救いになる



風が吹くと、人が背後に立つと決まって白いスーツを思い出す。

血で汚れた白いスーツを、思い出す。


黒髪の男を見ても思い出す。

星空を連想するものを見ても、思い出す。

夜道を一人で歩けなくなった。

バイトにも、買い出しにも行けなくなった。

アリスが居ないと、隠れ家から出ることすらままならなくなった。


私は、いつまでも思い出すのだろう。

腕のギプスが取れても、腕を自由に動かせるようになっても、変わらずに思い出し続けるのだろう。


彼女は白い男に襲われて以来、毎日、毎時間、毎秒あの夜を思い出していた。




「歯を出して笑う人を見ても…思い出すの」


これ以上他の人に頼れない、なんとか向き合わなければ、と決意し、最近心理学について勉強している野良にそう相談するマーガロ。


眉間に皺を寄せながら、涙を堪えるようにそう言う彼女の言葉を聞き、目を見開いてから着ていたパーカーのフードを被る野良。

自分の黒髪を隠すためなんだろうと思うと、どうしてこんなに気遣いの出来る子なんだろうとマーガロの胸が痛んだ。


「…そういうフラッシュバックとかに向き合う方法って色々あるんだけどね?お話しするってのも一つの…治療方法なんだよ」


私に目を合わせないように俯きながらそう話す野良。

それは彼なりの気遣いだった。


「……じゃあ、野良ちゃんにおはなししてもいい?」


野良の手を握り、顔を覗き込みながらマーガロがそう言うと、野良は顔を上げ何回も頷いた。


「うん…うん!聞くよ!僕の勉強にもなるし!ね!」

自分より遥かに小さな手を握る野良。

「ありがとう…私ね、夜、歩くのが怖いんだ」

目を伏せそう呟くマーガロ。

「じゃあ僕が付き合う!」

そう言いながら先程より強く手を握る野良。

「ふふ……ありがとう…あと…ローズも…カルマさんもトラウマだって言ってたな…あの人達のお話も聞いてあげてね」

「そう、覚えとくよ」

覚えておくよ、マーガレット。


僕が…君の…………

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