第11話 夢のつづき・豆知識2

「よし、じゃあ行くよ!」

 あらためてゴムを目いっぱいに巻き、40度くらい上を向けてそっと投げる。するとさっきよりももっと飛んだ。

 落ちる直前に右にかたむいたのを見て、学が左を重くしようと言った。重さを調節ちょうせつして投げると、もっともっと飛んだ。


「今の、どのくらい飛んだかな!?」

 興奮こうふんしてレオは聞いた。

「100メートル近くは行ってるよ!」

 学も興奮して答えた。


 ずいぶん飛んだ。

 レオはうれしくて、落ちた飛行機を取りにけ出した。


 順調じゅんちょう調整ちょうせいのコツをつかんで、4号機のテストではついに公園のはしから端まで飛ばすことができるようになった。

「ここから先は飛行機を旋回せんかいさせよう」

 学が言った。そうすれば、広場の外に飛び出させずに距離きょりばすことができる。レオは学に教わって、尾翼びよくを少しひだりかたむけた。これで左に旋回するようになるらしい。


 ゴムをしっかり巻いて手を離すと、機体がスーッと舞い上がった。3人は期待きたい眼差まなざしで飛行機を見上げた。

「早く、旋回せんかいせんかい!」

「きゃははははは!」

 学とアンジュが、みょうり上がっている。


 飛行機はみんなの期待きたいこたえるように、くるーっと大きく旋回し始めた。広場をかこむ木々の高さを追いして、空へと、いこまれるように高く高くのぼっていく。3人は空を見上げた。白い雲に、飛行機の小さなかげす。


「うわーっ。 すごいなー!」


 まるで空を自由に飛ぶトンビのようだ。どのくらいの時間がっただろう、今度は大きく旋回しながらりてきた。


「なに今の!! すごい高さじゃなかった?」

「2~300メートル、いやもっと上がってたかもな」

「おお~っ! やった!」


 広場の端の草むらに落ちた4号機をひろいあげる。

「よーし。じゃあ、次はいよいよ5号機だ~!」


 それから5号機のテストと調整が始まった。あつい中、二人は夢中むちゅうになって、何度もテストをくり返した。



 次の朝。

 レオは飛行機を作らず、子供部屋のつくえに向かっていた。夏休みなのだから、朝はまずは宿題! ではなくて、つくえの上にはアンジュの飛行機が。レオはそのあちこちに定規を当てては、設計図せっけいずを書いていたのだった。


 ピンポーン。

 そこに学がやって来た。


「5号機は、4号機よりずいぶん重いだろ? その分、ゴムにもっとパワーを持たせる必要があるのかもしれないな。プロペラももっと大きくしないと」

 実はきのう、期待きたいの5号機は、残念ざんねんなことに4号機ほど高く飛ぶことはできなかった。だから学は次のテスト飛行に向けて、夜のうちに色々と考察こうさつをしてきたのだ。

「それから、きのうはうっかりしてたけど、次はアンジュの重さに相当するおもりを乗せて実験じっけんしないとな」


 いつものレオならここで学といっしょになって、これからどんな工夫くふうをして記録きろくばそうかと目をかがやかせるところだ。ところが、レオはしずんだ顔で言った。


「あのさ、やっぱりゴムはやめて電池にしようよ。学も最初、その方がいいって言ってたよね」

「ええっ?」

 設計図を書くレオから、 “ねり消し”という名の消しゴムのかすをもらって遊んでいたアンジュは、突然とつぜんの話におどろいて顔をあげた。

「どうした? 突然とつぜん

 学が聞く。


「きのうの4号機、ずいぶん高く飛んだと思ったんだけど、あれで2~300メートルっていうんじゃ雲までなんてとどきっこないなって思って」

「あきらめるの、早いな。らしくない」

「……別にゴムじゃなくても家に帰れればいいんだからさ、電池でいいじゃん。その方が、確実かくじつなんだろ?」

「確実かどうかは、まだしっかり調べたわけじゃないから本当のところはわからないが。ゴムで動かす方が、軽い分、有利ゆうりかもしれないという気も今はしてる」

「うーん、そうなんだ」

「それにレオは、アンジュの飛行機のデザインを気に入ってると言ってたじゃないか。電池なんて乗せていいのか?」

「いいよ、このさい。デザインなんて」

 いつもは見た目のよさも大切にするレオが、「デザインなんて」と言うなんて、なんだかおかしい。

「ちょっと! わたし、やり方変えるなんて話、聞いてないんですけど!?」

「何かあったのか? レオ」


「……あのさ……」

 レオは二人に、夢のことを話そうかとなやむ。


「おやつ取ってくるから、アンジュはちょっとここで待っててっ!」

 そう言うとレオは、「学はこっち来て!」と学の手を引っぱって部屋の外へ出た。

「あっ! こらっ! あんたぜったい、おやつじゃないでしょっ! 何たくらんでんのよーっ!」

 残されたアンジュのさけび声が、大きく――といっても実際はかなり小さいんだけど――ひびいた。


 レオは部屋からはなれると、学にこの前見た夢のことを打ち明けた。

「実は――夢で見たんだ、完成した飛行機のゴムが途中とちゅうで力きて……その……」

 むねがつまって、なかなかそのつづきを言葉にすることができない。


「だから……なんと言っていいか……つまり、大丈夫だいじょうぶなのかなって。もしもだよ、もし、失敗しっぱいしたら、いったいどうなると思う? アンジュは……」

 レオはこわごわと学に聞いた。

「……死んじゃうんじゃない?」


 死ぬ、という言葉を口にするのはとても怖いことだった。想像そうぞうするのもいやだった。アンジュの前では、こんなことはぜったいに言えない。でも学には、自分が何を怖がっているのかを知ってもらわなくてはとレオは思った。二人でなら、切りぬけられるかもしれないのだから。

「だからぼくは、アンジュを無事に家に送りとどけられる飛行機を作りたいんだ」


 人に使ってもらう物を作るというのは、大変なことだ。作ったもののせいで事故が起きたら、作った人の責任だ。レオのおじいちゃんが言っていたのもそういうことだったんだと学は思った。

「そうか……そうだよな。わかったよ」


 自分が作りたいように作るというのではなく、使う人を大切にしようとしているレオを、学は応援おうえんしたいと思った。


「――電池で飛ばす方法を検討けんとうしてみるか。それにさがせば、電池とモーターも小さいヤツがあるかもしれないしな」



★ここで豆知識まめちしき!★ 【その2】

 みんなは電池がどんなものか見たことあるよね? どんな時に使うのかも、きっと色々知っているよね。

 じゃあモーターはどんなものだか知ってる?

 このお話の中で、電池を使うアイデアが出てくるときには必ずモーターもいっしょに登場するけど、プロペラを「くるくる」回してくれるのは電池じゃなくてモーターなんだよ。電池はプロペラを回すんじゃなくて、モーターに元気をあげる「ごはん」のような役目をしているんだ。

 ではゴムはというと、くるくる巻かれたゴムが元にもどろうとする力でプロペラをくるくるまわしているんだよ。

 電池とゴムの重さについて、学はゴムの方が軽いと言っていたけど、身近にある電池と輪ゴムを思い浮かべてみると確かにそんな気がするよね。でも、よく飛ばそうと思うと長ーいゴムが必要で、その重さに比べるとそれよりずっと軽い電池やモーターも身のまわりをよく探したらたくさんかくれているんだよ。

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