第6話

 もう私、先輩より年上になっちゃいましたよ。


 先輩が亡くなってから、3年くらい経過しました。こうして先輩に会いに来るのに、3年かかりました。


 本当はもっと早く会いに来たかったんですけど……先輩はそれを望みませんよね。自分のお墓参りで、私の大学生活に支障が出ることを、あなたは望んでいない。

 だから、頑張って大学生活を送りました。友達だってできました。肉体的にも精神的にも余裕ができたので、こうして会いに来ました。


 タメ口の私はどうでした? もう私のほうが年上ですからね。文句があるなら、先輩も年齢を重ねてください。


 ……今日はずっと敬語は使わないつもりだったんですけどね……私を置いて死んでしまった罰だって、言ってやるつもりだったんですけど……


 難しいです。私の中のあなたは、ずっと歳上なんです。私はあなたより年上になりましたけど、あなたに追いつける気はしません。


 どうしたら先輩みたいに優しくなれますか? どうしたら先輩みたいに面白い話ができますか? どうしたら先輩みたいに、成長できますか?

 

 こうして問いかけても、もうあなたは答えてくれない。笑ってくれない。頷いてくれない。


 ずっとあなたの幻想を追いかけています。もう会えないのに。あなたを超えられることはないというのに。

 あんなに大人に見えていた先輩が、もう年下だなんて、今でも信じられません。まだまだ私は子供です。当時のあなたに追いつける気がしない。


 ……


 ああ……えっと……


 お手入れしますね。掃除道具は持ってきたので、ご心配なく。


 シンプルなお墓ですね。先輩らしい。死んだあとのことなんか、興味なかったんですかね。


 そういえば先輩……自分は死んだら地獄に行くだろうって言ってましたけど、どうなりました? 天国ですか? 地獄ですか? 少なくとも私のことを救ってくれた人ですからね。蜘蛛の糸が一本くらいはあるんじゃないですか。


 よし……掃除終わり。キレイになったついでに、またお水を頭からかけてあげましょう。ほれほれ。さっぱりしました?


 ……


 ……


 ……


 私は……先輩のこと尊敬してます。あなたのことが好きです。


 でも、1つだけ……1つだけ、嫌いなことがあります。


 私をおいていってしまったこと。それだけが、あなたに対する不満です。許してほしかったら、今この場に現れて見せてください。


 ……


 友達に先輩のことを話しました。私の心を奪っておいて、さっさとこの世から消えてしまった、あなたのことを。

 死因についてはボカしておきました。自殺じゃない、とだけ伝えてます。先輩にとって不本意な死因だと思ったので。

 ……いや……どうでしょうね。死因なんて、あなたは気にしないかもしれません。

 きっと私が、受け入れられなかったんでしょう。あなたがこの世にいないことを。だから、死因なんて伝えたくなかった。それを伝えてしまったら、この世に先輩がいないことを認めてしまうような気がしたから。


 ……


 ……


 ねぇ先輩……


 私、この3年間……結構立派に頑張ったんですよ。そりゃ友達とケンカもしたし、先生と言い争いもしたし……イライラすることもあったし……泣いてばっかりだし……怒ってばっかりだし……


 でも……でも……勉強だって頑張りました。先輩に教わったことを、今でも実践できてると思います。あなたが教えてくれたのは勉強のやり方ですからね。今でも、応用することができます。


 友達だってできました。単位だって取れてます。料理だって続けてるし……両親だって安心してくれてます。こうやって1人で里帰りすることだってできるし……


 先輩の知らないところで、結構頑張ってたんです。


 だから……ちょっとだけ……ちょっとだけ甘えさせてください。これからも、頑張りますから。もっと優しくなりますから。ちょっとだけ、私の弱い部分を受け止めてください。


 先輩……


 あなたに会いたい。今まで積み上げたものをすべて捨てても、あなたについていきたい。

 これからのことを考えると、怖いんです。

 就職だってある……人間関係も怖いです。今いる友達と離れることも怖い。友達を傷つけてしまうんじゃないかと考えると、夜も眠れません。


 漠然と怖いです。将来のすべてに押しつぶされそうです。可能性が重りに見えます。


 あの時……森の中で、先輩と一緒にいた時間が懐かしい……

 あのまま、森の中で一生を終えても良かった。2人で何も食べずに、餓死しても良かった。きっとあなたは受け入れてくれた。


 死んでしまいたいと思うことも、あります。その気持ちは、ずっと消えません。


 ……いつか私が耐えきれずに、先輩のところにいっても、怒らないでくださいね。


 ……先輩……


 先輩……


 バカ……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る