうなおっさんだった。
「あ、はい、えっと…俺は金子練っていいます。」
一方この男(一応主人公)は…………
(無かった事にしてくれた……えっ?異世界の人っていい人じゃん!
でもこの王様ビジュアル的に言うと悪役なんだよな……丁度主人公のヒロインにエッチな事しようとする奴みたいな……。)
……くだらない事ばっかり考えていた。
なんで主人公やってんだろうねこいつ。
さて、いつまで経っても挨拶はしないわ、ぶつぶつキモい独り言するわ……とにかくそんな練に、おじ…王様が話しかけた。
「あの勇者様失礼なのですがこの水晶に触っていただけませんか?」
テンプレ的に考えれば恐らく、その手に持っている水晶はステータス鑑定の魔石かなにかだろうと推察できるが…………一応、彼はかしこい(笑)ので聞いておくのだ。
「これは?」
「これはステータス鑑定の力をもつ神提石です。ステータス鑑定の効果をもつ魔石に、我らの神が加護を下さった物です」
「そうなんですか、それでは早速……。」
予想が当たって気分が良くなった練は、疑うことなくその水晶に触れる。
「我らの神がこの地に遣わす勇者には、『勇者』というスキルと称号が発現します。
さあご覧下さい!あなたのステータスに……も…………?」
そして彼らは……いいや、この場にいる全員は驚愕することになる。
──────────────
名前:金子練
種族:人族
職業:勇者
ATK:110
DEF:115
SPD:123
INT:225
MIN:205
DEX:250
LUK:125
HP :250
MP :475
スキル:錬金術 試練 言語理解
称号:運動音痴 異世界人 廻魂神の加護 勇者 悪戯神の加護
──────────────
……勇者の癖に攻撃力が低いとか、明らかにステータスが後衛向けとか、スキルの統一性のなさとか、そういったことよりも。
……スキル欄に『勇者』の記述がないことに驚愕していた。
「……!?…………きょ、今日はお疲れでしょうからゆっくりお休みください。」
「……あ、はい。」
練は促されるまま案内された部屋へ入り、自分の中に産まれた違和感を消化できず、その場を歩き回りながら考え事を始めた。
そして、ステータスの詳細を確認してなかった事を思い出し、「ステータス」と小さく声に出す。
すると思った通り、半透明の板が目の前に現れた。
〜 れんくんのステータス確認のコーナー 〜
錬金術:
(何にも書いてない…?どういうことだ?後で解放されるとか?
……それにしても錬金術って……勇者が使うスキルじゃねぇだろ。)
試練:悪戯神が課した試練を突破すると、任意発動型のスキルを1つランダムなスキルに変更する。
スキル変更……まさかこれが原因かよ!誰だよ!悪戯神って!……お、落ち着け、神様に怒ったってしょうがない……次だ!次を見よう!
言語理解:言葉の意味が理解できるようになる
これが一番のチートかもしれない説あるぞ、動物の言葉が……いや、古代のルーン文字が読めたりとか…………流石にないか。
(……ま、いいや、次は称号だ。)
運動音痴:体を動かす行為がステータスの高さに問わず中確率で失敗する。
(う……ノーコメント…………。)
異世界人:異世界から来た者(ステータス全てに+5)
廻魂神の加護:廻魂神の加護を受けた者(称号:勇者を得る)
勇者:自身が勇者である証(職業:勇者、スキル:勇者を得る
ステータス全てに+100)
(あれ素の俺の攻撃力低すぎ?嘘だろ?5しかねーじゃん。もうちょい運動しとくべきだったか……?)
悪戯神の加護:悪戯神の加護を受けた者(スキル:試練を得る)
「あ〜…………なんかめっっっちゃ疲れたわ。」
様々な事があり、精神的に死ぬほど疲れた練は、そのままベットで眠る事にした。
食事も忘れ、ただ泥のように眠った。
そして、朝起きると玉座の間へと案内された。
王様から話があるらしく、左右には大量のおっさんが控えていた。
(……なんでこう見事にキッショいおっさんばっかり集められるんだ……?王様には悪いけど逆に疑問だわ。)
「よく来てくれた金子練よ。昨日聞きそびれていたが……世界を魔王から救ってくれるのだな?」
聞くまでもない事を王が練に聞く。
当然、考えるま
でもないことなので、「はい」と、少し食い気味に答えた。
「ありがとう…………それでは早速彼……騎士団長エティアルと共に北の森へ向かってくれないか?」
王の右隣に控えていた、騎士団長と呼ばれた男が前に出る。
白銀の鎧に、宝石が散りばめられた鞘、更にすごくイケメン……なだけではなく、その身に纏う雰囲気だけでも強そうだった。
「わかりました!」
そんなことがあり、彼はエティアルと北の森を歩いていた。
そう、探索ではない。散歩だ。レベリングと言っても過言ではない。
「いいですか?魔物を見たら、騒がず、焦らず、私に教えてください。いいですね?騒がず、焦らずですよ?」
「はい…………。」
戦力外通告────練の素の攻撃力の低さやら運動音痴やらが嫌な方向に噛み合った結果だ。魔物を見つけて颯爽と駆け出したはいいものの、ズッコケて魔物に袋叩きにされたり、剣をやたらめったらに振り回して息切れしたり…………もう散々だった。
最初はにこやかにこちらを見守っていたエティアルが、段々と苛立ちを隠せなくなるほど酷かったらしく、小学校の遠足で引率する先生くらい口酸っぱく、エティアルは練の自由行動を咎めた。結果、練は拗ねた。
「どーせおれなんてー…………。」
そんな練を見かねてか、エティアルが練に耳打ちをする。
「レンさん、見えますか?あそこに魔物が……!」
練はエティアルさんが指を差した方を向いたが、そこにはなにもいなかった。
失敗はしたくない。擬態でもしているのかと思い付き、ゆっくり注意深く観察する。
「ッッ!グァッ!」
突如、叫び声が森に木霊した。聴き覚えの無い声、魔物だろうか。驚き、周囲を見渡し、そして、じわりと、自分の身体に痛みが広がる。
……つまりは、その声を発したのは魔物ではなく俺だったということだった。
自覚すると同時に、
「ぐぉおああああ…………ッッ!!!」
痛みにもがき、のたうち回り……ふと、エティアルさんの剣が血の色に染まっていることに気付く。
「……まさか……?エティアルさんッ!なんでッ!」
意味が分からなかった。自分は世界を救う為に召喚された勇者で、世界を救うためにここから努力して、ここから────
「本当に邪神の遣いだったとはな!金子練!!」
血が滴る剣を此方に向けたまま、エティアルは声を張り上げる。
「え……?」
「は?…俺が邪神の遣い?」そう小さく呟くが、頭に血が上った彼には聞こえなかったようで、
「そんな顔をしても無駄だ、昨日アビス様から神託を頂いたのだ、貴様が邪神の遣いだとな!」
怒りに震えた声でエティアルはそう叫ぶ。
(アビス様?どういうこと?なんで?)
