幸福の暗示
「楽しみだね、アヤ」
「うん…たのしみ」
「楽しみにしてくれて嬉しいよ!」
「うわ聞いてた」
「向日葵の地獄耳」
「僕は耳と目と頭と顔が良いからね~」
「何それ自己評価高」
「羨ましい」
「他にもなんか良いものありそう」
「下ネタ耐性ある?」
「無い」
「じゃあ内緒!さあ入って入って!いらっしゃい!」
今日は友達を僕の家に呼ぶことにした。
アヤとアリスさんを!
(本当はアヤだけのつもりだったけどアヤが「二人きりは気まずい」とか言って無理矢理アリスさんを連れてきた)
(アリスさん鼻の下伸ばしてた)(結構キモかった)(ちょっと嫌いになりそう)
僕の今のおうち、職場から近い上に交通の便も良くてさ?隠れ家へもひとっ飛びできる場所だから…前住んでた場所よりちょっとだけ狭いんだけど結構気に入ってるんだよね。
「お邪魔しまーす!おお!広い!良い家住んでるね向日葵!」
…まあ、ちょっとキモい部分はあるけど、アリスさんは素直に喜んでくれるしリアクションもかわいいから嫌いになれないんだよな…。
僕の友達のアヤはどうだろ、気に入ってくれたかな?
「ここに住む」とか言ってくれないかな…?
キョロキョロと僕の家を見てるアヤに
「どう?僕のおうち気に入った?」と聞いてみると、2度頷き「広い」と言った。
……
「なんか、え、感想それだけ…?」
「うん」
「うん!?あ、まさか…散らかってる?」
「きれい」
「きれい…きれいか、それは良かった」
「良い部屋」
「あ…ありがとう…」
「これなに、この箱」
「え?あ、それ…コンドーム」
「あー……」
「……」
「向日葵~なにこれなにこれホームシアター!?わ!ちいちゃいワインセラーもある~!!飲んでいい!?わ!綺麗なお花もあるーーー!!わ窓際に虫いるなにこれ怖」
…やっぱ、アリスさん来てくれて良かったな待ってなんて言った虫?
「むむむむむむむむむ虫!!??」
「アヤ助けて私達虫さん無理」
「そう僕達虫さん無理助けて」
アリスさんと向かい合うような形でグッと腕を掴み合い、虫さんが居るという窓からばーっと遠ざかると、アヤは虫さんをパッと手へ乗せ窓を開けた。
「……俺が居て良かった?」
「ほんとに!!よかった!!」
「向日葵は?」
「アヤごめん居て欲しい大好きここに永住して僕と結婚して」
と言うと、「同性婚が合法化されたら考えるよ」と答え、嬉しそうに微笑んでから虫さんを乗せた手をこっちへ向けた。
「ヒィ!!!」
「見て向日葵、てんとう虫、可愛い」
て…てんとう虫…?なんか呑気だな。
でも…あの嘘つけないタイプのアヤが言うなら可愛いのか…?
