第13話 Love Affirmation 謎解きその1
友人の恋を応援した事も無ければ、女同士で恋バナをした事も無い。
恋愛というカテゴリーに片足すらつっこんだ事のない自分が、宗方の為に何かしてやれるわけもない。
☆☆☆
システム室の主要メンバーが会議と外回りで不在になった午後。
問い合わせやエラー連絡もなく、いつになく平和で静かなフロアに、間宮の猫なで声が響いた。
「美青ねぇさーん」
残っているのは、美青と間宮、そして席の離れた江口だけ。
美青は画面から少しだけ視線を外して、美青の手元を確かめた。
キラメキ王子第三弾のコラボ菓子は、チョコビスケットだった。
例にもれず大量購入した間宮の机の引き出しには、いつも山盛りのお菓子が入っている。
そのひとつを取り出して、封を開けた間宮が、食べて食べてと差し出しながら本題を切り出した。
「聞きましたよーお、宗方さんのことー」
宗方と間宮はとても仲が良い。
反応が面白い間宮を、宗方がいじって構うのが通常パターンだ。
可愛い後輩に、気になる相手がいることを報告したらしい。
たしかに、美青なんかよりもずっと間宮のほうが頼りになる。
乙女ゲームの知識もさることながら、かれこれ片手で足りない恋愛経験を積んでいると、以前話していた。
「ありがと。ほんっとおやつ好きだねー。ああ、あんたも聞いたの、菜々海」
生真面目に頷いて、美青が窘めるように続けた。
「分かってると思うけど、言いふらしたりしないこと」
「それはもう、いくら私でも口を噤みますってば」
「ならいいけど・・・あと、宗方に必要以上に馴れ馴れしくしないよーに」
「えええーいくらなんでもそれはやりすぎでしょー?昨日も姉さん見事に宗方さんを避けてたし。結構傷ついたと思いますよ、あの人ああ見えてめっちゃ繊細ですからねぇ」
「だって、こういうことはきちんとしといた方がいいと思うの。変な誤解させたら、相手にも悪いし」
「誤解も何も、宗方さんはフラれたって嫌ってほど理解してましたけど?」
それは初耳だった。
美青が気になる相手がいると聞かされたのは一昨日の事。
この短期間で、宗方は告白してフラれたというのか。
想い人がいる男に、あれこれ心配をかけるのは悪いと、不用意に関わらないようにしていこうと決めたばかりだったのに。
「・・・え?もうフラれたの?」
心底驚いた顔で、美青が瞠目する。
間宮が酢を飲んだような、なんとも言えないマズイ顔になった。
「え・・・姉さんがフッたんでしょ?」
「は?何言ってんのよあんたは。宗方はあたしに告白なんてしてないから。どっかで情報間違ってる。誰から訊いたのそれ」
「・・・ええーっと、ちょっと話整理しますねぇ。まーそんなこったろーと思ったんですけどねー。こないだ、帰りし2人になった時、宗方さんから、何か言われました?」
「気になる人がいるって。で、あたしのことは、いつ倒れるか分かんないから気になるって。目の前で人が倒れるなんてそうそう無いから、あれ以来、色々気にかけてくれてるってのは分かってたんだけどね。気になる相手がいるのに、仕事場の同僚ってだけで、世話焼かせるの申し訳ないなと思って。ほら、いろんな事言う人いるでしょ?一時期、菜々海と宗方がしょっちゅうお昼一緒してるからってだけで、噂になった事もあったじゃん。ああいう勝手な噂で、宗方の恋路を邪魔しちゃ悪いなって、あたしも反省した」
「なんで反省!?」
「誤解招くような態度取るのは良くないでしょ・・なんであんたそんな怒ってんの、菜々海」
「怒ってません、呆れてるんです。なにやってんですかあんたたちふたりは!」
「え、ちょっと、ふたりって、あたしと宗方!?」
「そうですよー。ほかに誰がいるってんですか。もう一度確認しますけど、姉さんは、宗方さんに告白されてないんですね?」
「されてない。気になる人がいるって告白は聞いた」
「・・・・」
「眉間の皺、すっごいよ?」
「いいんです、ちょっともうなんてゆーか・・・笑えてくるって言うか・・・まーねー。見事に予想通りであははー。実は分かってて逃げたとかならもちょっと、色々ツッコミどころあったんですけどねー」
「なにワケわかんないこと言ってんの。で、宗方は勢いで告白して、そのままフラれたの?」
それならそれで、慰めの言葉の一つくらいかけてやらなくてはならない。
「あー・・いや、なんか誤解みたいです」
「は?誤解ってなによ」
「告白したって聞いたと思ったんですけど、よくよく考えたら違ったようなーあははー。まあ、この件は忘れて下さいっ。ほら、ビスケットもっと食べて!」
強引に話を終わらせた間宮が、美青の口にチョコビスケットを突っ込んだ。
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