第31話 探し人

友世は、営業フロアに入ると、足を止めてぐるりと視線を巡らせた。


社内でも大部分を占める営業関係の部署が全て集約されたフロアは、事務員と、営業担当がひっきりなしに行き交う。


何度来ても、この独特の混雑具合には慣れない。


・・やっぱり、電話とかした方が良かったかな?


思わず踵を返しそうになるが、そうもいかない。


目的があって来たのだから。


友世は、自分を奮い立たせてフロアの奥へと進んだ。


手前が国内営業で、左奥が国際部、右奥が法人営業。


すでに頭の中に入っているフロア図。


恐らく、いるなら手前のフロアのはず。


当たりをつけて、島になっている机の間を歩き出す。


さっきから、チラチラと窺う様な視線が向けられているが、それは無視した。


営業部のアイドルと呼ばれている瞬と付き合うようになってから、注目される事には慣れた、つもりだ。


実際には、社内の華と呼ばれる、総務部の友世と、営業部のアイドル、瞬の組み合わせが、志堂の代表カップルとして噂になっているのだが、友世にはその自覚が無い。


女子社員からのやっかみ視線から逃げる様に足早に奥へと進む。


が、目的の人物は見当たらない。


ここじゃないなら、次は・・・


考える様に立ち止まった友世に、女子社員が近づいて来た。


「大久保さんなら、いませんけど?」


どうやら彼氏を探しに来たと思われてたらしい。


友世は慌てて首を振る。


瞬に会いたくても、ここには絶対に来ない。


それは、瞬も重々承知している。


只でさえ目立つ友世を、男性が7割を占めるフロアに呼び出したいとは思っていない。


「違うんです!樋口さんは・・?」


瞬の上司の名を口にすれば、女子社員が首を傾げた。


「あー・・・樋口さんなら、お昼行くって言って、30分くらい前に出ていかれましたけど?」


「分かりました。すみませんでした」


頭を下げて、足早にフロアを出る。


本当は、佳織を捕まえたかったのだ。


樋口からの呼び出しがあって出て行ったので、てっきり此処かと思っていた。


30分前なら、食堂にはもういないだろう。


「どこ行っちゃったのかなー佳織さん」


外出中の課長から、折り返しの指示を受けたのだ。


放置するわけにもいかず、友世はエレベーターホールに向かった。


そもそも樋口が佳織を自分の部署に呼び出すだろうか?


「樋口さんなら、しない・・・かな」


友世と同じ理由で、佳織が嫌がる事を、樋口も理解している筈。


でも、樋口と佳織が二人で行きそうな場所なんて、想像出来ない。


せめて、連絡が取れれば良いのだが、あいにく佳織は、スマホを置いて席を外していた。


「何処・・・だろ」


待っていたエレベーターが到着する。


と、中から瞬が降りてきた。


「あれ、友世。どうしたの、うちの部署に来るなんて、珍しいな」


「瞬君、お帰り!!」


顔を見た瞬間、友世は満面の笑顔になった。


会社では絶対に見せない、瞬だけに向けた眩しい表情。


思わず立ち尽くした瞬が、嬉しそうに頬を綻ばせる。


「なに、俺に会いに来たとか?」


有り得ないと思いつつ、尋ねた瞬に向かって、友世が大きく頷いた。


「え!まじで!?」


予想外の反応に瞬がたじろぐ。


素直に喜んで良いとは思うのだが、如何せん信じられない。


そんな瞬の複雑そうな様子は綺麗に無視して、友世が、縋る様に恋人の腕を掴んだ。


「瞬君なら、知ってるよね?樋口さんの連絡先!!」


「・・・・え?」


たっぷり1分程沈黙した後で、瞬が言った。


友世が慌てたように言い募る。


「だから、佳織さんの旦那さんの・・・」


「そりゃ、上司だから知ってるけど」


「教えて!!っていうか、すぐに電話して!!」


「え・・・ちょっと待って、友世」


「なに?」


「それを知りたくて、俺を探してたの?」


「うん、そうだけど?」


あっさり頷いた友世が、早く早く!と急かす。


盛大に溜息を吐いて、瞬はポケットから先日新しくしたばかりの、最新スマホを取り出した。


ものの見事に期待を裏切られた瞬が、紘平の番号を表示させる。


「そんな事だろうとは思ったけど・・・何でまた」


思い切り不貞腐れながら、友世の髪に手を伸ばす。


その手を掴んで友世が言う。


「佳織さんも一緒の筈だから、すぐに部署に戻ってって、伝えて欲しいの。課長から、折り返し連絡頼まれてて」


「分かったよ・・・」


「ねえ、何か怒ってるの?」


怪訝な顔をする友世に、不意打ちのキスをして、瞬はやけくそ気味に液晶画面を操作した。

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例えばこんな最上恋愛 ~例えばこんな至上恋愛 スピンオフ~ 宇月朋花 @tomokauduki

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