第2話

 はじめて出会ったのは森の中。キミはおぼえてないかもしれないけど……私からすれば衝撃的な出会いだった。


 いや……キミも覚えてるよね。ごめん、謝るよ。


 森の中を散歩してたら、いきなり首吊りしてる女を見つけたんだもんね。そりゃキミも覚えてるか……トラウマになってもおかしくないよね……


 ……ごめんなさい……本当に……


 とにかく、私が首を吊ってたら、キミが現れた。結構山奥だったと思うけど、キミはなぜか現れた。

 後々になって、キミがあの山奥に現れた理由が、私と同じだったことが判明するけれど、それはまた別のお話だね。


 とりあえず、私はあの日、死ぬはずだった。木にロープをくくりつけて、首に巻いて、足場を蹴り飛ばした。

 森の中で死ねば、肥料くらいにはなるかな、と思ってさ。誰の役にもたたない私の人生、最後くらい木の栄養になろうかと。


 それでキミに見つかって、助けられた。家の中にしておけばよかったかな。それなら死ねたのに。2人とも。


 ……冗談だってば……


 とにかく私はキミに助けられて、それから私たちは知り合いになった。


 会うのはいつも森の中。私が自殺しようと思ったあの場所でしか会わない。


 だから私、キミのこと森の精霊か何かだと思っていたよ。まさか人間だったとは……


 最初はなんの会話もなかったね。キミは口下手だったし、私は人見知りだったし。ただ近くに座っていただけだった。


 でも、それで良かったんだ。私が求めていたのは、それだけだった。


 どうして死のうと思ったのかとか、悩みがあるなら相談して、とか……力になってあげるとか、僕が守るとか、そんな言葉を期待していたわけじゃない。


 ただ、誰かに隣にいてほしかったんだ。なんにも言わなくていいから、私のそばにいてほしかった。


 あの時間は私にとって、安息の時間だったよ。ありがとう。あの時間がなかったら、私は今ここにいないだろうね。


 私は面倒くさい女だったでしょ? 今でもそうだけど……よくこんな私に付き合ってくれたもんだよ。


 それから……私は少しずつ学校に行けるようになったよ。

 学校で嫌なことがあっても、あの森の中でキミに話せるからね。むしろ嫌なことがあったほうが、キミと話せる話題が増えるんだ。


 学校に行けるようになったって言っても……まぁ結局、卒業はできなかったけどね。ちょっとばかり休みすぎたなぁ……別に後悔はしてないけど。


 それから、キミに教わった試験を受けることにした。高卒認定試験、だっけ? それを受験して合格すれば、大学受験の権利を手に入れられる。


 それで、キミに勉強を教えてもらったんだよね。ファミレスとか行ってさ……思い返せば楽しい時間だったね。


 その時に思ったよ。キミは頭が良いって。私にもわかりやすく説明してくれたし……何よりキミは優しかった。それとも厳しさからだったのかな? やりたくないなら勉強なんてしなくていい、っていう言葉は、厳しさから出た言葉なのかな? それとも優しさ?


 ……答えなんて知りたくないから、答えなくていいけどね。


 その時期はケンカもしたよね。ケンカって言っても、私が一方的にイライラしてただけなんだけど……

 

 私はちょっとしたことで怒ってたし……怒鳴ったりしたこともあったし……泣いたこともあったし……


 ……ごめん……そしてありがとう。あの頃の私を見捨てないでくれて。


 そんなこんなで、こんな私でも大学生になれました。それはキミのおかげだよ。本当にありがとう。


 志望校を決めるのは、迷いに迷ったよ。


 私はキミの住んでいる場所の近くの大学に行きたかったんだけど……というより、キミと同じ大学に行きたかった。


 でも、知り合いがいるからという理由で大学を選ぶべきじゃない、自分のやりたいことや現状を踏まえた上で、しっかり考えて選ぶほうが良い、ってキミが言うからさ。


 結果として私は県外の大学を選びましたとさ。これでキミとは離れ離れになってしまったわけだ。だから、こうして会いに来るのに3年かかったよ。


 後悔は、してない。


 キミが教えてくれて、私が選んだ道なんだから。


 ……後悔してないってのは嘘かも……私にも、よくわかんない……


 ……


 まぁいいや。とりあえず、ここまでの話はキミも知ってる話だよね。


 だから、これからはキミの知らない話を聞かせてあげる。

 

 大学に入学した私の話。

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