第23話
「一旦、一旦話だけでもしないか?」
「しない」
俺はタクトの言葉を聞かずに攻撃を続ける。
もう余裕がなくなって最初の威勢がなくなっている。
今のあいつに最初のイキッてた姿を見せてやりたいくらい高低差がある。
「ほらほら、もう限界なんじゃねぇの?」
「私は絶対に諦めない」
セリフだけ聞いたらどっちが悪者か分からなくなってくる。
「君の目的はなんですか?」
「お前をとっ捕まえて宝石を取り戻す」
「お金には興味ない?」
「ない」
「お金があったら良いことがいっぱいあるよ」
「興味ない」
どうやらコイツは俺がコイツを捕まえる理由をお金だと勘違いしてるらしい。
残念だったな、俺が興味があるのはカレンちゃんだから。
しばらくモグラ叩きを続けているとタクトの方に疲れが見えてきた。
それにしても随分と奥の方に来てしまったな、屋敷とは距離が空いてしまった。
だからか俺の応援に誰も来てくれない、普通だったら戦ってる音が聞こえるはずだから来てくれてもおかしくないけどな。
「はぁはぁはぁ」
肉体的に限界が来てしまったみたいだな。
普段能力に頼って楽してるからこうなるんだぞ、これからは鍛え方を考えることだな。
「オラッ!」
「ヒッ!」
俺は刀を投げた。
そしてタクトが出てくる所を予想して先回りをしておく。
「そこだな」
「え…、ブッ」
俺はタクトが次のワープゲートを出す前にタクトの顔面に拳を入れる。
はぁ〜スッキリした。
ちょこまかちょこまか逃げやがって、大人しく最初から捕まっとけよ。
俺に殴られたタクトは木にもたれかかって伸びてしまっている。
こいつのどこかに宝石はあーるーかーな…。
クソ、ねぇじゃねぇか、どこに隠しやがったんだよ。
聞き出すにはこいつが起きてからじゃないと無理だな…、起きるの待つか。
「おい、おい」
と、思ったが待つのはめんどいから軽くビンタをして起こす。
「…ん」
「さっさと起きろ」
「はっ!ここはどこだ?」
「そんなベタなやついいから」
「…そうだった」
俺の顔を見てさっきまで何が起きてたのかを思い出したようだ。
「宝石はどこにやった」
「どこにやったかな?」
パチンッ!
ニヤニヤしながら答えたかムカついたからビンタした。
「どこにやった」
「イタッ!ビンタしなくても良いだろ!」
「顔がムカついたから」
「せめて場所を教えなかったからにしてくれよ」
「早く教えろ」
俺は手を上げてもう一度ビンタをするぞ、と威嚇をする。
「分かった、分かった、教えるから!」
素直でよろしい。
「私が変装してたレンの所です」
「はい?」
俺は予想外の答えすぎて理解ができなかった。
「今回の宝石は私の欲しい物ではなかったのでお返ししました」
「欲しい物ではなかったのでお返ししました?」
俺はタクトの言葉を繰り返す事しか出来なかった。
「いつ」
「盗んですぐ確認してお返ししました」
すぐ?
「そういえばレンはどこにやったんだ?」
すっかり忘れてた。
そら、変装するなら変装元はどこかにやらなくちゃいけないからな。
「屋敷の近くの公衆トイレにいますよ。気絶させるために何発か殴ってしまいました」
殴ったのはむしろナイスなのだが…。
「もしかしたらまだ目が覚めてないかもしれませんね」
…
……
………は!
俺は最悪の未来が見えてしまった。
起きてはいけない未来が。
俺はレンがいる場所へ全力で向かった。
タクトの事はもうどうでも良かった、俺は宝石を取り返してカレンちゃんに好意を抱いて欲しかった。
タクトを捕まえて大人数からチヤホヤされるよりカレンちゃん1人が俺を好きでいてほしかった。
だから頼む間に合ってくれ。
***
「いねぇ!」
屋敷の近くの公衆トイレにレンの姿はなかった。
まずい!もう屋敷に着いたらかもしれない。
俺は再び走り出した。
頼む、最悪な事態にはならないでくれよ。
***
「本当にありがとうございます」
「あ、ああ」
カレンちゃんはレンの奴に泣きながら抱きついていた。
それを周りの奴らが拍手しながらレンの奴を讃えていた。
「私のためにそんなボロボロになって」
「お、おぉ」
俺が思い描いた1番最悪な結末になってしまった。
カレンちゃんはレンがタクトと戦ってボロボロになりながらも何とか宝石を取り返して来たと思っている。
でも実際はタクトにボコボコにされて、トイレで気絶していただけで何もしてない。
ただ、ボロボロになった状態でタクトが宝石を持って屋敷にやって来ただけだ。
だが、カレンちゃんからしてみれば宝石を取り返しくれたヒーローになってしまう。
あれ…、涙が出てきた。
こんなにも努力が報われない事あるものなのだろうか。
膝が痛いなぁ、と思ってたら膝から崩れ落ちていた。
体を起こしておくのもしんどいから床に手をついて涙が落ちていくのを眺める。
また俺は彼女ができなかったようだ。
こんな光景を見たら普通は反応してくれるはずなのに宝石を取り返してれたレンの方ばかりに注目が集まる。
それならせめてタクトの奴をとっ捕まえて差し出せばトントンになってたかもしれない。
次会ったら容赦なくとっ捕まえてやる。
はぁ〜彼女がほしい…。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます