トイプードルと黒猫



「!こ、ここ何……!?」

「マジでなんなのここ…凄すぎ…おしゃれ…」

隠れ家に見覚えの無い男二人が現れた。

栗色でくるくるの髪の毛のトイプードルみたいな男の子と、黒髪短髪で黒猫のような男の子。

トイプードルは黒いTシャツにゆったりとしたズボン。

黒猫は白のTシャツにスキニーパンツといった、どこか対照的な服を着ている。



さっきまで自分の楽器のメンテナンスをしていたカルマは警戒した。

声を出さないように、見つからないように背を曲げ、カウンターの裏に隠れながら二人の同行を監視するカルマ。


「ここにお前の先輩が入っていったんだよね?」

「うん…そうだけど……」


彼ら二人は隠れ家にいる誰かに用があるようだ。

引き続き監視を続けるカルマ。


「島原さーーん!どこですかーー!!」

「あ、あんま大声だしちゃ…!」


トイプードルは活発で…黒猫は警戒心が強いのか。

良いコンビだな、と思いながら、自分の考えに少し笑ってしまうカルマ。


……でも。

「……島原?」

カルマは思考した。

隠れ家に島原という名の人間は居たか、と。

元々居た9人の事は全て知っている。

しかし「島原」という名は居ない…ということは……花屋、傷、向日葵…それかアヤのうちの誰かの事か。


音を出さないように携帯を取りだし、それぞれに「島原を探してるやつが隠れ家に来た」と送る。

すると律儀でマメな向日葵が一番先に既読をつけ「マジ!?」「今走ってる!」と返事をした。


……島原は向日葵の事だったのか。

残りの三人へ送ったメッセージを取り消し「送る相手間違えた、すまん」と送信してから向日葵に「気をつけて」と返信した。



二人の会話が聞こえる。


「島原が忘れ物するなんて珍しい…」

「派手なカラーサングラス…島原さんって結構派手なもの好きだよね」

「そうだけど…カラーサングラスって普通派手なものじゃない?」

「でもこれ縁が金だよ、ド派手じゃん」

「確かに…ねえ、これ本物の金だったらどうする?」

「指紋つけまくっちゃったから価値下がったかな」

「拭けば大丈夫だよ」

「体温とかで劣化してない?」

「劣化するような素材でサングラスなんて作るかな」

「高い服って洗濯したらボロボロになるらしいよ」

「あー、使い捨てみたいに使わせるためだっけ?」

「そういう感じなのかも」

「壊れる姿にも価値がある系?」

「高い物ってよく分からないね」

「ね」


…かわいいな。

二人の会話につい笑ってしまうカルマ。


「!そこに誰かいるよ!」

「そりゃあ誰かいるよー、こんなおしゃれな場所居ない方がおかしいもん」


察知する黒猫と呑気だけど勘が良いトイプードル。


このまま隠れていても良いけど…向日葵が来た時のために自分はここにいた方がいいな、と判断したカルマは、隠れていた場所からひょっこりと顔を出した。


「脅かしてごめんな、島原探してんの?」

「あ、イケメン」

「イケメンだ、こんにちは!」


…。


「……なんか、欲しいものとかある?イケメンが買ってやるけど…」

「任○堂ス○ッチ!」

「こら!!」


……かわいい。


「まあ買ってやっても良いけど」

「ダメですよ」

…やっぱりかわいい。

カルマは「トイプードルか黒猫だと俺は黒猫派かもな」と妙な事を考えながら、二人へこう質問した。


「で、島原に何の用だ?そのサングラス?」

トイプードルが答える。

「そう、島原さんがこのサングラス忘れちゃったらしくて…」

と言いながら黒猫が持っているサングラスを指差した。


「そうか…ここの場所はどうやって知った?」

そう尋ねると、今度は黒猫の方が返事をしてくれた。


「島原について来たら…ここに…」

「島原さん路地入って室外機の上通って塀乗り越えた上にフェンス曲げて通った後元通りに戻してたよ」

「あー…ここに来るにはそれが正規ルートなんだ…」

「なにそれかっこいい!!」

「スパイの任務みたい!!」


……かわいい。


口を押さえ悶えるのを我慢するカルマに、突然口を押さえ呻き声を上げるカルマを見て顔を見合わせ怯える二人。


「化野……!」


そんな時、向日葵が現れた。

緩いパーマがかったベージュの髪。

五分丈のカーキ色のシャツに膝までのズボンと黒いサンダル。


「!島原!これ忘れ物…!」

向日葵へサングラスを手渡す化野、と呼ばれた黒猫。


「あ…ありがとう…これ無くて焦ってたんだよね…」

「そっか…これ渡すの明日でも良かったんだけど…」

「けど?」

「島原これお気に入りだし、焦ってるんじゃないかなって思って…!」


カルマは確信した。

黒猫は無自覚で人を惚れさせる天才かもしれないな、と。


気まずそうに二人をちらちら見ているトイプードルに

「忘れ物を届けるのについてくるなんて友達思いだな」と言うと、トイプードルはカルマを見てふんわり笑いながらこう答えた。


「まあ、あいつは僕の恩人だから…」

「……?恩人?」


トイプードルはこう続ける。


「昔…めちゃくちゃ……怖い目に遭って………白」

カルマはトイプードルの口を手で塞いだ。


「!」

「その話をしたいのなら隠れ家に仲間入りして貰う必要がある」


威圧するカルマ。

トイプードルは怯えながら、黒猫を見た。

黒猫は島原と話しながらケラケラと笑っている。


「……」


トイプードルはカルマの腕を掴み、無理矢理離させてからこう言った。


「あいつも一緒なら、入ります」

「……じゃあお前から言え」


トイプードルは頷いた。


「ねえ化野!」

「どしたの蚕」

「ここ」

「いいよ!」


即決。

さては会話の内容が聞こえてたな。

目を見開くカルマとトイプードル。

黒猫の横で同じように目を見開いて驚いている向日葵の表情が、少しずつ笑顔へ変わっていった。


「!!化野と坊やが隠れ家に仲間入り~!?」

「坊やって呼ぶのやめてって言ってるじゃん!!」

「分かったよ蚕ちゃん~~♡♡」


……かわいいな。



「賑やかですね?カルマさん」

その時後ろから聞き覚えのある声がした。

花屋だった。

薄いブルーの髪に琥珀色の目。

最近着始めた黒のVネックと、アリスがあげた小さな飾りがついたネックレスをつけている。


「花屋!みてみて!僕の後輩の子とその親友君!仲間入りしたの!」

二人の肩を抱き、花屋へ紹介する向日葵。

花屋は微笑んでから首を傾げ挨拶した。


「あらかわいい、こんにちは?新入りさん」

「こんにちは!わ!背高い!素敵!」

「ふふ、ありがとう」

「身長何センチですか?」

「190」

「やば!」

「かっこいい…憧れる…」


…かわいい。


「そうだよー!花屋はかっこいいの!」

「……憧れるのか…」


ニヤケている向日葵に、どこか悔しそうに顔を逸らす花屋。

「……」

カルマは察し、花屋の肩を掴んで二人から遠ざけた。


「……ちょっと、色々メンテナンスしてきます」

カルマが、俯きながらカウンターの裏へ行く花屋をじっと見ていると

「……あ、まさかその人達新入り?」

後ろから声がした。

傷だった。

焦げ茶色の髪をした好青年。

薄手の白シャツと黒のスキニーを履いている。


眉をひそめる黒猫に微笑みかける傷。

「初めまして、ここでは傷って名前で過ごしてるよ、よろしくね?」

黒猫は怪訝な顔をしてから頷き「傷さんよろしく」と言った。


……人見知りなのか?

