第5話・離婚のきっかけ



 切っ掛けなんて些細な事だった。

いつものように義母に馬鹿にされ、普段なら流せることもその日は気に障った。

 そこで普段から思っている事が口をついて出た。



「私がこの家を出て行ったらどうしますか?」

「別にどうにもならないわ。ここは息子の家。出ていくなら勝手にどうぞ」



 義母は強気で言い放った。私にとってこの家は、夫と二人で築き上げてきた砦のようなものだった。そこに横から割り込んできた義母が、自分勝手に居座って夫に依存し、私に家事や育児のことは丸投げした。


 同居した初日から、自室に引きこもってベッドに寝っ転がって一日中、テレビを見ている毎日。


 食事は私に部屋まで運ばせ、片付けも人任せだ。部屋から出るのはトイレと、お風呂に入る時と、長電話をする時だけ。


 家の電話はリビングに置いてあるので、私が掃除機をかけている時にやってきて、わざとらしく電話をかける。そして電話の相手に「嫁は自分が電話をかける時にわざと掃除機をかけてきて、まったく気が利かないんだから」と、悪口を言っていた。


 姑は意地悪いと思っていたが、夫は田舎育ちの人だから、こちらの生活に慣れてなくて本人が戸惑っているだけとかばってきた。


 その田舎者の姑も、息子が小学一年生の時にやってきたのだから約十一年にもなる。そろそろこちらでの生活に慣れてもいいはずなのに、一向に覚える気もないせいか洗濯機の使い方は知らないし、掃除機のかけ方すら分からない。


 未だ、お客さま状態で暮らしている義母が、私が出て行っても構わないと言い切った。夫を溺愛している義母のことだ。私のことは夫を自分から攫ったいけ好かない女だと敵視していたし、別に引き止められるとは思ってなかった。でも、その後に言われた言葉が許せなかった。



「どうせ、出て行くなんて言うけど、口先だけのことで出来やしないだろう?」



 非常にこちらを馬鹿にしていた。その言い方に腹が立って仕方なかった。義母は私がいてもいなくとも別に構わないと思っているようで、


「あんたなんか息子の稼ぎがなければ一人では暮らしていけないくせに!」


と、その目が語っていた。


 義母にとって私は可愛い息子についた寄生虫でしかないのだ。私から見れば義母が寄生虫だけど。


 でもその義母の言葉で、「もう、我慢することもないか」と、覚悟を決めた。そしてその日のうちに、夫に「離婚したい」と、切り出した。


 夫は最初のうちは「分かった」と、言いつつもすんなり離婚に応じなかった。私から切り出した「離婚」に、納得がいかないようで、どうしてそのような発言になったのか? と、聞いてきた。


 それに対して私が答えたのは、もともと離婚については考えていたと言うこと。そして義両親のことで悩んでいても、ちっとも親身になって相談に乗ってくれなかったことを上げた。


 余談ではあるが、夫は出会い系の女の「ユッコ」には、色々と相談にのっていたらしく、「何かあったら抱え込まないで言ってね。いつでも相談にのるから」と、心優しいメールを送っていた。


 その一方で妻である私は蔑ろにされてきた。面白いわけがない。夫は今更のように軽く謝ってきたが、取りあえず形ばかりの謝罪に心に響くものはなかった。夫としてはここで私や息子に出ていかれたら、義母の面倒を自分一人で見なくてはならないことが面倒なのだろう。


 謝って済むことなら、いくらでも謝るような素振りに誠意が感じられず、どうして自分はこんな男と結婚してしまったのだろうと、後悔しかなかった。


 そんな時。PTA会長から、次期会長にならない? 推薦するからと誘われた。夫との離婚話をさっさと進めてしまいたい私だったが、なかなか上手く先に進めなかった。






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