クロスオーバー



隠れ家の隅、いつもいる彼のいつものポジション。


彼はいつも、グッと背を曲げ、どこか遠くを見つめながら弾き語りをしてる。


彼が歌うのは古い失恋ソング。

「彼女は僕を捨てた」「淡い初恋だった」「だが彼女を嫌えない自分がいる」

ただその曲が好きなのか、彼自身が何かをアピールしたいのかは分からない。


「……」


彼のギターと歌は、特別上手いわけでも下手というわけでもない。

でも、何故か、彼の弾き語りには、ずっと聞いていたくなるようなそんな謎の魅力があった。


「…あの人いつも一人でギター触ってるよね、誰とも話さないの?」


僕の大事な花屋へそう聞いてみると、花屋は彼を見てから首を横に振り

「分からない、あの人にはあんまり話しかけない方がいいよ」と言った。


……ふーん。

一人でいるのが好きなのかな?

でも…なんか、寂しそう。


「なんのはなし?あの子?」

彼をじっと見つめていると、後ろから聞き慣れた大好きな声が聞こえた。


「傷さん!ねえ、あの人の心読んで」

と言いながら彼を指差すと、傷さんは困ったように眉間に皺を寄せ、僕の髪をわしわしと撫でてから…じっと彼を見つめた。


やった!読んでくれてる!!



「……?」

「?何考えてるか分かった?」

目を見開いている傷さんの腕に自分の腕を絡めながら尋ねてみると、肩をすくめこう返事してくれた。


「…専門用語ばっかりで僕にはさっぱり」

「そっか…じゃあ行ってくる!!」

「ちょっと!向日葵!!少しは気を遣え!!」





「やっほ、お兄さん、なにしてるの?」

「!」


…よく見ると可愛い顔してんじゃん。

三白眼。セクシーだね。

両方の目の大きさが違うな、かわいい。

痩せてるせいか浮き出てる頬骨。

薄い唇に…あれ?意外と睫毛長いじゃん。

これは磨けば光るぞ?


「隣、いい?」

「……誰あんた」


え、何この子、何も拒否しないんだけど。

かわいい。


「僕は向日葵、ストリッパーやってる…こういう、服脱ぐ奴ね?」

と言いながら襟を伸ばし鎖骨を見せてみると、チラリと僕の鎖骨を見てから顔をぐっと逸らしてしまった。


照れてる……かわいい……。


「ストリッパーくらい知ってる……で、何?勧誘かなんか?」

「やりたいの?」

「そ……そういうわけじゃ…」


かっわい…やりたいんだ…気になるんだ…今度来てもらおうかな……かわいい……。


……よし、僕の話はしたから、今度はこの子の話を聞こうかな。


「……ギター、好きなの?」

「…いや、生まれて初めて出来た趣味ってだけ」

「そうなんだ…」


……口数が少ないな。

高くも低くもない声…でもハスキーでセクシー。

声が若干籠ってるからギターの音によく合うね。

でもギターのお話したらちょっと声高くなった。


……大好きなんだね、ギターが。


「ギターが大好きなんだ」

と言ってみると、僕の顔を見てから目を見開き、耳を赤く染めながら「…うん」と頷いた。

かっ…可愛い……。


「僕はダンスが好き!君はダンス好き?」


お話が楽しいからか、僕の顔をチラチラと見つめてくれている彼の髪を撫でながらそう尋ねてみると、僕からグッと顔を逸らし、ボソリと小さい声でこう答えてくれた。


「……興味は、ある」

「じゃあやってみよ、ほら!ギター置いて!」

「あ、いや、あるって言っただけでやるとは一言も…!」


彼からギターを奪い、ギターを持っている手とは反対の手で彼の手を引いて立たせる。


「ここに置くね、お友達」

「いや友達っていうか…待って!話聞けよ!!」


ギターを彼が座っていた場所へ置いてから彼の手を引き隠れ家の中央へ連れて行く。


視界の隅で…お、ニヤケてるアリスさんが見えた。

なるほど、この子はこういう風に扱ってもいいんだね…!


彼の手を掴みぐるぐる回ってみると、迷惑そうに、恥ずかしそうに、でもどこか嬉しそうに騒ぐ彼。


「いや回るなって!止まって!」

「わーすごい!」

「な、何が!!??」

「いつもこうやって誰かの手を引いて回ると~大体の人は足が絡まったり無理矢理止まったりするんだよ~」

「だから何!」

「足が絡まらないし人に合わせられる!君ダンスの才能あるね!」

「……ぇ」


彼が、目を見開いた。

……嬉しいんだ、ダンスの才能あるって言われたのが。


「じゃあ僕が先生になってあげるね、ストップ!」


突然止まってみると、彼は目を見開いたままふらつき、僕の胸の中へ飛び込んできた。


「……目が回った」

「あらま、大丈夫?」

「……平気」

「ねえ、君名前は?」

「……名前?」

「僕は向日葵!ねえ、ここでのお名前でも本名でもいいよ、君の事教えて?」

「……アヤ」

「アヤ?かわいい名前…」


そう褒めてみると、照れ臭そうに俯きながら「ふん」と鼻で笑う彼。


かわいすぎる…何?この子僕に抱きついてることに気付いてない……!?

「…向日葵」

「うん?」

「…ダンス、教えてくれる?」


上目遣いで頼まれる。

どくりと響く心臓。


「いいよ、いつでも教えてあげる」

「……なんかすごい心臓バクバクしてるよ向日葵」

「回ったからね」

「でもさっきまではしてなかった」

「ていうかなんで僕の心臓がバクバクしてる事に気付いたの?」

「え?あっ」

「アリスさん聞いてアヤくんにおっぱい揉まれたー!」

「違っ、む、無意識だった!謝る!謝るから!!」






彼と二人で居てから一ヶ月くらいが経過した。

そんなある日、珍しく彼の方から僕に話しかけてくれた。


「向日葵」

「うん?」

「俺、ギター弾くの好きなんだけど」

「知ってるよ?」

「だから…友達の向日葵に、俺の曲で踊ってほしい」

「俺の曲?え?作曲してんの…?」

「………たまに」

「マジ?天才?」

「違う…」

「是非是非是非是非是非!!アリスさーーん!!聞いて!!!友達が僕のためにギター弾いてくれるって!!!!!」

「なんでいちいちアリスさんに報告するの…アリスさんも手振らなくていいから…」

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