第4話 アンジュを肴に、アリーシャとシュレが会話をする?


(うわー、シュレと2人になってしまった。 この娘、何、しゃべっているのか理解できない時あるし、それに、話しかけても会話にならない事があるのよ。 もう、ジュネスったら、どこ言っちゃったのよ。 でも、この場を凌がないと不味そうよね。 そうだ、甘えるように、言葉尻を伸ばしながら、話してみよう。 これで、少しは、打ち解けるかもしれないわ)


「ねぇ、シュレェ。 格闘技の授業の時ぃ、お腹に力を入れてぇ、負荷をかけてって話した時ぃ、アンジュったらぁ、投げられなかったわよねぇ。 あれぇ、何かしたぁ?」


「……」


「お腹だけに力を入れるだけならぁ、アンジュでも投げられたはずなんだけどぉ、……」


「ああ、うん」


(もう、シュレったら、何か、分かったみたいね。 あれだけの授業内容で、何を見つけたのかしら)


「ねぇ、シュレェ。 何でぇ、アンジュはぁ、投げられなかったのかぁ、教えて欲しいのだけどぉ、……」


「うん。 アンジュが、崩す時、重心が、移動できないようにした」


「えっ!」


(シュレは、言葉が、少ない。 ……。 でも、重心って、言ったわ。 説明の時に重心を爪先の方に移動させると教官が言ってたのだから、それを、爪先の方に移動させないように、体の重心を動かさないようにしたのかしら。 ……。 ああ、そうか、腰の位置が前に出ないようにしていたのかしら)


「なるほどぉ。 じゃぁ、重心を移動させないようにぃ、腰の位置が前に出ないようにしてたのぉ?」


「そうだ」


(シュレったら、最初は、コテコテだったけど、話の内容やら、周りの様子やらを見て、投げられない方法を見つけてしまったって事なのかしら。 コツを掴むって、意外に難しいけど、それって、ただ、体だけを動かしているからなのよね。 こうやって、ちゃんと、原理を頭の中でイメージできていると、そのイメージになるように体を動かすけど、考えない人は、ただ、言われた通りの事だけをするから、ポイントがズレるのよね。 魔法職は、頭が良いと聞くけど、そのせいなのかしら?)


「じゃぁ、シュレはぁ、アンジュに投げられている時ぃ、そんな事を考えていたのねぇ」


「そうだ。 それに、投げる時も考えたぞ。 言われた事を、ただ、実践しただけだ」


「はい、はい」


(もう、それだけじゃないでしょ。 何で、具体的にポイントとかを解説できないのかしら。 この娘の話は、絶対に、通訳が必要になるわ。 ……。 ああ、それで、ジュネスなのか。 この前、シュレの話をジュネスが解説してくれてたわね。 これも慣れないと、理解できないのかもしれないわ。 しばらくは、ジュネスに通訳してもらうのか。 理解できるようになるまで、もう少し時間がかかるのかもしれないわね。 トホホ)




「ねぇ、シュレェ。 アンジュってぇ、時々ぃ、ジュネスの事を見ているわよねぇ。 ほらぁ、格闘技の時間とかぁ、アンジュの視線の先にはぁ、ジュネスがいたわよぉ」


「そうか」


「あらシュレは、気にならないのぉ?」


「特に、気にならない」


「ふーん」


(あら、シュレったら、余裕だわ。 ジュネスをアンジュに取られるなんて思わないみたいね。 普通の人なら、自分の相手を狙っていると思うかもしれないとか、思わないのかしら)


「アンジュが、エルフの美人だと、私も思う。 見ていると、とても綺麗だと思う」


「そうねぇ」


(シュレが、話した。 こんな会話なら、シュレも乗ってくるのかしら。 さっきまでは、マトモな会話になって無かったものね。 まあ、こうやって、少しずつでも話ができるようにしておかないとね)


「でもぉ、流石にぃ、ギルドの高等学校ねぇ。 上級冒険者を目指す人が多いからぁ、強いとか弱いとかでぇ、人を判断するみたいねぇ。 私はぁ、論外だっただろうけどぉ、アンジュはぁ、あの器量だからぁ、顔で呼ばれるかと思ったけどぉ、それも無かったわねぇ」


「……」


(あら、また、会話が続かない。 うーん、困った)


「あれは、アンジュを誘ったら、もれなくカミューも付いてくると思ったからだと思う」


「あ、ああ、うん」


(お、ああ、そうか、さっきの沈黙は、少し、思い出していたのか。 魔法職で、頭も良さそうだけど、こういうことは、苦手なのかもね)


「基本的に、1パーティーに弓使いは、2人も要らない。 いつも2人一緒だったから、周りは、声を掛けにくかったはず」


「ああ、そうよねぇ。 アンジュもカミューもぉ、男女の違いはあってもぉ、顔形が、2人ともよく似ているからぁ、周りも2人が、兄妹だと思ったかもしれないわねぇ」


「そうだ。 そうなると、どちらか一方だけを、引き抜くことは、難しい」


「それも、そうよねぇ」


(へー、シュレも、ちゃんと見ていたのね。 まあ、特待生で入ってきたのだから、この位は、見抜いて、当たり前なのかもね)


「でも、アンジュはぁ、女の私から見ても、惚れ惚れするわねぇ。 あれだけ、整った顔は、見た事が無かったわぁ。 小顔で、ノーメイクでも、見惚れてしまったわぁ」


「ああ、そうなのか」


(うわーっ、調子狂うわぁ。 アンジュの顔を見て、シュレは、何とも思わなかったのかしら。 この子には、ジュネスしか見えてないのかしら)


「エルフは、シワのよったお婆ちゃんしか、見たことが無かった」


(ヒーっ! これ、絶対、始まりの村のギルマスのエリスリーンさんのことでしょ。 あの人、300歳は軽く超えているわよ。 エルフは、あの人だけじゃないのよ)


「あのー、シュレさん。 それってぇ、エリスリーンさんの事かなぁ」


「そうだ。 私の見たエルフは、エリスリーンだけだ」


「あのねぇ、エリスリーンさんだってぇ、若い時もぉ、赤ちゃんの時もあったのよぉ。 エルフも赤ちゃんとして生まれてぇ、子供になって、大人になるのぉ。 エリスリーンさんはぁ、300年以上生きているからぁ、顔に皺もあるのよぉ」


「おお、そうか、エルフも人と一緒で、歳を取るってことなのだな」


(おい、ちょっと待て、何でそうなる。 ……。 そうか、シュレは、興味のある事は、深く研究するけど、興味が無いものは、徹底して、排除するタイプだわ。 これ、魔法の事とか、ジュネスの事とか、聞いたら、話が止まらないタイプだ。 ……。 そうね。 ここは、アンジュの話だけで、乗り切ろう。 ……。 はぁ)

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