バタフライエフェクト



「花屋、待ってたよ」

「花屋その服新しいやつ?似合ってる!」

「そのリップかわいい…」

「貸してくれるの?本当に良いの?あ…ありがとう…」

「見て!蕾が出来たよ花屋!花が咲くのが楽しみ」

「いつものタートルネックじゃないんだ、いや変って意味じゃなくて…凄く似合ってるよって言いたくて…」

「花屋Vネックも似合うね、首まわり綺麗だし首長いから似合う」

「このネックレスあげる!私より花屋の方が似合うと思う」

「前髪こうやってあげてみたら?花屋の可愛い顔が見たいな」

「花屋」

「花屋?」

「花屋、大丈夫?」

「花屋、腕の痛みは引いた?」

「リハビリ頑張るんだよ花屋」

「ギター上手になったね花屋」

「本当の名前はなんていうの?聞いてもいい?…私市…[縺九★縺セ]?っていうんだ…綺麗な名前だね」



走馬灯のように、あなたとの思い出が駆け巡る。

雨であなたの血が全て流れ、今ではすっかり乾いてしまったアスファルトを撫でながら想う。


「…アリスさん」


私、あなたが好き

大好き

大好きなんです

想いを伝えないつもりだった

バレてもそれで終われば良いと思ってた

冗談で「付き合って」と

「結婚して」と言えるような関係になりたかった



ただ


私は、ただ、あなたに、花束を渡したくて。

あなたに似合う赤い薔薇を5本。

そしてカスミソウ。

派手な花束だ。私らしくない花束。


こんなのただの自己満足でしかなくて…でも、貴方は困ったように受け取って…「大きい花束」と言いながらも大切に保管してくれると…分かってて。


妄想した。

「なんかちょっとプロポーズみたいじゃない?」

と笑いながら受け取ってくれる貴方を。

「だったらどうしますか?」

と言う私を。

「嬉しいけど、花屋に私は勿体ないよ?私は高級品だから」

と、冗談を言うあなたを。



「…」

詳しく予知を見れば良かった

後悔した

大泣きした時を思い出した


背を撫でてくれるローズさん

自分の皮膚の厚さ

白い男

そして協力者

怒りが沸いたのを思い出した

その正体を理解しているが誰にも言えない自分への怒り

皆を守りたいと思っておきながら大切な人を死なせてしまった自分への怒り

哀れんで見下していた存在を愛してしまった自分への怒り


血の跡へ、怒りに任せて花束を振りかぶったのを思い出した









ぐしゃり、と、潰れるような音がする。









花束を抱き締める私

鼻を啜る私

甘い香りがした

ふんわりと甘くて、優しい香り

薔薇の香り

彼岸花を贈りたかった

けれど毒があるからダメで



私、あなたともっと、話したかった

もっと、一緒にいたかった

もっとあなたと





もう、予知は出来なくなった


アリスさんが健気に育ててくれた

私が贈ったオダマキは、憎らしいほど綺麗に、庭中に咲き誇っていた


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