第3話 天使の秘密

 あれからずっと、もものことを考えていた。

何も手につかずに、どうすればももは死なないでくれるか、とか、どうしてあんなことを言ったのかとか、そればっかりだ。

 今日は久しぶりに、外に出ることにした。

 ももを、少しでも感じたくて、会えたらいいなと思って、僕はあのカフェに足を運んだ。

 そこにももの姿はなかった。

あったのは、怖い顔したリンカさんだけ。

 「やっと来た…。」

「最近ずっと、ももは毎日ここに来てた。」

「今日は用事があるからって、任されたんだ。」

怒りを含んだ声で、まくしたてるように言うので、僕はただ黙っていることしかできなかった。

 「何か言いなよ。」

「あっ、その、ご、ごめんなさい…。」

リンカさんはちょっと苦手だ。

僕とももが仲良くなればなるほど、彼女は攻撃性を増していく。

 「ほんと、見てられない。」

「もものこと、何にも知らないくせに。」

ボソッと放った一言が、気になった。

 「ももはさ、あのこと、アタシとアンタにしか言ってないの。」

「もも、アンタのこと好きなんだ。」

「まぁ、分かるか。ストーカーなんてしちゃうくらいだもんね。」

 ももは、どこか影がある。

いつだって笑顔だけれど、心の底から笑っていないような、そんな感じだ。

 「ももが死にたがるようになったのは、中2の頃…。」

ももが学校に行けなくなった頃と、丁度重なっている。

 「今でも、悔やんでる。アタシがももをちゃんと守れていたら、あんなことにはならなかった。」

怖いことを言われるような気がして、僕の鼓動が速くなった。

「ももは、おじさんに、襲われたんだ。」

「ほんとに、胸糞悪い話でさ…」

余程辛い出来事だったのか、リンカさんは言葉を詰まらせた。

 「もものお父さんは、ももが小さい時に亡くなっている。」

「金が欲しかったもものお母さんは…」

リンカさんは、涙目になりながら僕に悲劇を語ってくれた。

 金に目がくらんだももの母は、もものおじさんにももを襲うように命じた。

その乱暴な情事をカメラに収めて、ネットで販売しようとしたのである。

 たった1人の家族であった母に、そんな非道なことをされて、おじさんに無理矢理させられて、ももは、どんな気持ちだっただろう。

 悲しみとともに、僕の天使に何をしてくれたんだという、強い怒りもこみ上げてきた。

 「あの、ももに、会えますか!?」

ももの気持ちは、僕に分かる程簡単なものじゃない。

でも、それでも、僕はももの支えになりたかった。

「明日、ももはここに来る。」

勇気を振り絞って放った僕の一言に、リンカさんはまたも不機嫌そうに言った。

やっぱり、リンカさんは苦手だ。 

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