諸行無常、魂

ユキは両親と義両親を看取り、娘は大人になりやがて母になろうとしている。そして今度は自分自身の老いの入り口へと人生の幕は転換していくのだ。当たり前のことではあるが、人生はこうやって諸行無常の時を刻んでいく。


父親が20代の時代、第二次世界大戦という人類史上最大の大戦争の渦に巻き込まれた。そんな中で、小笠原諸島の父島にサラリーマンだった父が突如思いもよらぬ兵士となって海軍に配属され戦地に赴いたのだ。同じ小笠原諸島でも最大の激戦区となった硫黄島ではなかったことは父にとって幸いだっただろう。でも、その地では残酷な事件が起こった。捕虜のアメリカ兵の人肉を日本の兵士が食したという父島事件だ。戦後裁判でその首謀者の日本兵は処刑されたという。中にはそんな事件はなかったと証言した元兵士もいたらしいが、父はその事件のことを子ども時代のユキに話していた。時に真実は時と共に揺れ動いていくが、実際その場で兵隊をしていたユキの父が否定しなかったので、ユキはその異常な心理下にあった戦争中そうした異常な出来事が行われたのだろうと思う。物質的豊かさの中にある現代においても異常な事件というのは時に起こっているのだから。


人間は異常な環境下で異常な精神状態になるのだろう。それはどんなに立派な肩書きを持ち、立派な家に住んでいても起こりうる。物質ではなく、魂の奥から起こりうるのかもしれない。その魂というのは一体何者なのかはユキにもよくはわからないが、きっとそういうものの作用なのだろう。

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