呪いの研究室
僕の大学に「呪いの研究室」というのがあったんです。
老朽化が原因で、在学中に取り壊されちゃったんですけど。
敷地の外れにある研究棟地下の研究室がそうだといわれていて、呪われているとか呪われるとか、噂があったんです。
なんかその研究室で昔、追い詰められて自殺した研究者がいたらしくて。
それからその研究室を使った人が呪われて、体調を崩して入院したり大学を辞めたりしているってことなんですね。
確かにウチの大学、学生には優しいんですけど研究者や職員に厳しいんですよ。
給料安いし冷暖房あんまり使わせないし研究費ケチるしで。
ブラックキャンパスなんです。
で、同期でそういうの好きなやつがいて、ちょっと調べたんですよ。
金出さないくせに論文出せ出せうるさい大学側に追い詰められて、本当に実際に、研究者が自殺してるんじゃないかって思って。
まあ、自分が本当に呪われたらオッケー的な考えで確認しようとなって。
その研究室に頼んで入れてもらって、カメラを定点で準備して。
寝袋もって隣室から研究室内を撮影し始めたんです。
でも特に何も映らなくて。
隣室じゃダメかってなって、その研究室に寝泊まりまでして。
ずっと、何か起こらないか何か撮れないかってやってたんです。
その研究室はもう相当古くて、コンクリとかもヒビ入ってますし。
備品倉庫くらいの使われ方しかしてなくて全然現役じゃないんで、まあまあな時間そこで過ごすことができたんですけど。
でもまあ、結局何も起こらないってなって。
しかも、そこで研究者が死んだという事実がないって確認もとれたらしくて。
粘って粘って頑張ったんですけど、まあ、何事も起こらなかったと。
俺もちょくちょく差し入れしたり、そいつの活動を応援してたんで、少し残念ではありましたけど。
ただそいつ、その後本当に体調崩して、入院したんです。
慢性疲労症候群とか診断されて。
要するに、原因不明ってことですよね。
しかもそいつ、それから少しして、黙って退学しちゃったんですよ。
これ、呪いはあったんじゃね?って、当時の仲間同士で騒然となったんですけど。
なんかそいつと、連絡取りにくくなっちゃったってのもあって。
何か、ダンマリ決め込むっていうか。
「家庭の事情」とか「一身上の都合」みたいな理由だから詮索は勘弁してくれ的なことで終わっちゃいました。
呪いのせいだともそうじゃないとも言わなかったのが、何でだろうなぁとは思ったんですけど、なんか釈然としない着地でした。
病院にお見舞いに行った時は、いやぁ何も分からんかったぁくらいに笑ってて、元気そうではあったんですけど。
それからしばらくして。
そいつから写真が送られてきたんです。
データじゃないんですよ。
なぜか紙の写真が郵送で。
写真は数枚ありまして。
1枚だけ何かの計器を写したものと、あとはホルマリン漬けの何かとその標本のラベルでした。
だいぶ煤けて茶ばんだりした古そうなラベルには「1945/08/12」とか「1954/03/02」とか書いてありまして。
比較的新しいのでは「1986/04/15」とかがありました。
スクリュー缶には何かの組織切片が入ってたり魚?みたいなのが入ってたりしてましたかね。
あとはFとかブラボーとか、ブッダ?みたいな文字が書かれた番号とかタグとか、なんかそういう色々が映ってましたね。
正直、なんだこりゃ?と。
古い研究棟なんで。
たぶんそこにあったものを写してるんだろうなぁとは思ったんですけど、そう考えると特別珍しいものではないんですよね。
で、これが何?って思ってたら、一番下にあった写真の裏に
応援してくれたお礼。
でもすぐ処分してくれ。
興味を持ちすぎるとヤバいから。
って書かれてたんです。
え、なになに?
怖いんですけどって思って写真みてたら一巡したんです。
最初の、何かの計器が写ってる写真に戻ったんです。
いやなんか。
写真1枚1枚の意味とか。
なんでそいつが体調崩したのかとか。
急に黙って退学しちゃったこととか。
そいつが入院すると同時くらいに始まった、研究棟の取り壊し工事とか。
なんかそういうのが、つながるような気がしちゃって。
言う通りに、すぐ処分しました。
たぶんですけど。
最初に写ってた何かの計器の写真って。
ガイガーカウンターじゃないかなって。
推測ですけど。
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