第3話 秘密の始まり

 公園を出てすぐに、あたりはすっかり暗くなってしまった。もっと早く帰ればよかったと後悔こうかいしながら、レオは道を急いだ。


 家の近くまで来ると、門の前に母さんがいるのが見えた。

(しまった)

 これは完全に怒られるパターンだ。それにあんなところに立たれていては、家にこっそりアンジュを連れて入れない。どうしようかと考えて、レオはアンジュをカバンの中へとかくれさせた。


「やっと帰って来た。どこ行ってたの」

 怒ると思っていた母さんは、ホッとしたような顔でレオをやさしくむかえてくれた。

「緑が池公園……。遠かったから、帰ってくるのに時間かかっちゃって……」

「おそいから心配したのよ」


 なんだか後ろめたい気持ちになり、レオはうつむきながら自転車を押して門を通った。自転車を片づけていると後ろで、母さんが電話を始めた。

「おじいちゃん? レオ帰って来たわ。ごめんね、心配かけて。よく言っとくわ。ほんとごめんなさい。じゃあね」

 近所に住むおじいちゃんへの電話だった。母さんはおじいちゃんを安心させるために、なるべく明るい声でレオの無事を報告ほうこくした。母さんだけでなく、おじいちゃんにもずいぶん心配をかけてしまったとわかり、レオはますますちぢこまった。


「今日は勝手にごめんね」

 電話が終わると母さんがレオにあやまった。どうして母さんが謝るんだろうと考えて、そういえば「家出する」と怒って飛び出したことを思い出した。

「でもこんなに暗くなるまで帰ってこないと、本当に心配するからね……何かあったりしたらみんな悲しむんだから、だめだよ……」

 しんみり言う母さんの姿に、レオの胸がきゅぅぅと痛む。

(家出するなんて、簡単に言っちゃだめなんだな。遅くなっちゃったし、悪かったな)


 でもあやまるよりもまず先に……

「じゃあもうこれからはぼくのもの、捨てない?」

 レオはこれがどうしても気になってしかたがないのだ。

「捨てないわけにはいかないけど……今度からはちゃんと聞いてからにするね」

 なんだ。全部捨てないって言ってくれたらいいのに!


「さあ、さっさとごはんにしましょうか。もう8時よ」

「えっ! もう!?」

 レオは母さんといっしょに家に入った。


 ご飯の前に、レオはアンジュをきに部屋にもどった。どこにかくそうかと、かくす場所をさがした。いつもはらかってるからアンジュ一人くらいそのへんに置いておいてもぜんぜんバレない――じゃなくて、空き箱が山ほどあるからかくれる場所を簡単かんたんに用意できるのに、今日は一つもない。しかたなくレオはつくえの上にアンジュを下ろして、一番上の引き出しを少し開けた。

「もしだれかが入ってきたら、ここにかくれて」

 言われて、アンジュは引き出しのおくをのぞく。

「なんか奥の方、暗くてこわいんですけど」

「じゃあ、電気つけたままにしとくから」

「早くもどって来てよ」


 夕食のおかずはレオの大好きなカラアゲ。すごくおなかが空いていたし大好きだから全部食べたかったんだけど、アンジュのために1だけがんばって残した。

 母さんが見てないすきに部屋に持っていこうと思っていたのに、その前に父さんが帰ってきてしまった。食卓しょくたくかれては、また持ち出すチャンスがなくなってしまう。レオはハラハラしながら、母さんが父さんを出迎でむかえている間に急いでカラアゲとご飯をラップに包んだ。


「おそくなってごめん」

 レオはアンジュの待っている部屋にもどった。アンジュは引き出しのすみでひざをかかえてすわりこんでいた。

「ご飯だよ、ご飯」

 レオは静かに座りこんでいるアンジュに笑いかけると、つくえに持ってきたものをならべた。「おそかったじゃない!」と言って飛びついてくると思ったのに、アンジュは座ったままおっくうそうにレオを見上げた。つかれたんだろうか。公園であんなに元気だったのがウソのようだ。


(よろんでくれると思ってたのに、なんかつまんないの)

 しばらくするとアンジュはのろのろと寄ってきて、たいしておいしくもなさそうにもそもそと食べた。

 つまんないの。せっかく大好きなカラアゲを分けてあげたのに。


 でも、しかたないか。

 家に早く帰りたいんだろうな。


 飛行機、きっと直してやろう。


 その夜。

 同じ部屋に小人がいると思うと、レオはなかなかつけなかった。しかたがないので起き出して、水を飲みに来たと言ってキッチンに行き、そーっと牛乳ぎゅうにゅうパックを部屋に持ち帰った。

 それを使って、7つ道具のカバンに入ったカッターと定規じょうぎとテープで、アンジュのために小さなドアやまどのついた家を作ってやった。窓際まどぎわには、タオルハンカチで作ったベッドを置いてやった。


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