踊りたい。
コンプレックスだった。
長い手足と、このガタイが。
通っていたダンス教室では先生に「君はダンス向きの体型じゃない」と言われ、それを聞くたびにいつも泣いていた。
ダンス教室で、特に優秀と言われて皆から憧れられている人は、皆背が低く、小さく、身体が細かったから。
憧れと言われたかった。
上手くなりたかった。
どう踊っても、どう生きても、無理だった。
どうしようもなかった。
そんな時、ベースと出会った。
憧れの人が弾いていたベース。
自分はそれに縋った。
自分に踊りは無理だと決めつけ、それに縋ったんだ。
それに、縋るしかなかった。
隠れ家。
広めの中庭。
ここだったら好きに踊れそうだ、なんて考えを首を振って否定した瞬間、中庭に立っている一人の女性が目に入った。
リリーさんだった。
彼女はワイヤレスのイヤホンをつけて踊っている。
彼女の踊りは、布のような、刃物のような、ヌンチャクのような、ハンマーのような、そんな踊りだった。
気付いたら、僕は、彼女の元へ走り、彼女の隣で踊っていた。
彼女は右耳からイヤホンを外し、それを僕の耳につけてくれた。
好きに踊ってみた。
彼女はそれを見て目を見開いた。
そして、端末を操作して音楽を止め、僕の肩を掴んで僕の動きを止めた。
「……」
バカにされる。
そんな踊りは踊りじゃないと言われる。
しかし、彼女の口から出た言葉は、僕が予想した言葉の正反対だった。
「なんでそんなに踊れるのに踊ってないの!?」
「…え?」
「その身体の使い方物凄いかっこいいよ!待って、なんでそんなにかっこいいのに踊ってないの!?勿体ないよ!!」
気付いたら、崩れ落ちて泣いていた。
彼女はひたすら驚き、叫び、慌てふためいてから、僕の背を撫でてくれた。
「お前の踊り方は変だ、物を壊したいのかと怒られたことがある」
「なにその怒り方…その先生ただ自分の好みを傷くんに押し付けてるだけじゃん」
「でも、事実なんですよ」
「事実って?」
「なんか、踊っていると、身体の制御が出来なくなっちゃって…その、本当に…物を壊しそうで怖いんです」
「壊せば良いんじゃない?」
「…は?」
「ねえ、傷くん」
「……はい」
「貴方には才能があるよ、これは、私の本心」
「……」
「貴方が下手なんじゃない。貴方を見つけなかった世界に見る目がないんだよ」
「………」
涙が止まらなくて、彼女はひたすら拭い、拭ってくれて、拭いきれないと判断したのか、小さい身体で、僕の事を強く抱き締めてくれた。
「リリーさん、ぼく」
「うん」
「踊りたい」
「踊って、私のために」
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