見ちゃだめよ♡

っていうビデオが、廃墟に落ちてたんです。



気になるじゃないですか。

当時中学生の俺達からしたら宝物を見つけたような気分でしたよ。

早速、そいつの家まで自転車でダッシュしてデッキに挿入しました。


ノイズが酷いし音がないんですけど、とりあえず見れました。

ボワーンとした雰囲気で、なんか昔の?感じの髪型の女性が笑顔で現れて。

椅子に座ってインタビュー、だと思うんですけど、微笑んで頷きながら、何かを喋ってるっぽいんですね。

で、ピンクのテロップでスリーサイズが出てきて、水着姿のいろんなポージングが出てきて、なんか、いい感じだったんで。

俺とそいつで肩組んで、やったな!って達成感?優越感?みたいな気持ちになって興奮してました。


そしたら、パッと黒い画面になっちゃって。







っていう白い、手描きの筆っぽい一文字が表示されたんです。


は?ってなって。


そしたら、急にホームビデオみたいな、どこかの男の子の顔アップになっちゃったんですよ。


なんだよ⁉︎ と。

釣りか⁉︎ みたいながっかり感に、俺もそいつも苛まれました。

その男の子の顔アップが出て、なんかレゴかなんかで遊んでる映像なんですよ。

しかもテロップが出てきて。

しょうごくん (4才)って。

なんていうか、昔のドリフとかで使われてたような白い太い、丸文字みたいなやつ、分かります?

