文句



隠れ家と呼ばれているこの場所、元々はスナックだった。

繁盛店だったのだが、オーナーが病で倒れた上にマネーロンダリングに使われた場所。

ヤクザに脅され、責任を背負わされたオーナーはこのカウンターで亡くなり、所謂「事故物件」として有名になった場所。

そして、ここが有名になったのと同じタイミングで町の中心部が発展し、このスナックの事なんて怪談話が好きな人達以外の全員が忘れてしまっていた。


そのスナックへ目を付けたのがアリス。

「運命を感じる」と妙な事を口走り買い取った挙げ句リフォームし、廃れてしまったスナックの内装を元通りにしてしまった。

しかし外装は廃れたまま。

アリスは言う。

「ここが賑わっているとバレてはいけない」「しかし維持していつかあの頃のように繁盛する店にしたい」

そしてアリスは考えた。


「ここに入れる人を厳選した上で法律を決めよう」と


『隠れ家に来る時はアリスが考えた通路を通らなければいけない。』

『紹介制、一見さんお断り』

『「人間」と名乗っている人には性について尋ねてはいけない。』

『ここで話した事は外では決して話さない。』


性について以外はアリスが考えたルールで、皆それに従って9人で生きていた。




「やっほ、遊びにきたよ!」

携帯を触っているアリスの肩を叩くと嬉しそうに振り返り、こう答えてくれた。

「おー!今日仕事じゃなかったっけ?」

「終わって即来てやったわ」

「流石、行動力の鬼、惚れそう」

「惚れな惚れな!さて!今日はドラうわああああああああ!!!」


私が色んな道具を置いているカウンターの中に入った瞬間、猫背で携帯ゲームをしている奴が居ることに気付いた。


「おーラフ、気付いた?この子新入り君!男の子!」

「言うのが遅いんだよ!!入った瞬間言え!!」


まだ心臓がバクバクいってる…ビックリした…変な事言ってなくて良かった…。

…にしても、新入りか。

新入りが来るの初めてかも。


「…君はアリスの知り合い?」

携帯ゲームをしている新入りにこう話しかけてみると、顔を上げてからボソボソとこう答えてくれた。


「うん……アヤ」

「…アヤ?それが名前?」

目の前でしゃがみ、顔を覗き込んでみると、アヤは何度も頷いてから、顔を隠している前髪をかき分け私と目を合わせてくれた。


わ…雌雄眼だ…おしゃれ…。

人の視線が怖いわけではないのか…。


「良い名前だね」

「ありがとう…ラフって…本名?ラフさんは混血?」

「違うよ?本名は別にある…アヤは?アヤって本名?」

「…一部だけ」

「じゃあ…アヤト、とかそういう名前なのかな?」

「……そんなかんじ」

「そうなんだ、教えてくれてありがとね」

「…いえいえ」


…うわ…かわいいな、この子。

人と話すのも嫌いじゃない感じかな。


アヤに微笑みかけると、アヤも私と同じようににっこり微笑んでから携帯ゲームへ視線を戻した。


「中断させてごめんね」と言ってから立ち上がると、アリスが携帯の画面側を机に伏せて置き、私から見て左上を見上げながら二人の馴れ初めを話し出した。


「アヤは私と…ネットのゲームだよね?」

「うん」

「そのMMORPGのチャットで知り合って今に至る」

「へえ、二人そういうゲーム好きなんだ?」

「まあな…でも、アヤはあんまり自分の話を聞かれたくない子だからなんか聞きたい時は私通して、分かった?」


……なるほど。

話すのは好きだけど自分の話はダメ。

人に恐怖心を持ってる訳じゃなくて、ただゲームが好きな男の子…か。


「分かった!アヤ、改めてよろしく、今度気が向いたら連絡先教えてね」

「……うん、よろしく」


へえ…意外と素直でかわいいな。

話してる時いちいちゲームやってる手止めてるし…この子さては育ちが良いな?

そんな子とアリスが…なんでこんなに親しいんだ…?


……それよりも。


「アリスが新入りを!それも男の子を連れてくるとは!」

「なにそれ?男女差別?私とクロエとカルマさん以外の6人が女だからって男を差別するのか?最低!時代錯誤にも程がある!」

「違う男女平等の時代だよ!そうじゃなくて、アリス男性恐怖症だったじゃん!」

「あーーーーまあそれはそうだけど…それは高校の時の話でさ…アヤは良い子だから…まあ私がちょっとだけマナー教えて良い子にした部分もあるけど…」


アリスが…お、教えた…?

やばい!私達の中で一番年下で子どもだったアリスがお世話する側になってる…!

照れ臭そうにニヤケているアリスの前髪をわしわしと撫でてからほっぺをうりうりと手のひらで潰してやると、困ったように眉を八の字にした。


「……その上アリスさんが連れてきた俺はアリスさんより年下だよ」


……ア……

「アリスが年下にいじられてる!!!???!???!??!?」

「こらアヤ!私をいじらない!」

「アリスさんをいじるなってルール無いよ」

「あ…アヤ……」

「あー……あの…あかちゃんだったアリスが……人を叱ってる……おっきくなったね……」

「クソラフ!いちいち鬱陶しいな!!ラフが私と知り合ったの学生の頃だろ!!親面すんな!!」

「思春期全部見てるから親面くらいするよ……おっきくなったねアリス…立派に育ったね……」

「……」

「アリスさん照れてる」

「照れてない!!!!!!!!!!!!」

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