柠檬精
カルマ、クロエ、そして、アリスと私の四人が隠れ家に集まっている。
皆で好きに話し、お互いの仕事についての愚痴や不満、そして少しの自慢を語り合っていたとき、アリスの仕事についての話を聞いていたクロエが突然口を開いた。
「そんな金稼いでどうするつもり?」
「……へ?」
「あんたさ、なんで…」
低い声で唸るように話すクロエ。
アリスは眉間に皺を寄せながらその姿を見ていた。
「僕の欲しいもの全部持ってんのにいつもいつもいっつもいっつもいっつもいっつも虚しい虚しい言ってんだよ!!」
立ち上がり、アリスの胸倉を掴むクロエ。
アリスは目を見開き、瞳いっぱいに涙を貯めた。
「クロエ、あのさ、ちょっと、聞かせて」
「……」
「あんたが欲しくて、私がもう持ってるものって、友達?理解者?仕事?それとも、いくら飲んでもダメにならん肝臓?」
目を見開くクロエ。
アリスの涙と、アリスの言葉で、クロエも瞳に涙を貯めた。
「………!!」
「お前また飲んだな」
唇を震わせるアリス。
「ごめんなさい」と言いたいのか、手を震わせるクロエ。
「おいアリス、アリス!!やめろ!!」
カルマが声をあげ二人を引き離すと、アリスは呆れたように顔を逸らしてからカルマを突き飛ばした。
「おいアリス、やめろ」
「カルマさんの事押さえてて、このバカ何とかしなきゃ」
「アリス!!!」
私が怒鳴ると、アリスは顔を上げ、私の顔をじっと見つめた。
「…雪が止めるのは分かるよ、でもお前は私とクロエの問題には何の関係も無い」
「アリスお前自分が何言ってるか分かってんの?」
「……」
顔を逸らし、尻餅をついたカルマを見つめるアリス。
その二人を見ているクロエは涙を流し、地面を見つめていた。
「……私の目標には、目標で居て貰わなきゃ困るんだよ」
アリスはボソリとそう呟き、クロエの顔をじっと見つめた。
「背が高くて、顔も良くて、歌も上手くて、ベースもギターもドラムも出来て、色んな事出来るクロエには…私が、なんで、あんな、したくもない仕事、ずっとしてるかなんて、分かんないよね」
悲しげにそう呟くアリス。
「分かんないよ」
「私、なんの心配もなく好きなだけ音楽やって…好きなだけ歌っていられるような環境、作りたいんだ」
「……なんであの仕事を?」
「……業界と、コネが出来ると思った」
「…!」
「淡い願望だよ、叶わないに決まってるし、自分でもバカらしいって思ってる…でも」
「……」
「…それに縋るしかない…無いんだよ……私みたいな……才能…無い……不細工な…やつは…」
「……アリス」
「…あと…ライブハウス、作りたい」
「……はい」
「いっぱい閉まっちゃったから…新しいの…作りたくて……」
「……神足」
「…そこで、また、6人、で、公演したい」
「……」
「解散ライブとか、一夜限りの復活じゃ、なくて、ちゃんと、みんなと、死ぬまで音楽やりたい……」
「……」
「…死ぬ、直前まで、歌ってたい」
クロエはアリスの顔を見ながらこう思った。
少し前のアリスなら、僕を慰めながら歌ってくれたのにな、と。
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