第4話

 私は大学に合格して、友達作って、楽しそうに生活してる。


 それを見て、両親は泣いて喜んでくれました。


 変だよね。私はずっと迷惑かけ続けたのに……今の私は楽しんでるだけなのに……それで母さんも父さんも喜んでくれて……


 本当にずっと迷惑かけたな……子どもの頃から不登校だったし……勉強も運動もできなかったし……すぐ怒ってたし……朝も起きれないし……


 怒られたこともあったし、ケンカしたこともあった。疎ましく思った時期だって、あったんだよ。


 私はまだ迷惑しかかけてない。なのに、愛してるって……


 わ、私は……その……


 ……


 ごめん……泣くつもりは、なかったんだけど……キミの前でこんな話してると……


 ……


 仲が悪かった時期も、あったんだ。キミは知ってるだろうけどね。というより、仲の悪い時期しか知らないか。

 毎日のようにケンカしてた。お互いに手が出たこともあった。言ってはいけない言葉を使ったこともあった。


 今にして思えば、私も、父さんも母さんも、どうしたらいいかわからなかっただけなんだと思う。


 ……


 キミのおかげで、仲直りできたよ。キミが私にいろいろ教えてくれたから、両親と私の仲は改善されたの。


 人の許し方とか、許され方とか……話し方、考え方……身振り手振り。本当にいろいろ教えてくれたよね。哲学的で当時の私には難しいこともあったけど……今にして思えば、キミがとても興味深いことを言ってた、というのがわかるよ。


 今の私なら、キミの哲学話にもついていけるかもね。


 とにかく、あの時のキミの話は、今も私の中に残ってる。私の人生に大きく影響を与えている。もちろん、良い方向にね。


 一番印象に残っているのは……あれかな。ショートケーキの話。


 私が聞いたんだよね。ショートケーキのイチゴは最後まで残す派か、最初に食べる派か。


 あの時のキミの回答は衝撃的だったよ。今でも意味わかんない。

 

 キミは、両方、って答えたんだよね。


 それで……一口でショートケーキを全部食べちゃった。


 ……たしかに一口で食べれば、イチゴを食べるのは最初かつ最後だ。非常にスマートな回答……って別にスマートじゃないかもしれないけど、面白い回答だったよ。


 もっと欲張っていい、ってことが言いたかったのかな?


 2択を迫られたからって、どちらかを選ぶ必要はない。両方選ぶ方法は存在する。そういう哲学的なことが伝えたかったのかな?


 ……いや、違うね。あの時のキミはお腹が減ってただけだね。そういうことにしておくよ。

 

 ……


 とにかく、君から学んだことは……あー、そうだね。


 答えなんて間違っててもいいってことだ。私はそう解釈したよ。


 出会った最初の頃、キミは私に1つ問いかけをした。俗に言うトロッコ問題の話。


 線路を走っていたトロッコが制御不能になる。Aの道には5人の人がいる。Bの道には1人だけ人がいる。このままトロッコが進めば、Aの5人はトロッコにはねられて死んでしまう。

 私はAとBの道の分岐点にいる。私が分岐を切り替えれば、Aの道の人々は助かる。だけど、Bの道の1人は死んでしまう。


 その問題はね……私聞いたことあったんだ。学校の授業で、教わってた。珍しく学校に行ったら、そんな思考実験をしていたの。


 その時、私は……私がBの道にいる1人だったら良かったのに、って言ったんだ。

 当時から自殺願望が強かったからね。だから、私1人が轢き殺される未来が良かったんだ。


 私が分岐を切り替えて、Bの道にいる私を轢き殺す。


 それが理想だって答えた。


 そしたら、メチャクチャ怒られたよ。命をなんだと思ってるの、って凄く怒られた。


 それで……キミにも同じ回答を返したんだよね。私がBの道にいればいいのに。そう答えた。


 そしたらキミは、それも答えの1つだよ、って一言だけ言った。


 正直私は、怒られるって思ってた。先生たちとか、大人たちと同じ人だと、思ってた。というより、大人なんて、みんな同じだと思ってた。


 キミに出会って、変な人もいるもんだと思ったよ。


 とにかくキミは……私の答えを認めてくれたはじめての人だった。ありのままの私を受け入れてくれた、はじめての人だった。


 間違った答えも、答えの1つなんだよね。その答えを、恥じる必要はない。それをキミから教わった。


 ……


 ……なんだかまとまらなくなってきたね……私の家族の話をするって言ってたのに……なぜかトロッコ問題の話になってる。


 ……


 ……それで……えーっとね……いよいよ話すことが……

 いやいや、まだまだ話題はあるよ。話題はあるはず……えっと……


 ……


 そうだね……うーん……


 じゃあ、これからは思いついたことを、思いついたままに喋るよ。


 まとまらない話になるだろうけど、キミは許してくれるよね。

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