第22話

 最初はレンだと思ったが、俺の事が嫌いなレンは俺の事をジンとは言わない。


 そのおかげでタクトの変装を見破ることが出来た。


 変装を解いたタクトは真っ黒なスーツを着て、シルクハットを被り、奇妙な仮面を付けている。


 脚が長いからスーツがメチャクチャ似合っている。


 俺もああいう風にスーツを着こなしてみたいよ。


 そんな事は置いておいて、まさかタクト本人が自ら来てくれるとはな、これはラッキーだ。


 ここでこいつを捕まえてしまえば俺の評価は鰻登りだし、カレンちゃんは俺に惚れる事になる。


 見えたぜウエディングロードが!


「悪いが、お前にはここで捕まってもらうぞ」


 正直に言ったら俺はこいつに恨みも何も無いが、カレンちゃんを手に入れるために犠牲になってもらうぞ。


「フフッ」


 タクトは仮面の上からでも分かるくらい大きく鼻で笑った。


「おっと失礼。あまりに可笑しくて」


 ムカつく喋り方だな。


 レンとはまた違ったムカつきがこいつにはあるな。


「この一ヶ月レンさんに変装するため周りについて調べましたが、あなた魔力が無いそうですね」


 こいつ結構念入りに調べてやがるな。


 イケると思った段階で予告状を出したんだろうな。


 だが、レンが俺を名前で呼ばないのは意識しないと気づかないよな。


「ああ、なんて可哀想なんでしょうか。生まれながら魔力が無いなんて」


 こいつは劇か何かをしてるのか?ムカつく喋り方しやがって。


「勝手に哀れんでじゃねぇよ」


「これが哀れずにいられるのでしょうか?否、君は可哀想な男だ」


 何だよこいつの1人語り。


 会話に見せかけた1人語りだからなこれは。


「それに比べて私はとても恵まれた」


 お、次は自慢か?


「私はワープの魔法が使える」


 へぇ、ワープ魔法を使う奴には初めて会った。


 ワープ魔法を使う奴は珍しいし、使えたとしてもランダムで出口が決まるから使い勝手が悪いらしい。


「こんな風に」


 少し小さなワープゲートを出し、右手を入れた。


「うお」


 するとタクトの右手の人差し指が俺の右頬をツンツンしてきた。


 俺の右頬の近くにワープゲートを出しやがった。


 という事は、こいつは随分とこのワープの魔法を使いこなせれる事が分かる。


 それに大きさも調整出来るから天性の物だな。


「これで分かったでしょう。私がどれだけ恵まれているかを」

 

 やっと終わったか?長い自慢だったなぁ。


「で、今から自己紹介をしようと思い「長い」


 俺は刀を抜き、タクトに切りかかった。


「やばっ」


 タクトは急いで自分のワープゲートに逃げ込んだ。


「そこだな」


 俺はすかさずに出てきた所からタクトを切りにかかる。


「ちょっ!」


 またタクトは必死になってワープゲートに逃げ込んだ。


「待っ!」


 そんなので俺が待つわけが無いため構わず切りかかる。

 

「どうやらあれだな。上手く制御は出来るけど遠くには出せないみたいだな」


 普通だったらこんなピンチだったらできるだけ遠くに逃げようとするけど、近くに留まってる。


「ギクッ」


 分かりやすい反応ありがとう。


「でも、普通の奴だったら逃げ切れる距離だからな!」


 それは俺を褒めているのか、それとも普段はすごいんだぞと伝えてるのかどっちなんだ?


「さぁ、このままだったらお前の魔力切れ待ちになるだけだぞ」


 俺はこんなんじゃ体力は減らないから朝まで付き合ってやるぞ。


 こんなモグラ叩き状態をいつまで続くかな。


「ま、待て。交渉しよう」


「フンッ」


 そんなの俺が応じる必要がない。


 タクトの言葉に耳を貸さずに俺はただひたすらにモグラ叩きを続ける。


「とうとうお前が捕まる時が来たみたいだな」


 どうやら有名な泥棒らしいから俺が捕まえたら一気に有名人になってしまう。


 …長かった、やっと異世界転生してチート無双ハーレムの欲張りセットが出来る。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る