白い男1人、人間4人、ギタリスト5人

天上天下 唯我独尊 三界皆苦 吾当安此

アリスの遺書を読む隠れ家一同。

「何故アリスが死ななければいけなかった」

ローズはそう呟き、アリスの書いた跡を指でなぞる。

アリスにしては小さい文字。震えた字。

─────

ローズ

マーガロ

ごめん

彼女に愛してるって伝えておいて

金庫にお金を置いておくからこれで隠れ家を維持して

お願い

長生きするって約束したのに守れなくてごめん

お菓子くれたのに拗ねてごめん

でもあれマジで不味かった

あとで調べたら「タイヤの味する」って書いてあったよ

ラフ、いたずらにマジでキレてごめん

大好きだし信頼してるからこそ冷たくしてしまうときがある

それを忘れないで

いつもありがとう

クロエ、喧嘩ばっかしてたけど毎日楽しかったよ

雪、何があっても私を信じてくれてありがとう

イロハ、帝王としての役割を勤めてくれて、性別に関してのルールを作ってくれてありがとう

カスミ、愛してるよ

カルマさん、私の目標になってくれてありがとう

リリー、私の事を好きでいてくれて、カルマさんの救いになってくれてありがとう

アヤ、幸せになって

ヒユ君、穏やかに過ごして

パン屋、好きなものを見て好きなものを食べて穏やかに夢を追ってね

野良、自分を大切にしてあげて

宿屋君、おいしいごはんたくさん食べてね

花屋、花屋が花屋の好きに生きても後悔しないような環境を作れなくてごめん

向日葵、私の憧れ、いつまでも可愛い笑顔で笑ってて

傷、幸せになって

みんなにごめんって伝えておいて

ありがとうとも伝えておいて

ごめんね

高校の時支えてくれてありがとう

ずっとそばにいてくれてありがとう

お姉ちゃんとお兄ちゃんができたみたいで嬉しかった

弟と妹が出来たみたいで嬉しかった

大好きだよ

死ぬ前にまた歌いたかった

ばいばい、また来世でね

さよなら。

──────────

それは、紛れもなくアリスの言葉だった。

みんなが大好きでたまらない、神足の言葉だった。

信じたくなかったクロエでさえ、アリスを失ったということへ確信を持ち、虚空を見つめ「どうしよう」と呟いた。

しかし、ローズは立ち上がり、遺書と同じ封筒に入っていたのか、小さく折り畳まれた紙を広げた。

「ここには、アリスが、命がけで残した手がかりが書いてある」

俯いていた隠れ家一同が顔を上げる。

「そいつはな、白い男は……男、白が似合う、鳥の囀りのような声、そして…「向日葵」という存在に固執しているんだ」

「え……」

「これに共通する人間は…花屋、そして向日葵、野良、傷」

「白い男は純潔を愛している、ということは、恋愛や性的な行為を嫌ってる可能性がある…」

「……」

「じゃあ花屋と向日葵と傷は除外だ、アリスがそう言ってる」

ローズは、封筒の中に入っていたのか、小さい鍵を手に持ち、その鍵で隠れ家の金庫を開いた。

金庫からベージュ色のノートを取りだし、そこに書かれた文章を読み上げていく。

──────────

【白い男についての考察】

誘拐犯と通り魔は同一人物？

何か目的があるのだとしたらまず誘拐の目的は？

連れ去られてるのは子供が多い

なのにあまり捜索願が出ていない

手口や犯行予告によると20人近くが誘拐されてる

なのに捜索願や通報があったのは3件だけ(それも近隣住人の通報)

親は自分の子供がいないことに気付いてないのか？そういう子供だけを狙った犯行？子供の様態は？

ネグレクト、もしくは鍵っ子を狙った犯行？子供は大丈夫？無事かな

【子供を誘拐する理由】

利用するため？何に？子供…まさか能力関連？

能力はトラウマを刺激すると目覚める

あー、まさかそれ目的か？

今子供達は何をしてる？大丈夫かな

【通り魔事件の被害者について】

バニラのような香りがしたあと首が舐められた？

そのあと腕が切られたらしい

わずかな痛み(？？？？？)

麻酔を嗅がされてたんじゃないかって話になった

何故麻酔を嗅がされた事に気付かなかった？

白い男は能力者なんじゃないかって話してた

幻覚見せる力持ってるのかね～？って

子供を拐う時もそれを使ったら簡単に拐えるかな？

それとも白い男が好青年だったから警戒されなかった？

それともまた違う方法？

子供が子供を誘拐したとしたら？子供同士なら警戒しない？

今思ったんだけど誘拐犯と通り魔が同一人物だとしたら目的は？

ギタリストを傷付けて子供を誘拐する目的is何

誘拐から目を逸らさせるため？

何か一つの不確かな事件だったりを揉み消す為に、大きくて、目撃者が居て、いつまでも語られてしまうような事件を起こしていたとしたら？

私の恋人が高二の時にしてた手

あれ？まさか私の恋人が何かに関係してる？

能力について詳しい存在が白い男側にいる？

それとも誰かが(何を書こうとしたか忘れた)

ていうか子供を誘拐する理由は？もしかして能力者を作りたいから？白い男もそう育てられた？

白い男を量産したいのか？第二の伝説を作るつもり？

企業が関わってるのか？

白い男がもし過去に誘拐された子供だったとしたら？

もし私が白い男だったらどういう言葉をかけられたらついて行くかな

育児放棄されていたとして、親に会いたいんだとしたら「お父さんとお母さんに会えるよ」と言われたらついていくかもしれない

「親がいる場所に案内する」と言われたら行くかも

白い男はそう言われた？そもそも白い男って一人だけなのかね？

もし通り魔事件に掻き回して誘拐を揉み消す以上の意味があるんだとしたら？

白い男は個人的にギタリストに恨みがある？

ならなんで麻酔を嗅がせた？なんで麻酔を嗅がされてると思われないような幻覚を見せた後に刃物で切った？

能力者になる人はギタリストが多いからトラウマを植え付けたかった？どういう関係が？痛みがないならトラウマにならなくね？まさか右脳派左脳派みたいな問題になっちゃう？

ローズに色々聞いてきた！

白い男の他にもう一人いたらしい！

その人にナイフで傷つけられたんじゃないかな？って

今までもそうだったのか？

白い男は二人いる？誘拐犯と通り魔のコンビ？その二人でやってるのか？

それか単なる協力者？

というかそもそも二つの事件が繋がってると思わない方がいいのか？

協力者が白い男じゃないならその人が協力する理由は？元々友達だった？それとも兄弟？

もし隠れ家の中に白い男が居たらどうしよう

ちょっとこわいかも

みんな良い子だからもし居たら人間不信になっちゃう

白い男についての情報集めてきた！

嫌だけど、隠れ家の中に白い男が居ると仮定して考えてみようか

女の子みたいな横顔　野良？宿屋君もか…まさかカルマさんも？ヒユ君もか

白い高そうなスーツ　金持ち？向日葵？傷？

好青年風　傷？ヒユ君？

血が飛び散っても気にしなかった　大雑把、アヤ？ヒユ君も

手が早い　向日葵？野良？

一回も名前が出てない　パン屋

今のところ一番可能性が高いのは野良とアヤあたり？あと傷もか

アヤか野良、傷だとしたら…宿屋君がギターに凝っててそれを後押しする目的？

でもそれはギタリストを傷つける理由にはならない

真犯人はそう思わなかった？

宿屋君はギターだけが生き甲斐

それ以外本当に何も無いんだとしたら…ギタリストを襲うかな

自分以外のギタリストを消して自分が一番になりたかった？宿屋君はそういうことをするようには思えない…

(言葉は悪いけどそういう作戦を考えられなさそう)

もし野良だとしたら、宿屋君をギターで一番にしたかったから？

アヤだとしたら…アヤが一人で考えて一人でやりそう

あーでもアヤよりかはヒユ君の方がそういうことしそうかな？アヤ結構甘えん坊だしそういう話になると誰かに頼っちゃいそう

傷は心を読める、だからギタリストかどうか見分けられた？誰かの心を読んで誰かに協力してる？

向日葵だとしたら動機は？花屋に関わること？それとも傷？

分からん！絞らず全員で考えよう

パン屋君だとしたら動機は？誰かに頼まれた？命令？自分の意思？

パン屋は白い男か？それとも協力者？

もしかして花屋？花屋はギタリストだ

花屋が白い男？男装してる？

「人間」って言ってる事自体嘘？疑われないために隠れ家に来た瞬間から嘘をついてた？

でも花屋はピアノも弾いてる

そういえばカルマさんもギター弾いてたな

花屋はピアノも弾いてるから狙われなかった？

カルマさんが狙われない理由は？

カルマさんが白い男だから？それとも花屋が白い男？

【協力者について】

中音の声

「これでギタリストが減った」

ギタリストを減らすことが目的だった

恨みがあっての犯行？

本当にギタリストだけが目的なのかな？

分からん！！！無理無理無理！！！

花屋も襲われた

なんで

カルマさんも襲われる？

私も一回ギターを弾いたことがある

持ってはないから狙われないかな

狙われたい

返り討ちにしてやりたい

白い男について

正直誘拐犯と通り魔が同一人物とは考えられないな

というか普通に考えて通り魔事件で誘拐事件を揉み消せるとは思えない

隠れ家に関係ない人達の事は騙せるかな？それが目的？

あ、まさか隠れ家を壊したかったとか？

白い男は本当に一人なのか？

もし二人いるとしたら？目撃情報は一貫して少女みたいな顔に好青年

今思い出した！小鳥のさえずりみたいな声もだ！(なにそれ)

ならアヤとヒユ君と宿屋君は違うな　パン屋も

似てる？まさか双子？隠れ家の双子…雪とクロエは似てないな

背丈が似てる他人？

その目撃情報を合わせたら浮かび上がる人が白い男で確定？

白い男二人が兄弟とかそういう可能性もあるかな？

兄が通り魔、弟が誘拐　リバでも可(恋人が言ってたけど詳しい意味は分からない)

というかそもそも本当に白い男は男なのか？

目撃者が白い男を見て「わ！白い男だ！こいつは青年だね～！？」と思ったのならそれなりに背丈があるのかね

それなりに背丈がある人

マーガロ、イロハは背が高い。あとついでにクロエとカルマさんと私(笑)自分で言っちゃうスタイル(笑)

あと花屋と傷もか

まず小鳥のさえずりみたいな声ってなに

かわいくてずっと聞いてられる声？

野良　傷　花屋、パン屋

あとリリー　ラフ　雪　カスミも？あと私(笑)

？？？？？？？？

もっと分からなくなったよ(笑)

今日はもう寝る！！

協力者は男

ローズが言うなら間違い無い

「ギタリストが減った」

ギタリスト狙い確定で良い

リリーあたりも怪しく思えてきた

リリーが白い男の協力者ならギタリストを減らす理由は？無いよな？ベーシストならまだ分かるけど…

ラフは？動機がない

雪もない

それか…誰か一人を傷つけるのが目的だったとか？

ギタリストを狙ってるならアヤも危ない(アヤが犯人なら危なくないけど(笑))

ヒユ君が犯人なら？アヤは確定で危なくない(笑)

