姫カット
自分に自信がない高校生活を過ごしていた。
友達との適度な距離もつかめずに過ごし、人に囲まれながらも私は日々孤独を感じてしまっていた。
ワガママだという事はもちろん分かってる。
でも、みんなには私の欠点を個性と受け入れてほしかった。
なんで受け入れてくれないのか分からなかった。
分かりたくなかった。
その結果増えていく傷。
1本。また1本。また1本。
じんわりぽつぽつと浮かぶ赤。
染み込むように広がる赤。
白い線だけ入ったと思ったらぷつっと開いたりして。
真っ赤なのが見えてドキドキしたりして。
「……」
マーガロ。
私の大好きな小説の主人公。
私にそっくりで、憎めないキャラクター。
彼女が大好き。
令嬢でもなければあんなに利口でもない私が彼女みたいになりたい、だなんて言ったって…おかしいだろうけど。
そもそも私と彼女が似てるなんて自意識過剰だよね。
でも、彼女にもあった手首の傷が、愛おしくて、大好きだった。
一片の報い。
私の大好きな小説。
大嫌いで憎らしかった高校を卒業して、私はずっと興味のあった服飾の勉強をする為専門学校へ通った。
マーガロが学んでいたから。マーガロが好きだったから。
学校へ通い初めてから、生まれて初めて髪を染めた。
マーガロの好きな薄紫に。
マーガロが喜んでくれたような気がした。
似合うって、言ってくれてるような気がした。
「[隕九k縺ェ]、前から言いたかったけどさ~その髪全然似合わないよ?」
「え?」
「わかるー![隕九k縺ェ]ってイエベだからこういう髪色似合わないよね~…なんか顔が浮いて見える」
「……そうかな」
「ピンクのリップもやめた方がいいよ、私のリップ貸してあげるから直しな?」
「……ありがとう」
その後、髪を染め直した。
似合う茶髪に。
オレンジっぽいメイクもした。
学校で知り合った友達は喜んでいた。
私の中のマーガロは悲しんでいた。
「あんな人達の言葉聞いちゃダメ!」と怒ってくれた。
でも、マーガロ。
私、似合わないんだよ。
「でも貴方…あの髪色の時、楽しそうでいつもより可愛かった」
……
「……どうした」
アリスが20歳になった瞬間打ち明けた。
大泣きしながら「否定された」と。
高校なんて行きたくなかった。
学校なんてやめてしまいたい、と。
小さい出来事を気にするなんておかしいと否定される覚悟で打ち明けた。
すると、私のアリスは、一片のアリスらしくない反応をしていた。
「あんな馬鹿共無視して良い!!何様!?マジ馬鹿!!」
怒ってくれていた。
「あのな[隕九k縺ェ]…いや、マーガロ」
「……うん」
「好きな色を選べば良い、似合う色を着てても…楽しくなかったらそれはファッションとは言えない…」
「……」
「服飾について詳しいならパーソナルカラーの大事さは分かると思う、それに骨格も大事だと思う」
「……うん」
「でも、それをどう生かすかを考えるのもファッションじゃない?」
「……うん」
「お前みたいな人を増やさないためにあるものが服飾じゃないの…?」
「…」
「辞めたいのなら止めない、けど、糧に出来るものは糧にした方がいいと思う」
「……アリス……わたし」
「うん」
「…………姫カット」
「うん?」
「姫カットしたい」
「しな、薄紫の髪にピンクのリップして…姫カットにしな」
「リストカットやめたくない」
「やめなくていい」
「アリス大好き」
「私もマーガロが大好き」
一週間後、髪を染めて姫カットにした。
だけどどうしても見られたくなくて、恥ずかしくて隠してしまった。
両耳に髪をかけて、帽子を被って、ポニーテールにしてしまった。
アリスへ、マーガロへ申し訳ないと思いながら。
突然私みたいな人間が髪色と髪型を変えて行ったらみんな驚く筈だ。
怖くて、コートのフードも被って隠れ家へ行った。
「マーガロ、おはよ」
驚いた。
隠れ家の中央に、姫カットのアリスが居たから。
「マーガロとお揃いにしたくてさ」
手が震えた
真似された、とかそんな、ショックとかじゃなくて
みんな「私とアリスが同じ髪型をしてる」事に注目してて
私が姫カットにした事が対した騒ぎにならなくて
まあ隠れ家にいる人達とは長い付き合いだから見た目で何か文句を言ったりする人達じゃないっていうのは分かってた
分かってたけど
うれしくて
お揃いなのもうれしかったし
アリスが私を思って私とお揃いの髪の毛にしてくれたのもうれしかった
アリスだいすき
アリスは昔より細くなった
ぺったんこになった 何もかも
アリス
アリス
私だけのアリス
彼女が憎いよ
どうしてアリスへ何も残さなかった
おい見てるだろ
ふざけるな
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