第8話 じいちゃんち

 土曜日がやって来た。レオは試作機を作りに、じいちゃんちに行くことにした。

「じいちゃんちでは、ダジャレを聞いても大声でわらわないようにね。見つかっちゃうからな」


 レオのじいちゃんは、一人で小さな工場をしてる。そこには色んな機械きかいや道具や、材料ざいりょうに使えそうな部品がいっぱいあるから、試作品作りにはバッチリなのだ。

 レオは7つ道具のカバンをかたにかけると、中にアンジュを入れた。

「だったら学に、笑わせないでって言ってよ。わたしに言われたって」

「あはは。学、かわいそ」

「それから、何をしに行くつもりか知らないけど、わたしの飛行機には絶対ぜったいへんなことしないでよ?」

「しないしない。何かする前にはちゃんと聞いてからにするから」

「絶対よ?」

 レオは飛行機を紙ぶくろに入れ、外に出た。


 自転車にまたぐと、うれしそうな声がした。

「おじいちゃんち、楽しみ~。もう3日も家に閉じこもりっぱなしだったもんね!」

 そう言われれば、学校に一度連れていってあげて以来、ずっと家から出してあげていなかった。

「来週の水曜からは夏休みだから、そしたらもっと外で遊ぼう。試作機ができたら飛ばしに行ったりさ」

 アンジュは、カバンからちょっとだけ顔を出して外をのぞきながら「うん、うん」と機嫌きげんよくうなずいた。


「今日はプロペラが作れるかをためしてみたいのと、つばさ修理用しゅうりよう材料ざいりょうさがそうと思ってるんだ。それから、いいゴムもね! じいちゃんちにはいいものが色々あるからね。ぼくの財産ざいさんはこの前、母さんに捨てられちゃったからさ」

 自転車でスピードを出していれば、アンジュにしゃべりかけても、だれにも気づかれない。アンジュの口からもカバンの中から見える景色けしきについて、はずむような言葉が次々と飛び出してくる。


「この自転車って乗り物、便利べんりだね~。わたしの町でも使えるかなぁ……って地面ふわふわだから無理か」

「アンジュの住んでるところには、飛行機はあるのに自転車はないんだね」

「車って、みんな同じなのかと思ったら、よく見るとみんなちがう顔してるんだね」

「顔はついてないけど、種類のことかな?」

「わっ、見て見て! 遠くにめちゃくちゃ大きい車いるよ?」

「あれはクレーン車。大きい建物たてものを作ってるんだよ」

「へぇ~、あんなもので作るんだ~。おもしろ~い」


 大きい通りに沿って少し走って、道路をわたって、家がたくさんってる道をくねくね曲がって線路の方に行くとおじいちゃんちがあった。家が工場なんだけど、一見いっけんあんまり工場には見えない。


 ガラガラと横に開くとびらが4枚もならんでいる入り口の前に、軽トラックとバイクが止めてある。そのとなりにレオは自転車を止めた。そこにちょうど向こうから学がやって来た。

「暑いな、今日は」

 レオのとなりに自転車を止める。

「やっほー!」

 カバンから手をふるアンジュ。


「学。じいちゃんち入る前に、ちょっとたのみを聞いてくれ」

「なんだ?」

「じいちゃんちではダジャレを言わないでほしいんだ」

「ほら、わたし人間に見つかるとこまるじゃない?」

 すると学はがっくりとかたを落とした。


「ほらー、がっかりしてるじゃんかー」

 レオがアンジュにこそっと言う。

「しょ……しょうがないなぁ。じゃあ笑わないようにわたしが努力どりょくするわよ」

 その言葉に、学はあわてて首を横にふった。

「いや、それはやめてくれ。それだけは。ぼくの冗談じょうだんに思いきり笑ってくれるのは、アンジュだけなんだ」

「そうなの……? 地上の人間って、ユーモアのレベルがきびしいのね」


 3人は、入り口に向かった。

「こんちはー」

 中に入るとすぐに大きな機械の前に立っていたじいちゃんが、「はいよー」と顔を上げた。

「よう来たな」

 じいちゃんはレオと学の顔をながめて笑った。学もよくレオに連れられて、ここに遊びに来るのだ。


 じいちゃんが使っている機械の他にも部屋の中には何個なんこか大きな機械があって、おくの方には大きな作業台が置いてあった。かべの片方は物がたくさん置いてあるラックになっていて、もう片方のかべぎわには木材やパイプがたばねてある。向こうの方に小さなドアがあって、日の当たる庭が見えていた。


「今さあ、ゴム動力飛行機を作ろうと思ってるんだけど、いい材料ない?」 

「夏休みの宿題か?」

「ちがうちがう。まだ夏休みじゃないし」

「まあ好きに見てまわれ。あぶないことだけはすんなよ」

 レオは二人を連れて、部屋のあちこちに置いてある小さなカゴや箱の中を見てうろうろし始めた。中には色んな道具や部品が入っている。


 ゴムはすぐに見つかった。その中でも、なるべく長いものをえらぶ。長いものの方が、たくさんくことができるからよく飛ぶのだ。

「ゴムは何重なんじゅうかにしてよく巻いた方が力が出るが、あまり巻きすぎると胴体どうたいが曲がる危険きけんがある。そのへん考えて作らないと」

「なるほどなるほど」

 修理しゅうりに使えそうな細い木のぼうと、けずればプロペラになりそうな板も見つけた。

「じいちゃん! これ、もらっていいー?」

「いーぞ」


「あとは、プロペラとゴムを本体にひっつけるための部品だな」

「それが一番難むつかしいよ」

 飛行機を出して作業台に置き、レオと学は見つけた材料をならべて見比みくらべる。アンジュはカバンの中から、二人を見守る。

「いろんなやり方が考えられるとは思うけど……」

 調しらべてきたことを言おうとする学を押しのけて、じいちゃんがりこんできた。アンジュがあわててカバンに頭をかくす。

「どれどれ。何がしたい? なに? ここにこれをつなげたい? だったら、ここにこう」

 えんぴつで飛行機の真ん中あたりを指しながら、どこからか持ってきたブリキの小さな板を見せ、それをめるようにと教えてくれる。

「それで、ここにじくを通して、こっちとこっちの間にゴムをかける。な。これでどうよ」


 じいちゃんは仕事でいそがしいと言いながら、よく二人の遊びに首をつっこんでくる。じいちゃんもレオと同じで、物を作るのが大好きなのだ。

「おー、さすがじいちゃん! じゃあその方法で行くとして、いよいよプロペラを作るとするか。じいちゃん、けずる道具貸して!」

「いきなりけずるんじゃなくて、最初に形を切り出してからやるんだぞ」

「わかってる、わかってる」


 じいちゃんはアンジュの飛行機気がつくと、

「えらく難しいことをやろうとしとるんだなぁ」

 と感心したようにつぶやいた。


「小4か。じいちゃんがそのくらいの年のころは、自分で手でけずっとったなあ」

 じいちゃんは、機械を使わずに自分の手で作っていたころの話を、いつもなつかしそうにする。ちょっぴり得意げに。

 電動のこぎりとか電動ドリルとかを使ったことがあるって方が自慢じまんになるのになぁと、レオは不思議ふしぎに思うのだった。

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