傷だったら？傷はベーシスト…傷だとしたら何故ギタリストを減らす？

ギタリストで傷付いてないのはアヤと宿屋…

アヤのため？宿屋のため？

傷そんなに大して宿屋と接点無いよな…宿屋のため？だとしたら…まさか傷は何か宿屋と関係がある？それとも野良と？

傷が人の心を読めるってのが大切な情報なのかも

寝るって言ったけど一ミリも寝れなかった

「子供を誘拐したのは利用するため」だと仮定したら…白い男はあの企業と協力関係にあると考えていいのか？

もし本当に関わっているのだとしたら、ギタリスト殺しも企業関連の可能性がある

ローズとマーガロはもう思春期終わってるし目覚める可能性は低い

花屋は既に目覚めてる

まさかギタリストを殺すのは白い男の独断？目覚めさせるのが目的じゃない？

それか…襲われた人達のうち誰か一人が目的だった？

それともこれから襲うつもりの人が居る？

もし白い男が本当に狙っている人が居るんだとしたら誰だ？

ギタリストを襲うのがついでだったとしたら？

今調べたら一人も亡くなってないみたい

待って？なんでギタリストを殺さない？

「ギタリスト殺し」っていう異名はどこから来た？

ギタリストをギタリストとして殺すのが目的？それともギタリストはついでで他に何か大切な理由がある？

能力の試し打ち？

通り魔の白い男が持っているのは人に幻覚を見せる能力

試し打ちして、トラウマを作り出して、自分の力がどの年代の人間にどう作用するか…ギタリストに個人的に恨みを持つ人間(協力者)を利用して試した？

なにそれ怖！！！

なんかちょっと嫌な予感がする

二人いると仮定したらちょっと分かってきたかも

探偵になれる？

───────────

息を呑むアヤ。

「アリスさんは、一人でこんなに、考えてたのか」

花屋はぐっと下唇を噛み締め、アヤの方を見た。

「続きを読むぞ」

──────────

利用されるの嫌だったかな、白い男

嫌だろうな

私の恋人も嫌がってたしまさか私の恋人が目的か？

私の恋人の親に狂った人が企業を作ったのかもっていう噂を聞いたことがある

それが本当なんだとしたら？

もしかして通り魔の白い男は何人もの人間を狙えるようなそれっぽい理由が欲しかった？

企業に恨みを持ってるのか？そりゃ利用されたら嫌か

能力の試し打ちをする理由は？何かへ反逆しようとしてる？

誘拐されて、能力者になって、企業に利用されてる白い男が反逆する対象は？

企業を作った人でしょうそりゃあ

誰だ？あ！私の恋人の親！でももう亡くなられてる

じゃあ私の恋人ちゃんを苦しめたいのか？あの子を殺したいくらい恨みを持ってるのか？(人に嫌われるの得意だね笑)(次会ったらそういうところも好きだよって伝えよ)

もし私が通り魔の白い男だったら…その子が愛する存在を狙うかも！とか言っちゃって(笑)

家族だったり恋人だったりを狙って苦し

私じゃん

──────────

静まり返る。

イロハは、彩華は怖がりだった昔のアリスを思い出した。

「………」

──────────

ギタリスト殺しがついでで、白い男は私狙いだと仮定しよう

襲われたのはローズ、マーガロ、花屋

ギタリストらしいギタリストは5人居て、そのうち3人が襲われた

逆に狙われなさそうな人を考えてみるか

傷は人の心を読めるから狙ったらすぐに身バレするな、殺すのが目的じゃないなら尚更狙わないかな？怪しい

リリーはギターのギの字も知らない

イロハは…返り討ちにしそう

カルマさんも返り討ちにしそう

ラフは？ラフも返り討ちにしそう

雪は？いつも誰かが隣にいるから狙うのは難しいか、一人でも返り討ちにしそう

カスミも返り討ちにしそう

クロエも返り討ち

向日葵は…花屋と傷を苦しめたい時とか個人的に恨みを持つお客さんには狙われそう

パン屋君は？ギターに興味を持ってはいるけど襲われなさそうかな、返り討ちにしそう

宿屋はギタリストだから襲われる可能性あるか

野良は襲われるかな？襲われるとしたら理由は宿屋の友達だから…？

理由これだけだな

書いてて思ったんだけど隠れ家に詳しい人間が白い男かも

だとしたら一番怪しいのは私(笑)

職場の信頼出来る人に聞いてきた

ギタリストの通り魔事件なんて知らないって

隠れ家を壊すのが目的ってので確定して良いかも

あ

大事なとくちょうをわすれてた

白が似合う

傷　カルマ　花屋　野良　パン屋　雪　ラフ　リリー　向日葵

背が低い人を除外(160cm以下の人)