でも俺にはフレンドリーに話しかけてくれたしな。と思考するカルマ。


「化野~分かるよ~!傷さんイケメンだけどなんか胡散臭いもんね!」

そんな時、黒猫を気遣ってか向日葵がこんな事を言った。

「胡散臭くないよ!ただイケメン過ぎるだけだから!」

怒る傷。


カルマは傷の肩を抱き、二人へ傷の事を紹介した。

「まあちょっと信用できない顔かもしれないけど」

「ちょっと!」

「普通に良い奴だよ、仲良くしてやってくれたら嬉しいな」


そう言うと、黒猫は傷に頭を下げた。

「あ…ご、ごめんなさい…よろしくおねがいします…」

……ちゃんと謝れるのは良いな、素直で良い子だ、と思うカルマ。

黒猫を見てから、傷にイケメンになる方法を聞いているトイプードルを見ていると、ふと花屋が誰かと話している事に気付いた。


「……?」

「分かるかな蚕くん、イケメンは思いから始まるんだよ」

「イケメンって自分に言い聞かせればいいの?」

「そう!言ってみな!」

「蚕は世界一のイケメン!」

「その調子!蚕はイケメン!睫長い!」

「睫長い!天パ!」

「そう!」

「カルマさん」

「どうした?」

「アヤさんが…」


カウンターの裏から顔を出す花屋は、ぐっと手を伸ばし何かを引き寄せようとしていた。

「立って挨拶して」

「?アヤ?そこにいんの?いつから?」

「朝からいたらしくて…」

「「「朝からいた!!??」」」

声を荒げるカルマと向日葵と傷。

新入り二人は三人の声に驚き目を見開いた。


強引な花屋に、諦めたのか立ち上がるアヤ。

「…痛いんだけど…この馬鹿力…」

「立たない貴方が悪い」

「……」

アヤと呼ばれた男は、灰色のパーカーに薄いブルーのジャージと、学生の時に買ったと思わしきぼろぼろのスニーカーを履いている。


「そうだアヤ~友達として言わせて貰いたいんだけどね」

「うん」

「そのダサい服は何」

「え?」


困惑するアヤに、激怒一歩手前のような顔をしている向日葵。

笑いを堪えているような、泣くのを堪えているような妙な顔をしている黒猫に、目を見開いて向日葵とアヤを交互に見ているトイプードル。


「…ふふ」

カルマはつい笑ってしまった。

「え、あ、カルマさん、俺服ダサい?」

「アリス無駄に服持ってるから2着くらい貰いな」

「そうだよ」

「え?そんなにダサいかな?花屋どう思う?」

「マジでダサい」

「…傷」

「クッソダサい、特にそのジャージ」

「これ一張羅なんだけど…そこの新入りは?」

「マジで言ってる?」

「おい黒髪、年上だぞこっちは…天パ、どう思う」

「ジャージのズボンが一張羅なんですか…?」

「……」


みんなに責められ落ち込むアヤ。

すると、黒猫は気を遣ったのか、アヤの前に行きパーカーのポケット辺りを撫でながらこう言った。

「でもこのパーカーは可愛い!から…ズボンをスキニーに変えるだけでも…」

「そうしたら…?」

「ごめんやっぱダサい、そうしたら靴が浮く」

「……何してもダサいのかよ…」

更に落ち込むアヤ。

花屋はそれを見てケラケラと笑い、誰かに電話をかけ始めた。


「誰に電話してんの」

とアヤが尋ねると、花屋はにやけたままこう言った。

「アリスさんです」

それを聞いて笑う傷と向日葵。


みんなの話を聞きながら微笑んでいたトイプードルは何度も頷き同意した。

「それが良いと思います!服貰いましょう!」

「黙れ茶髪」

「ちゃ、茶髪……!?」

「ていうかさ、俺アリスさんの事大体は好きだけどあの服だけは許せない…何あの派手な金ぴかシャツ、あれこそダサいだろ…生地テロテロだしめちゃくちゃ安そう」

「アヤ」

「何」

「アリスさんのあれ高級ブランドだから安くても一枚5万はするよ」

「えこのパーカーの100倍?」

「そのパーカー500円なんですか…?」







「これマジで似合う?」

「似合う似合う」

アリスからシャツを貰った(ほぼ押し付けられた)アヤは、嫌がりながらも袖に腕を通し、傷がサイズを間違えて買ったというズボンを穿いた。


「……どう」

少し恥ずかしそうに振り向き、自分の着ている服を撫で回すアヤ。


「似合ってるよアヤさん!」

「わ…かっこいい…!」

「見違えたな」

新入り二人とカルマからの褒め言葉に、悪い気がしないのかニヤケながら鏡に映る自分を見つめるアヤ。

「なあ向日葵、これいくらする?」

目を輝かせ「似合う」「世界一かわいい」と連呼している向日葵へアヤがこう尋ねると、向日葵は微笑みながらこう答えた。

「ズボンは1500円くらいじゃないかな?」

認める傷。

「そだよ~」


「へー…じゃあ…シャツは?」

アヤがそう尋ねると、皆がぐっと黙り込み、アヤと目を合わせないよう顔を逸らした。

「……え?そ、そんな高いの?」

「……あーそうだ、新入り君の名前考えなきゃ!」

「おいはぐらかすな傷」

「化野が「猫」で蚕が「犬」とかで良いんじゃないかって思ってんだけど」

「カルマさんまで…あーもう分かった俺が考える」

「え~なんか雑そう」

「お前は猫っぽいからそれから着想を得て…野良猫の野良」

「マジで雑だし…でもかわいい」

「で、天パは宿屋」

「なんで?」

「今ハマってるゲームの宿屋に犬いるから」

「なにその名前の由来…」

「蚕気に入らなかったよアヤさん」

「かっこいい…!!」

「気に入るんかい」

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