第7話 研究開始!・豆知識

「わたしの住んでた場所?」

 雲の上って、どんな所だろう。レオも学も、これまで雲の上にはだれも住んでいないと思ってそだってきたんだけれど。

「すっごく気持ちのいい所だよ。こんっなにバカあつくなくて、とってもすずしくて~」

「なるほど。高い所に行くほど、気温は下がると言われてるもんな」


「明るくて、地面が白くてふわふわしててね。小さな島になってるんだ」

「うわ。ほんとに雲の上じゃん」

「家は? 雲でできてるのか? 食べ物は?」

「あっ! わたがし!? わたがし食べてるんだろ?」

「あははははっ。あなたたち人間には見えないだろうけど、空気の中には窒素ちっそだとか炭素たんそだとか、ほかにもちっちゃなつぶがたくさんあってね~。それがあれば色んな物が作れるんだから」

 アンジュはふふんと鼻をならした。


「へ~。よくわかんないけど、すごいじゃん! 色んな物が作れるって! 目に見えないものから、いったいどうやって色んな物が作れんの?」

 物を作る話に、レオは目をキラキラかがやかせた。

「ま、そこはあれよ。まあ、いろいろね」

 アンジュは適当てきとう返事へんじかえす。

「いろいろって?」

「……。そこはどうでもいいじゃない。とにかくわたしの住んでたとこはそんな素敵すてきな場所ってことよ」

「へ~。そういえば飛行機も雲の上で作られてるんだよね? すごいよね~。いったいどうやって作ってんの???」

 興味津々きょうみしんしんでせまってくるレオ

「だーかーらー。もうこの話は終わりだって。はい、どっか行って!」

 そんなレオを、アンジュはうっとうしそうに追いはらった。

「ちぇー」


「雲の上で飛行機がどうやって作られたのかも気になるところだが、ぼくらがかんがえることはほかにあるよな」

「そうだった!」


 学の声にレオはゴーグルをおでこにはめた。気持ちを飛行機作りに集中させる。

(アンジュの家があるのは、空高い雲の上!)

「どうしたら、そんな遠い所まで飛行機を飛ばせるだろう?」


 レオと学との間で、どうすればよく飛ぶ飛行機が作れるのかの“研究”が始まった。レオの疑問ぎもんに、学は本やスマホを駆使くしして答える。

「電池でプロペラを回すのが、一番簡単かんたん確実かくじつだろうな」


 動力のないアンジュの飛行機には、「プロペラ」とそれを回転させるための「エンジン」をつけることが必要だ。

 エンジンの種類しゅるいはいくつもある。電池、ゴム、圧縮空気あっしゅくくうきねつや風を利用りようしたエネルギーを使うことも考えられる。

 そんな中で、電池をモーターにつないでプロペラを回せば、速い速度で長い時間クルクルと回っていてくれるから簡単によく飛ぶものが作れるんじゃないかというのが学の考えだった。


「でもほら、この飛行機ってさ、この骨組ほねぐみとはね透明とうめいっぽいところがすごくカッコいいじゃん? そこに電池を乗せたら、台なしじゃないかな」

「やっぱりレオはそういうことを言うんだな。それならオリジナルのエンジンでも作るか。スターリンエンジンなんかどうだ? かっこいいぞ」

 学はスマホにスターリンエンジンの写真を出して、レオに見せた。なんだか複雑ふくざつそうなものだ。

「こんなもんできるのかな」

「作りたいだろ」

「ううっ、作ってみたいっ……」

 レオのできるかなは、やってみたいの意味でなのある。


「何を考えてるのか知らないけど、何にしてもわたしの飛行機に手は出させないんだからね」

 二人のやり取りを、アンジュがにらみをかせて見張みはっている。

 