そういうのでしょうごくん(4才)ってテロップ差し込まれているんですよ。

ホームビデオでテロップ入れるって、ちょっと凝った作りしてますよね。

どうみても、1980年代みたいな映像の古さを感じるんですけど。

なんか俺は、まだ諦めきれてなくて。

もうしばらく見てみようって思ったんです。

あ、そいつは見てないです。

だまされたーって言って興味失って、寝転んでエアガンの雑誌を読み始めてましたから。

俺は頑張って見てたんですよ。


でビデオはその、しょうごくん(4才)がおもちゃで遊んでる場面が続いて。

パッとコマが変わると今度は、オレンジ色の花柄っぽいテーブルで前掛けしてご飯食べてて。

その次のコマでは、お庭か公園か分からないですけど、なんかそんなような所をよちよち歩いてて。

って感じの、よくある子供の記録ビデオっぽいのが続いたら、パッとまたコマが変わって、今度は中学生の男の子が映ってて。

しょうごくん(14才)ってテロップが入ったんです。

学生服着てカメラに向かって、スペシウム光線っぽいポーズ取ってるんですけど。


あ、もうこれは完全に、どっかの子供の記録ビデオだと絶望しまして。


しょうごくん(14才)が海で遊んでる映像とか、河原でバーベキューしてるのとか、蝉をカメラにドアップにして見せてるのとかが続いてましたしね。

なんだあ、って思ってビデオを停止しようと思ったんです。


するとまた。

パッとコマが変わって、コンクリートの建物?工場?みたいなのが出てきまして。


その入り口に向かってカメラが進んでいくんです。


なんか今までと雰囲気違うって思って、つい見ちゃいました。

たぶんもう使われていない工場っぽいんですけど。

色々な機械や器材が並んでるんですよ。

高い窓から陽の光がこっちに向かって差し込んでいるんで、全体的に暗いんですよね、逆光っていうか。

なんだろうなぁって見てたら、パッとコマが変わって。




首を吊っている男の子を、下から撮影する画面になったんです。




Tシャツ姿で、首から上が紫色になっている男の子。




しょうごくん(享年17才)ってテロップが出てきたんです。




慌ててビデオを停止しました。

いつの間にか寝ているそいつをたたき起こして、ビデオのことを説明して、今すぐ警察に持って行こうって言ったんですけど。

そいつ、全然信じないんですよ。

見てないってのもあるんでしょうけど、サスペンスものの一部とか映画の何かとか、そういうものの可能性だってあるだろうってやたら冷静で。

その冷静さが、なんか腹立ってきて。

上から諭されているような気がして気分悪かったんで。

じゃあ見てみろと。

リモコンそいつに投げつけて、もう知らねぇってそいつん家飛び出してきちゃったんです。

怖かったってのもありました、正直。

あのビデオのそばにいたくないみたいな、そういう気持ちもあって、家に帰ってきちゃったんですよ。

でも、家に帰ってからもなんか、ずっとモヤモヤしてて。

そいつからも何も連絡なかったし、なんとなく寝つきは悪かったですよね。


で、翌日になったらそいつ学校休んでて。


1週間くらいしたら出てきたんです。


気になって、事情を聞いたんですよ。


そいつ、学校終わったら家に寄れなんて言ってきまして。


その日、家に行ったんです。




そしたらそいつ、ビデオを見た、って。




しょうごくん、だけじゃなかったって。




そいつが見た所までに映っていたのは、4人。




あきえちゃん、とおるくん、まりなちゃん、きよしくん。




全員、4才、14才の映像が記録されてて、17才で亡くなっているという映像だったらしいんです。




亡くなっている場面も、血を流して地面に倒れている所や水を張った浴槽の中、布団に寝かされているだけとかで、でも必ず最後にテロップが入ったそうです。




(享年17才)って。




やっぱりそいつも怖くなって。

両親に相談して警察に持って行こうと思って巻き戻しをしておいたんだそうです。

でも、どうも間違って早送りしてたみたいで。

帰ってきた両親に見せようとしたら、自動で巻き戻しになって。

あれ?って思って、とりあえずビデオを再生したら、黒地に白い字で




 みんなおつかれさま

 たのしかったね

 うまれかわっても いっしょにあそぼうね

 ごめいふくをおいのりします




というテロップの映像だったみたいなんです。




その画面の異様さ、ヤバいっすよね。

両親も感じて、そいつが嘘ついてないことを理解したらしくて。

ビデオを警察に届けた、ってことでした。




後日、警察が僕のところにも事情を聞きに来まして。

ちょっとその時に話を聞くことができたんです。

っていうのも、やっぱり怖いじゃないですか。

その、ビデオを撮影した人間が、俺らに何かしにくるんじゃないかって。

俺ら大丈夫ですかね?って感じで、刑事さんに聞いてみたんです。

そしたら、大丈夫だと思うよって言って、説明してくれたんです。

まず、あのビデオ自体ダビングされたものでオリジナルじゃないだろうと。

アダルトビデオの外見は、あくまでエサで。

じゃあなんでそんな事をしたかというと、イタズラじゃないかって。


あのビデオと縁のある場所に、ビデオを置いて遊んでるんじゃないかって。


つまり、こうしてエサに釣られて拾った俺らみたいなのが怖がったり、それで警察が騒ぎ出したりすることを、面白おかしく眺めたいから置いているんじゃないかなと。

イタズラや暇つぶしに近い事だと思うから、君たちに危害を加えることはないだろうってことなんですね。

それで、ちょっと安心しまして。

聞いてみたんです。

あのビデオには、他に何が映っていたんですか?って。

それには、やっぱり答えてくれませんでしたね、ただ




全部見なくて良かったと思うよ、とは言われました。




最後に、周辺の巡回を増やして警備を強化するから安心して、と言ってもらえて。また少し気持ちが和らぎまして。

あ〜よかったって。

事情聴取が終わって、ベッドに横になってたんですけど。


そういえば何で、警備を強化するんだろうって思っちゃって。


ただのイタズラや暇つぶしで危なくないんだったら、巡回を増やす必要はないじゃないですか。


って考えてたら、あ、そうかって。


刑事さん、縁のある場所にビデオを置いているって言ってたなと。




俺らがビデオを見つけた廃墟ってたぶん、しょうごくんが首を吊ってた工場跡なんですよね。




映像では、使われなくなってまだ新しい時の工場だったから分からなかったんですけど。




それからしばらくは、生きた心地がしなかったですね。





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