第6話 われながらいい出来

 アンジュが笑い上戸じょうごだとわかったので、次の日からレオはアンジュを置いて学校へ行くことにした。あんなにすぐにケラケラと笑いだされては、あっという間にみんなに見つかってしまう。


 ちょうどいいことに今は7月の半ば。もうすぐ夏休みだから、お昼までしか授業じゅぎょうがない。長時間アンジュを一人きりにしないですむ。

 レオは学校が終わると走って家へ帰った。暑くなった部屋の空気を入れえて、麦茶をアンジュに運ぶ。透明とうめいな小さなコップは、きのうプラ板で作ったものだ。


 それから急いでお昼をすませてそれも運ぶ。この日のメニューはそうめん。少し残しておいたそうめんを小皿にうつし、ペットボトルのキャップにつゆをついで、つまようじで作ったはしをつけて部屋に持っていく。人間の世界にだんだんなれてきたのか、アンジュはおいしそうに食べてくれた。


「レオー。もう一杯いっぱいお茶~! あと暑~い、扇風機せんぷうきつけて~」

 本当にすっかり、人間の世界になれたようだ。レオにもまったく遠慮えんりょがない。まあそれは最初からか。

 レオは扇風機をつけると、アンジュにもう一度お茶をわたした。コップを手にするアンジュの姿は、とても絵になる。サイズはピッタリ、フォルム(形)もいい。われながらよくできたと、プラ板コップに大満足まんぞくなのだった。


 アンジュの“お世話”が終わると、レオはベッドに工作の本をならべて読みだした。「わくわくプロペラ飛行機」「電池とモーターで動かそう!」「ゴム動力飛行機と飛行の科学」「動くおもちゃ上級編じょうきゅうへん」。きのうあの後、学が図書館でえらんでくれた本たちだ。


「レオさー、そんなの読んでもムダよ。飛行機には触らせないって言ったでしょ」

「でも、ぼくらがなんとかしなきゃ帰れないんだろ」

「……。べつにいいじゃない。だったらどうだっていうのよ」

「ほんっっっと、すなおじゃないな~。家帰りたいんだろ? だったらまかせなよ。ぼくらもむやみに改造かいぞうしたりはしないからさぁ」

 雲の上まで飛ばすためには、どんな仕組みを乗せればいいだろう。アイデアをもとめてページをめくる。

 ピンポーン。

「学、来たっ。はーい」


 学は、小さな手提てさげカバンをかかげて部屋に入って来た。

「アンジュにプレゼント」

「えっ、なになに?」

 二人が興味深きょうみぶかそうにのぞきこむ。学はつくえの上にカバンの中身を開けた。

 と、小さな服が出てきた。アンジュにいかにもピッタリなワンピースだ。


「ずっと同じ服だと、困るんじゃないかと思って。しかもつなぎじゃ暑いだろう」

「きゃー。かわいいっ! 学ってば気がきくじゃない!」

「なんだよ、学。これ、どうしたんだよ」

「それが……100きんでたまたま見つけたんだ」

「100均っ!? なんでそんな所にっ!?」

 こんな服がその辺の店にられているのか?

「小人とか天使って、もしかしてそこらへんにふつうにいるもんなのかな」

 考えこむレオ。学も同じように考えこむ。

「かもな。世の中にはまだまだ知らないことがたくさんあるということだろう」

 実は人形遊び用の服なのだけれど、二人はそんなこと考えつきもしなかった。


「ありがと。ほんとに暑いから助かったわ」

 アンジュはさっそく服をかかえて、牛乳パックの家に入った。そしてすぐに、

「ちょっと大きいけど、着れました~」

 と言って出てきた。ダブっとしたワンピースの首元をちょっと押さえながら、うれしそうににっこり笑う。

「とても――」

 そうほめかけた学の言葉を、レオが思いっきりさえぎった。

似合にあってない!」

「はあ? 失礼ねっ」

「今すぐいでっ」

「はあ~?」

 何を言ってるんだこいつはと、腹立はらだたしそうな顔でアンジュがレオをにらんでいると、学が「型紙かたがみの出来がゆるせないんだろう」と言った。


「悪いけどもう一度、元の服にもどってくれないか」

「別にわたしこれ、気に入ったのに……」

 しぶしぶ、着替えに向かうアンジュ。

「あ、ちょっと待って」

 その前に、と、レオはアンジュをつかまえると、7つ道具のカバンから巻尺まきじゃくを出して、かたやら背中せなかやらの長さをちゃっちゃとはかった。

「ったくも~。何を考えてるんだか」

 アンジュはぶつぶつ言いながら元のつなぎにもどった。レオはアンジュの脱いだワンピースを拾い上げるとつくえに向かい、定規じょうぎを当てた。


 ワンピースの向きをくるくると変えながらあちこち定規を動かしていたかと思うと、レオは紙に何かをメモした。

それから……

「ああっ」

 アンジュが悲痛ひつうなさけびを上げた。

 レオがカッターでい目をほどきだした。さらに、はさみでぬのに切れ目を入れたり、ついにはばっさりと切り落としたり。

「これが……破壊王……?」

 アンジュはレオの暴挙ぼうきょに目をおおうう。その耳に、「このボンド、確か耐水性たいすいせいだよな……」という声がとどく。

 うす目を開けると、レオがつまようじの先に耐水性の木工ボンドをつけて、ワンピースの切った部分をつなぎ合わせているのが見えた。

 そして、なぜか扇風機せんぷうきの風に当てて数分後……


「はい、これで着てみて」

 ワンピースはふたたび元の形にもどっていた。

「いったいなんなの?」

 アンジュは不審ふしんそうな目でレオから服を受け取る。

 レオはおもちゃ箱から万華鏡まんげきょうり出すと、中からかがみき、アンジュの家の中に立てかけた。


 着替え終わったアンジュは、ほほをふくらせて家から出てきた。

「これでどうよ」

 不機嫌ふきげんそうにレオに言う。

 ぶかぶかだった服は、すっかりレオにより生まれ変わっていた。すっきりとした首元。アンジュの手足の長さが引き立つフォルム(形)。アンジュのワンピース姿は見事に絵になる。

「さっきより、100倍、似合にあってるよ!」

 学が思わずさけぶ。

 レオはそれを聞いて、得意とくいげに笑った。

「だぼだぼの服なんて、動きにくいしカッコ悪いし、最悪さいあくだよ」


「大したもんだろ。レオって。技術ぎじゅつもすごいが、センスもいいんだ」

 ほこらしげに言う学。アンジュは、つんとして言った。

「ふん。まあまあなんじゃない?」

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