傷　カルマ　花屋　野良　パン屋　向日葵

声が低い人を除外

傷　野良　パン屋　向日葵

この四人か

この四人のうち誰か一人が私を

殺すのは協力者かな

中音の声　ギタリストに恨みを持ってる

白い男と親しいのか

傷と仲良し　向日葵と花屋、アヤも

野良と仲良し　宿屋とパン屋

パン屋と仲良し　野良とイロハ

向日葵と仲良し　アヤと向日葵と花屋と傷

この中でギタリストなのは花屋とアヤと宿屋

花屋は襲われた

自分で自分を襲ったのか？傷口浅かったし

花屋の声は中音、アヤの声も中音か…宿屋は低音

花屋が協力者なんだとしたら私に忠告した理由は？

協力者じゃない？

アヤか？アヤが協力者なのか？

こわくなってきた

決めつけちゃダメなのは分かってる

もうあたまがはたらかない

でものこさなきゃ

へんなもじになってるよ～

ギタリストじゃないのは向日葵、野良、イロハ、傷、パン屋

イロハの声は男っぽくはないかな　良い女感のある声

野良の声は中音

向日葵の声も中音

傷も

パン屋もだ

白い男っぽい人を除外して考えてみよう

花屋とアヤだ

この二人が怪しいな

──────────

「協力者についても、アリスは突き止めようとしてた…私達のために」

「……」

「さっきの私の考察も合わせて考えてみると…ギタリスト殺しの白い男は…花屋、向日葵、そして傷以外の…」

「……」

「…野良、お前なんだろ」

「……何言ってんの？違うよ…」

「…え」

「だって、僕…アリスさんは生きてると思ってるもん」

「…………野良……」

「みんなの、心の中に。」

「ローズさんも、マーガロさんも、花屋を傷付けたのも、僕だよ、協力者もいたけど、計画を立てたのも、何もかもを考えたのも、僕だよ」

野良の頬の傷がよく見えた。

何かを言いかけてやめるアヤ。

マーガロは、心配そうに宿屋の事を見つめた。

宿屋は、野良の胸ぐらを掴んだ。

「僕の事庇ってるつもりか？」

「は？……何言ってんの、柊、やめろ、違う、お前はそんなこと言っちゃいけない」

「でも僕が、僕が食べたかもしれないじゃん！」

「違うお前は何も食べてない！！」

「お前の言葉なんて信じられないよ！！何だよ白スーツの男って！！！協力者とか何！！！」

宿屋へすがり付く野良。

宿屋は野良の肩を掴み、震える声でこう言った。

「……ごめん、今のお前に何言われても分かんないよ」

「…」

「僕、お前に全部話してるのに、なんで…お前は、一人で抱え込んで、一人で悩んで、変なことしてんの？」

「…柊」

「望、頼むから、全部話して」

野良は、そう言われ、ゆっくりと立ち上がった。

「その前に一発殴らせろ、化野」

ローズの言葉に、野良は一度頷いた。

野良の前から退く宿屋。

しかし、野良の前に立ちはだかる影が現れた。

ローズの手はその影の頬へ当たり、破裂音のような、皮膚と皮膚がぶつかる音が響く。

「……退けよ」

「…化野を殴りたいのなら僕を殴れば良い」

「は……？お前何言って…」

「……これ以上…望を傷つけないでくれ」

立ちはだかった影は、傷だった。

「アリスさんは返す、慰謝料も払う、僕に出来る事ならなんだってする、だから…」

「お前、なんでそこまで……」

途中まで言って、察したローズ。

傷の、野良と同じ色に濡れる瞳を見て、皆でアリスの血の跡を見た時を思い出した。

「……兄弟、なのか」

「望…」

立ちすくむ野良へ歩み寄る影が現れた。

「……アヤ…？」

アヤだった。

「望、お前さ、何で…さ」

隠れ家一同が二人を見つめる。

「…烏丸…ダメ、来ないでよ…お前の…彼氏…ヒユの事……隠さなきゃ…今ここで…来たら……」

「……なんで…なんでこんな時まで、俺の事気にしてんの…」

ぐっと抱き締めるアヤ。

「僕、ゲイじゃないから…そういうの困るって…」

「……あは…お前、マジ…何言ってんの…」

と言いながら、声を震わせるアヤ。

野良は、背に腕を回した。

野良は、彼の中に生きる二つの命を、愛おしく思うかのように、優しく背を撫でた。

「離れろ」