第11話 聞きたい言葉
「しーちゃん!!」
友英の校門を出るなり呼び止められた。
制服姿のお隣の女の子を見つけてあたしは声をあげる。
「まどちゃん!!どうしたの?お兄ちゃんに用事・・?」
問いかけたあたしの腕を掴んで、まどちゃんがかぶりを振る。
「ちがうよ!!しーちゃん待ってたの!うちと授業終わるの時間違うから、6限フケて来ちゃった」
「えええ!?フケてって・・」
超お嬢様学校にあるまじきセリフ聴いた気がする・・・大丈夫なの・・?
聖琳女子の制服が泣いてるってば・・・
「大丈夫、大丈夫。具合悪いって言って帰ったから」
「だ・・だからって・・」
焦るあたしの手を引いて、まどちゃんは足早に駅に向かって歩き出す。
マシュマロみたいな見た目とは裏腹に、結構大胆なんだよなぁ・・
聖琳女子の制服は目立つから、あんな場所で立ち話するわけにもいかないけど。
「それより、しーちゃん!!」
「は・・はい」
「お兄ちゃんとうとう言ったの!?」
「え・・・」
「だーかーらー!!お兄ちゃんと付き合うことにしたの!?」
「・・・・な・・なんで・・?」
「びっくりするくらい機嫌良いんだもん!にこにこしながらピアノ弾いてるし・・しかも甘ったるい曲ばっかり!絶対しーちゃんと上手くいったんだと思ったのに・・違うの?」
「ち・・違うって言うか・・・い・・いきなりはなぁ・・ていうか・・・その」
「なにがいきなり!?もしかして、もうキスしちゃった!?」
「や・・ちょ・・・ま・・まどちゃ・・」
もう真っ赤になってなにも言えないあたし。
こういうのをたじたじって言うんだろうなあ・・・
「で?どっち!?」
ずずいっと詰め寄られて、あたしは今にも消えそうな声で
「・・・ほ・・ほっぺに・・」
と暴露することになる。
あたしの決死の告白を聞いたまどちゃんの反応は
「頬!?・・・なにやってんのお兄ちゃん・・」
だった。
あれ以来、菫哉はびっくりする位優しい。
なんか、あたしは反応に困る・・・
だって、菫哉の優しさはこれまでと全然違うのだ。
”幼馴染”に対するのとちょっと・・いや・・だいぶ・・違う。
あたしのことを”女の子”として見てる。
いや、当たり前なんだけど。
そうなんだけどね。
でも・・・あたしは誰かから特別な”女の子”扱いされたことなくて。
正直、どうして良いか分からないのだ。
スキって気付いただけなのに。
なんで、こんなに色んなこと考えちゃうんだろう?
これからのこと、これまでのこと。全部。
今からバイオリンのお稽古だというまどちゃんと駅で別れる。
悩んでるってことはないんだけど・・・
時々不安になる。
あたし、どうしたらいいだろうって・・
菫哉に対して、どうしたらいいだろうって。
好きってことすら言えてないのに。
色々考えこんでいたら、携帯が鳴った。
「もしもし・・・菫哉・・?」
呼びかけた自分の声が、意外なくらい不安げで驚く。
菫哉は歩いてるところらしい。
後ろから雑音が聞こえる。
「しー・・・いま、どこ?」
「え・・・駅」
正しくは駅のコンビニ。
まっすぐ帰ろうかどうしようか悩んでいたのだ。
「これから、ピアノ弾きに行くんだけど、一緒に行く?」
「え・・・どこで?」
「俺の従兄が行きつけのジャズバー」
「・・・制服で平気・・?」
お酒出すような店ならまずいんじゃないのかな?
あたしの質問に菫哉が“平気だよ”と言った。
「今日は打ち合わせかねたリハだから。昼間はただのカフェだし」
「じゃあ行く」
頷いたら菫哉が嬉しそうに笑った。
「良かった。詩音の好きな曲も弾くからさ」
「・・・うん・・」
ほら、前ならこんなこと絶対なかったのに・・・
駅前で待っててと言われて、あたしは携帯手にしたまま考え込む。
★★★★★★
「いらっしゃい・・あれ・・彼女?」
「まあ、ソンナトコ」
電車で2駅。
徒歩5分の雑居ビルのはずれにそのお店はあった。
古いレンガと木の建物。
味があるってこういう事を言うんだろうなぁ・・・
こういうお店に来たことのないあたしと違って、すでにお店の人とも顔見知りらしい菫哉はすたすたと店内に入って行く。
「ピアノいじっていいんですよね?」
「ああ。弾きやすいようにどうぞ。何にする?」
「俺はアイスコーヒー、詩音は?」
「えっと・・ジンジャエール」
「詩音ちゃんかぁ。可愛い名前だね」
「名前負けしてるってよく言われますー」
「そんなことないよ。良い名前だ」
おじ様マスターの言葉に嬉しくなる。
気に入ってはいるのだ。
ちょっと勿体ないかな?とも思うけど。
そんなあたしの腕を引いて、菫哉がピアノへと近づく。
板張りの床。古いテーブル席が3つソファ席が2つ。
カウンターを過ぎて奥に進むと、バルコニーに続く大窓の手前にグランドピアノが置いてあった。
スタインウェイ。
あたしでも聞いたことのある有名なピアノだ。
「調律なんて出来るの?」
「父さんにちょっと習ってるんだ」
「知らなかった」
「言って無かったもん」
彼のお父さんは音楽関係の仕事をしているのだ。
一通りの楽器なら弾けるんじゃないだろうか?
今は、主にクラシックCDの制作に携わっているらしい。
「・・・いつ弾くの?」
「本番は来週」
「・・来週も来ていいの?」
「もちろん、ホントは来週呼ぶ予定だったんだけどね」
そう言ってゆっくり鍵盤を叩く菫哉。
「しーの顔見たくなったから、携帯鳴らしてみたんだ」
「・・・」
悪びれずにそう言って、あたしの指先にそっとキスを落とす。
触れた先から一気に体が熱くなって、立ちつくすあたしがいた。
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