第19話 不穏な響き
着信メール1件
××××××
おはよ。
こないだまどかがゆうてたCD見つけたで。
さっそく聴いたら、めっちゃ納得。
まどかが好きそうな、可愛い曲やった。
その後、大久保さんはどないや?
苛められたら言うて来いよ(笑)
××××××
おはよー★
探してくれたの?
気に入ってくれてよかったー。
あれは、あたしの元気の源です。
聴くたび幸せな気持ちになるの。
大久保さんは、相変わらず優しいよ。
苛められるなんてとんでもない!
あたしが欲張りになってるだけで、やっぱり井上さんには敵わないなぁって日々実感・・・
これも片思いの醍醐味なのかもしれないけど・・あたしにはやっぱりしょっぱいかも。
でも、修くんが優しいと気持ち悪いよ(笑)
××××××
失礼やなぁ。
俺は基本的に女の子には優しいで!
たとえ元ライバルの妹でも!
××××××
それって、八方美人ってことじゃないの?
なーんて。
嘘です。
ごめんね、気にしてくれてありがとう。
××××××
ここ数日やり取りを続けている修君とあたしのメール。
やっぱり話を聞いてくれる人がいるってホッとする。
ここのところ、自分の音に自信が持てなくてなんか、不安だったから。
同じ、音楽を大事にしてる人に聞いて貰えると凄く助かるの。
方向修正出来る気がして。
いいなぁって憧れる気持ち。
純粋に、素敵だと相手を認めれる気持ち。
胸張っていいよって思える。
羨ましいなって、時々、無性に悔しくなる。
僻みや妬みなんて、一生縁がないって思ってたのに。
基本、彼女持ちの人は好きにならないタイプだし。
だって、傷つくのは怖いからね。
あたしは怖がりなのだ。
だから、お兄ちゃんみたいに、しーちゃん一人に夢中になるなんて出来ない。
きっと・・・そうだ。
修君みたいに、割り切って恋をするタイプ。
って・・・ずっと思ってたのに。
「・・・嫉妬かぁ・・・」
閉じた携帯を手に呟いたら、しーちゃんが不安そうな顔であたしのことをじーっと見た。
しーちゃんは、お兄ちゃんと付き合い始めてから変わった。
なんか、子供っぽさが消えて、女らしくなった。
これが”愛される”ってことなんだろうか?
「嫉妬してるの?」
「だってあたし、片思いだもん」
ううう・・・口にすると凹むなぁ・・・
「あ・・・ごめんね」
素直なのがしーちゃんの良いところ。
すぐに思ったこと口にしてしまう。
嘘が付けないタイプ。
だから、お兄ちゃんはすごく安心だそうな。
顔を見ればしーちゃんの気持ちは大体分かるから。
「あたし・・・自分の音が濁ってる気がするんだよね」
奏でるバイオリンの音色が。
空気を揺らす音の波が。
少しずつ、暗い闇の色が滲んでる気がする。
この間まで、あんなに憧れてた女性なのに。
いいなぁ・・・その気持ちが、悔しいなぁ・・・になったら・・・負けだと思う。
「負けちゃうで。そんだけ相手を好きってことやろ?嫉妬も含めて片思いちゃうのん?上手くいくばっかりの恋愛なんか面白ないよ」
電話の向こうで修君が言う。
上手くいくばっかりの恋愛・・・
「あたし・・・上手くいかない恋はしたことないんだもん」
「わー強気な発言やなぁ。片思いして泣いたこと無いの?」
「見込み無い人に恋したことないよ」
「そっか・・・・初めてやったらそら辛いなぁ・・・」
「修君は?片思いして泣いたことある?」
ふと興味が湧いて尋ねてみる。
ピアノ一番、恋は二の次。
いつもそう豪語する彼だったから。
「もちろん、ある。泣く泣く諦めたこともあるよ」
「・・・・そうなんだ・・・・」
「なんや、意外か?」
「・・・割り切ってお付き合いできる人だと思ってた」
いつだって。
「恋愛やもん。一方的に付き合いましょう別れましょうてでけへんよ。気持ちが通じんことなんてぎょーさんあるよ」
「・・・ピアノ・・・」
「え?」
「ピアノの音・・・濁っちゃわない?」
「・・・・・さー・・・どやろ。でも、ケンカしたり、別れたあとの練習は荒んだ音になるなぁ。けど・・・恋愛すると、音に深みが出るらしいで?」
「深み・・・」
「心が感じたことは、絶対音に出るってのがうちの先生の・・・しいて言えば、まどかんトコのマスターの教えらしいから」
「・・・・音に出る・・・か」
「そやから、嫉妬も怖がらんでええよ。その時のありのままの気持ちを、音にしたらええんや」
嫉妬の気持ちも、なにもかも。
今の自分・・・ありのままで。
「・・・がんばる」
いまのあたしには、それしか言えない。
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