ギタリスト二人、ベーシスト一人、ダンサー一人
ローズとマーガロの二人が襲われて1ヶ月が経過した。
ギタリスト狙いの犯行であることから、隠れ家に集まっているギタリスト達は皆、被害にあった人のトラウマを刺激しないよう、自らの相棒を隠れ家の倉庫の中に隠し、厳重に鍵をかけた。
しかしその自分がした行動のおかげで、相棒に触れたくても触れられないというもどかしい日々を過ごしていた。
「……」
ここに、限界を迎えた存在が居た。
「…あー!もう!無理だ!無理無理無理無理無理無理無理ーーーーーー!!!!!!」
「どうしたの宿屋…ギター弾きたいの?」
自らの短い栗色の髪をぎゅっと掴みながら悶える宿屋と、そんな親友の姿を見て少し笑う野良。
「弾きたいよー!だって…生き甲斐だもん……」
グッと俯いてから、彼は自らの下唇をグッと噛み締めた。
「……これしかないもん」
野良は目を見開き、彼の肩を抱いてから、彼の頭へ自分の頭をぐりぐりと押し付けた。
「いたい」
「痛め付けてるからね」
「なんで!?親友が悩んでるんだから慰めてよ!!!」
そんなやり取りを見ていたアリスが二人を見てケラケラと笑いながら、鍵のかかった倉庫をピッキングでこじ開け、自らの相棒を取り出した。
「!あ、アリスさん!?」
「大丈夫大丈夫、私のはベースだし…今は平日の昼間」
ベースの1弦を弾き、懐かしい感触に浸るアリス。
そんな姿を見て、宿屋は、花屋は…少し、羨ましく思った。
「だ…だから…?」
二人はアリスの次の言葉を切望した。
「弾いてもいい」という言葉を。
アリスはこう続ける。
「ここには学校をサボってる悪人の二人と…住所不定無職の花屋と、私しかいない」
「無職じゃありませんし家もちゃんとあります」
「大好きなアリスさんにいじって貰えてよかったね花屋」
「……まあ…それはそうだけど…」
「だから、今から…あと1時間くらいなら、弾いててもいいんじゃない?今日の事は4人の秘密ってことで…」
と言いながら、倉庫の扉をグッと開くアリス。
二人は顔を見合わせ、嬉しそうに、でもそれを隠すようにゆっくりと相棒を取り出し、再会を喜ぶように優しく撫でた。
「宿屋くん、そのギター可愛いね」
アリスがそう言うと、宿屋は嬉しそうに目を見開き、自らのギターを指差した。
「でしょ!マーガロさんがくれたんだ!」
「マーガロがそんなことを…」
目を細め、何かを考えるアリス。
「あ、思い出した」
「?何を?」
「確かそれ、私とローズとマーガロの3人でバンドやってた時…マーガロが「相棒一号!」って言って大切に使ってたやつだよ」
と言うと、宿屋より前に野良が食いつき、大急ぎで立ち上がってから彼の背を叩き、興奮気味にこう言った。
「本当に?だってさ!大事なの譲って貰えてよかったね宿屋!」
「うん…!マーガロさんの…相棒一号…!」
ギターを撫でながら喜んでいる二人を見ていると、花屋が申し訳なさそうにアリスへ話しかけた。
「……あの、私の…ギター……」
「?それが花屋のギター?」
と尋ねると、花屋は俯きながら二度頷いた。
「可愛いねそのギター…自分で買った?」
自分も自慢したいんだ…と察したアリスが、花屋の顔を覗き込むように首を傾げながらそう尋ねると、花屋は目を合わせてからボソボソと答え始めた。
「あ…カルマさんから譲って貰ったんです…この子、名前もあって…」
「へーカルマさんが……なんて名前なの?」
「†ダークネスドラゴン†です」
「えっ」
「†ダークネスドラゴン†」
「……」
……
「あー、あ!ア、アリスさんのベースは…な…なんて名前…?」
「言いたくない」
「え?」
「黒くてかわいいし…アリスさんの命名センスで言うと…黒ウサギちゃん?とかですか?」
「黒ウサギちゃん?言われてみればそれっぽいかも!なんて名前なの?」
「…………ド」
「?なんて?」
「…ひ…被虐の…ブラッド…666」
「ん…な……何?」
「アリス2号」
「被虐のブラッド666って言ったよねさっき」
「アリス2号だよ」
「さっき被虐のブラッド666と仰いましたよねアリスさん」
「違うアリス2号」
「ひぎゃくのぶらっどすりーしっくす?」
「ゆっくり言わないで宿屋くん!!黒歴史だから!!!」
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