考えを走らせる間にも、身体中からどんどん血が失われていく。頭がぼやけて何も考えられなくなる。
そして、指し示したように無機質な声が頭に響いた。
『廻魂神の加護を失いました
それに伴い職業が錬金術師、勇者の称号が消滅します。』
そういえば今日王様は俺のことを「勇者様」と呼ばなかった。
────何かが変わったからだ。
そういえばアビスは突然叫んだら驚いた。
────心を読めるのにだ。
(そもそも、アビスは俺を騙していた……?
俺は勇者なんかじゃなかったってことか?
いや……本当に世界を救うために俺を呼んだのか?俺みたいな運動音痴を?)
『試練を達成しました:アビスの支配を振り切る
称号:錬金術師を獲得しました』
「アビス……深淵……!?名前通りならあいつこそ邪神じゃないか!何故気付かなかった!?
……クソッ!これも支配のせいか!」
論理こそ破綻していたが、それは練の曇った思考に穿たれた光だった。
不思議と頭が冴え始めるが、それは少し遅かった。
「支配?邪神?…………ふん……貴様の戯言になど!!」
エティアルの刺突が練の肩を貫く。
痛い。ドクドクと心臓の音が煩くなる。
しかし、練は裏切りと最初の痛みで極度の興奮状態。動ける。まだ身体を動かせる。
「ぐ……ぉ…………絶対許さないぞ…………アビス!アビス!!アビス!!!アビスアビスアビスゥ!!!」
『試練完全達成により錬金術が使用可能になります』
頭に流れる無機質な声にも気づかず、吠える。叫ぶ。
「黙れ!邪神の遣いめ!」
エティアルが俺に蹴りを放った。
勇者の力の一切を失った彼に防ぐ手立てはない。
「グハッ!クソがっ!!俺は……信じていたのに!!!」
完全にヤケクソ気味に、相手を見もせずに拳を放つ。
「…………力がないというのは、悲しいな。」
エティアルの鳩尾に確かに拳は命中したが、2人にはレベルにして100以上の差がある。
隙を晒すだけ。全くの無意味だった。
「ぐぉ……ッ!」
エティアルの嬲るような蹴りに吹き飛ばされ、落ちて、転がる身体。
……その身体は地面で止まることはなかった。
「あっ。」
ぐるぐる回ったその視線が捉えたのは……崖。
そして見下すようなエティアルの視線。
(落ちた…死ぬ?嫌だ!死にたくない!)
そんなことを考えても身体は重力を……落ちる感覚を……恐怖を伝える。
「……邪神の遣い。呆気なかったな。」
(嫌だ!死にたくたい!嫌だ!嫌だッ!なんでこんなとこで死ななきゃいけないんだ!………そうだアビスのせいだ…アビスのっ!!)
「アァァァビィィィスゥゥゥゥゥゥ────ッッッ!!!!」
(嫌だ…………死 に た く な
グシャ。
死んだ後も、少し意識が残るというのは、どうやら本当らしい。痛みも、苦しみもない。ただ、身体の端が、じわじわと寒くなり、凍っていくようで、残酷なほど寂しかった。
(『死にたく……な………い………』俺は…………まだ……ッ!)
「……死んだか。あそこから落ちて生きているハズがない。」
高さ100mは優に超える崖。ここからスキル無しで生き延びるのは自分でも骨が折れる。
だからこそ、あの邪神の遣いとやらは死亡したと確信した。
「…………もし生きているなら、本当に邪神の遣いだったのだろうな。」
そうボソリと呟き、エティアルはその場を後にした。
そして、一人しかいない空間に笑い声が響いていた。
「あの女神が加護を与えたから少しはしぶといと思っていたけど……あっさり死にすぎでしょ?」
先程の神々しさからは想像出来ない、これが本音だとは信じられないほどかけ離れた言葉。
そして、光では照らすことすら敵わないその漆黒のオーラは、正しく邪悪、正しく邪神、正しくラスボス。
「さて次の勇者様でも呼びますか。」
そうして、彼女が覗き込んだ水晶に映し出されたのは……日本の街角だった。
「今度はちゃんと強いコを呼ばないとね?」
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