と思いながら恐る恐る手を覗き込んでみると…
「わ…ほんとだ可愛い…ころんってしてる」
「マジ?」
「アリスさんも見て、可愛い…」
アヤの言う通り、手の上にはちいちゃくてかわいいてんとう虫が。
てんとう虫…可愛いって噂には聞いてたけど…こんなに可愛いとは思わなかった。
……ちいちゃくてかわいい。
…なんか、僕の初恋の子に似てるかも。
こんなこと言ったらあの子怒るかな。
「わーほんとだかわいい…向日葵、この子ここに住ませてあげたら?」
「それは嫌だよ…自然界に戻してあげて?」
「名前「アリス」とかどう?」
「え私の名前つける気?」
「アリスちゃんだよ~」
「……いいかも…」
「えそこ普通悩む?」
「向日葵まだ19だよね?なんでワインセラーあるの?」
「元々この家にくっついてて…あるって知った先輩達が「いつか飲みなよ~!」って置いていってくれた」
「良い先輩じゃん」
「でしょ?僕が20歳になったら3人で飲もうね!」
「いいよ!」
みんなで適当な映画を観ながらそんなことを話していると、登場人物が恋人とキスをしているシーンが流れ始めた。
……そうだ。
「ねえ、アヤって恋人いんの?」
僕の左隣で、食い入るように映画を観ているアヤにそう尋ねると、アヤは首を横に振り、悲しそうにこう呟いた。
「恋人いない歴=年齢だよ…俺は…」
「へえ…ちなみに聞くけど女の子が好き?男の子が好き?」
「一応ゲイ」
「一応?あはは、何その言い方!」
「あは、確かに変だな…出会いの場に行ってないから出来たこと無いのかな」
「アヤならすぐ出来るよ!」
「…だったらいいな」
……そっか。
そうなんだ。
お友達紹介したりしたらアヤ喜んでくれるかな、なんて思いながらアヤの顔を見ていると、僕の右隣に座っているアリスさんが僕の肩を叩いてこう言った。
「ダメだよ、アヤには好きな人いるし」
「僕?」
「違う」
違うのか。なんかショックかも。
「隠れ家の中の人?」
少し照れているアヤと、そんなアヤを見ながらニヤけているアリスさんを見ながらそう尋ねると、二人が一斉に「違う」と言った。
「なんだ…じゃあ僕の知らない人か!」
と言うと、アヤは何故か困ったような顔をしてからアリスさんの事をじっと見つめた。
「?どしたの」
そう尋ねながら二人を交互に見ると、アリスさんがぐっと俯き、小さな声でこんな話を始めた。
「実は、嘘ついてた」
……うそ?
「どんな嘘?」
「実はアヤが来たきっかけ…」
「オンラインゲームのチャットだっけ?」
と言うと、アリスさんが首を横に振った。
「本当は、最初にアヤの好きな人に会って…その人と仲良くなってから、アヤとも交流が始まったんだ」
「なんでそれを隠してたの?」
「…出会い方が、ちょっと…賛否両論ある感じだったんだ」
「……どういう意味?」
賛否両論ある出会い方って…まさか。
「…昔身体を売ってたんだよ、俺の、知り合いが」
……やっぱり。
「……売春ってこと?」
と尋ねると、アリスさんは悲しそうに頷いた。
「……うん」
「アリスさんはその知り合いを買ったの?」
「買った」
「なんで買ったの?」
「その…ボランティア…の一貫なんだよ、アリスさんが…高校卒業してからずっとやってる…ボランティアの」
アリスさんの変わりに答えるアヤ。
ボランティア…として、身体を売っている…人を、買ったの?
「なんで…」
「売らなきゃいけないくらい厳しい生活を送ってたり、そういうストレスを味わってる子供達を私が保護したら、その子は能力に目覚めないかなって…いう、小さい賭けとして…実際、私が出会って、支援したり、仕事を案内してる子達はみんな…能力に目覚めなくて…」
「……能力に目覚めるのは、ダメなこと?」
「目覚めると…企業に狙われちゃうから」
……企業。
「……」
「…そうやって、未然に…防げないかなって、思い付くこと全部やろうとしてたら…アヤと出会えた」
……そう、だったんだ…。
「……確かに、それは…僕以外には話せないね」
「向日葵は正当なお金を受け取ってるじゃん、でも俺は違って」
「…アヤも売ってたの?」
「……」
…まさか。
そういう、こと?
「アヤの好きな人って…まさか、」
「言わないで」
「え……わ…分かっ…た」
…いつもなら、簡単に言えるような、そんな単語が重くて。
重く感じて。
「…てんとうむし」
気付いたら、さっき見た虫の名前を発していた。
「?」
「てんとうむしって、幸運の暗示なんだよ」
「…」
「だから、きっと…幸せになれるよ、そう…教えてくれたんだよ、てんとうむしが!」
「……向日葵は、占いとか信じるタイプ?」
「勿論!恋人が元占い師だからね!」
「……」
「…その人と幸せになってね、アヤ」
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