第27話 未来はいずこ?
シンプルなペアリング。
それ一個彼女に贈っただけで、友世は泣きそうな位喜んで見せた。
こんなことなら、もっと早くそうすれば良かった。
”将来”を思い浮かべるたびに、自分の力不足を思い知る。
俺が、樋口さんや相良さんのように立ちまわれるようになるには、まだまだ時間が必要で。
それまでの時間、彼女を引き止めておく自信が無かったのも事実で。
結局は、力不足を言い訳に逃げてたワケだ。
気持ちで何もかも補えるとは思わない。
でも、気持ちがなきゃなにも変われない。
付き合ってから、今までで一番幸せそうな彼女の笑顔を見た時、心底思った。
やっぱり、離したくないんだよな・・・
しっかりしていて、実はヌケてるとこも。
社内でかなり人気なのにも拘わらず全く無自覚なとこも。
何かにつけて”年上だから”とお姉さんぶるくせにそこを突っ込むとすぎ不機嫌になるとこも。
どれも、彼女の一部で。
それらすべてを、全部愛しいと思える自分がいる。
生きてきた長さは関係ないよ。
一緒に生きてく長さが重要なんだから。
そう思えたら早かった。
彼女にその話をした次の日には、さっそくふたりでペアリングを買いに出かけた。
友世が好きな、ジュエリーショップ。
ショーケースから取り出されたばかりのリングを差し出して女性の店員さんが笑顔で
「おつけしましょうか?」
と尋ねてきたが首を振った。
神妙な顔で指を伸ばす彼女の左手を握って答える。
「いえ、大丈夫です」
「自分で・・・」
そう言いかけた彼女の指に細工模様の入ったシンプルなリングを嵌めこんだ。
★★★★★★
無意識だから怖い。
店に入った瞬間から、店員さんの注目浴びっなしの彼。
本人全く気にして無いけど・・・中に居たカップルや、女性客もチラチラとこっちを見てくるし・・・
慣れましたよ?
慣れましたけど・・・・!!
男の人から指輪嵌めて貰うなんて、普通あんまりない。
っていうか、ほとんどないと思う。
それこそ結婚式でもない限り。
そういうことを、人目があろうとなかろうとサラッとやっちゃうのが瞬君なんだもん・・
指先に握られただけで、ドキっとするなんて、あたし、よっぽど重症かもしれない。
それとも・・・・・このシチュエーションのなせる技?
そっと握られた左手の薬指に、躊躇うことなく嵌められていく指輪。
こうやって大事に扱われるたびに、思う。
・・・愛されてるなぁ・・・今更って感じだけど・・・
「・・・綺麗だね」
まじまじと指輪を見つめて、彼が感想を漏らした。
”指輪が”ね。
分かっていても、やっぱりドキッとする。
それとなく視線を店内に彷徨わせたら、予想通り女性店員の8割が頬を赤くしていた。
・・・分かってるけど・・・
あたしの左手を持ち上げて、瞬が問いかける。
「どう?」
「・・え・・・?あ・・・・うん・・」
「別のこと考えてたろ?」
「え・・・そ・・・そんなことない」
慌てて首を振る。
見惚れてました、とか絶対言えないし!!!
そんなあたしの頬を撫でて、瞬が呆れて笑う。
「他所見厳禁」
・・・だからっ!!!
真っ赤になったあたしを楽しそうに眺めて、狼狽えている隙に、良く似合ってるのでこれ決めますと店員さんと話を纏めてしまった。
エンゲージやマリッジはやっぱりうちの会社のモノがいいけれど、ペアリングなら普段使い出来る方が良いので、カジュアルブランドを選んだ。
さすがに二人揃って自社店舗を訪れたら大騒ぎになるだろうし。
結局あたしの分だけサイズ直しを依頼して、引き取り予定日を確認した後でお店を出る。
終始注目を浴びていたあたしは、いろんな意味で頬が赤い。
でも隣を歩く彼は、至っていつも通り。
顔色ひとつ変わっていない。
とっかえひっかえやって来る女性店員にも終始笑顔で対応していたし。
いえ、全く怒ってませんが。
きっと、人目に慣れてるんだと思う。
昔から、お母様の仕事にくっついて、料理番組の撮影スタジオなんかに出入りしてたらしいし、学生モデルの経験もあるから、知らない人の視線は気にならないみたいだし。
・・・羨ましくもあるけど。
彼の横顔を眺めていたら、彼がちらっとあたしの方を見下ろして言った。
「夕飯どーする?」
「・・・・え?」
訊き返したあたしの手を強く引いて、彼が耳元で低く囁く。
「・・・・なに考えてたの?」
「な・・・何でもない・・」
必死に首を振ったら、彼が意地悪い笑みを浮かべる。
「もしかして見惚れてた?」
「・・・・・っ」
声にも言葉にもならない。
黙り込んだら、図星ってことわかっちゃうのに。
でも、あとのまつり。
楽しそうに耳たぶにキスした彼が時計を確認した。
顔色ひとつ変えない彼の態度が憎らしい。
あたしは必死に言い返す。
「・・お・・お店の店員さんも・・みんな・・見惚れてたわよっ」
「・・・ふーん・・・ヤキモチ?」
「・・・そーよっ!」
咄嗟に言い返したら、彼が急に立ち止まった。
あたしの肩に腕を回して方向転換させられてしまう。
視線の先には、お馴染みの駅。
意味が分からず彼を見上げると、にやりと笑って瞬君があたしの手を握り直す。
そうして、不敵な一言が降ってきた。
「・・・今日は連れて帰ってもいいよね?」
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