「それかさぁ、こんなのは?」

 レオはスケッチブックを持ってきて、アンジュの飛行機の絵をババッといた。

「この飛行機にはね、真正面にプロペラをつけるのがいいと思うんだ。こんな風に。この飛行機のカッコよさをぶちこわしたりしないようなやつ」

 そう言って、絵にプロペラを足す。ぬすみ見るようにその絵を見たアンジュが、はっと息をのんだ。


「だからエンジンも、元の形の邪魔じゃまにならないすっきりしてるやつがいいからさ、なるべく目立たないゴム動力なんてどうだろう?」

むつかしいことを言うな」

「でもカッコいいでしょ?」

「ゴムは、き具合をいつも同じにすることもできないし、ほどはじめた時とほどけ終わるころとではプロペラを回すいきおいがちがうから、どのくらい飛ぶか予想よそうしにくいよな。たぶん空まで行くにはパワーが足りないんじゃないかと思うんだが――」

 と言いながら、学はスマホをちゃちゃっと操作そうさする。

「――ただ、10キロ飛ばす人がいるという話はネットにってるな」


「10キロ? うわっ。すげー。たしか学校までが1・5キロだよな!?」

 それよりもずっと向こうまで飛ぶなんて。レオは大興奮だいこうふんだ。

「確かにこれは想像以上そうぞういじょうだな。これはもしかすると――」

「雲まで行けそう?」

「どうだろう、雲は種類しゅるいによってどのくらいの高さにあるかがちがうんだが――」

 学はまたスマホで何かを検索けんさくする。

「アンジュと出会った日は天気がよかった。それから、さっき島のような所だったという話が出ていた。そこから考えられるのは、アンジュが住んでいたのは綿雲わたぐもという種類しゅるいの雲だ。だとすると、そこまでの距離は――高さ2000メートル」

 2000メートル。つまり2キロ。

 二人の目がキラリとかがやく。

「そっか。じゃあ――まずは設計せっけいかな?」


 二人はベッドにこしかけ、スマホや本をとっかえひっかえのぞきこんだ。材料ざいりょうは何がいるかだの、どういう工夫くふうができるかだの、二人の話はどんどんふくらむ。10キロ飛ばした人がいるという話があったけれど、どう考えてもそれは特別な人だ。きっとよく考えて、ていねいに飛行機を作ったはずだ。雲の上を目指すのだから、レオも学も、それに負けないくらいの物を作ってやろうという気持ちだった。

 アンジュは楽しそうに話す二人を、つくえの上から一人つまらなそうにずっと見ていた。

「なによ。り上がっちゃって」


 学がふと顔を上げて、ふてくされているアンジュに言った。

「君の機体きたいがどんなわるか、うご!」

「は? 期待なんて……」

 するもんですかとさけびたかったのに、アンジュはたえきれず何時間ぶりかに笑い転げた。

「機体に期待! 機体に期待……! あははははは」

 笑いがおさまると、苦々にがにがしそうにつぶやいた。


「だめだ。改造かいぞうなんてさせないって言ってるのに。笑ってる場合じゃない……!」


★ここで豆知識まめちしき!★

 ゴム動力飛行機と言うのは、プロペラをくるくる回してそこにつながっているゴムをねじり、そのゴムが元にもどろうとする力でプロペラを回して飛ばす飛行機のことだよ!

 物語の中で、10Km飛ばす人がいると書かれているけど、日本には実際に10Km飛ばすことのできる人がいるんだって。


 このお話では、雲の上まで飛行機を飛ばしたいって言ってるけど、雲の種類しゅるいによってどのくらい高さのちがいがあるか知ってる?

 雲は、高いものだと1万3000m(13Km)というとても高いところにかんでいるんだよ。たとえば、すじ雲、いわし雲、うろこ雲なんていうのが、高い所にある雲なんだ。アンジュの乗ってた綿雲とは見た目がずいぶんちがうんだよ。

 それにくらべると、綿雲は2000m(2Km)だなんて、ずっと低いところに浮かんでいるよね。

 それこそ、10Km飛べたらとどきそうでしょ!?

 と、レオと学の二人も思ったんだけど……。


 でも実は、ゴム飛行機が出した10Kmという飛行距離ひこうきょりは、水平(横)方向に飛んだ距離で高さではないんだ。だからゴム動力飛行機が雲の高さにとどくかは、この数字からは残念ざんねんながらわからないんだ。

 でも、よく飛ぶゴム動力飛行機は、見えなくなるくらいまで上に上がっていくんだって。雲まで飛んで行ってるのかな? どうなんだろうね!

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