墓守少女が踊る森

寿マーモット

踊りは楽しむものだから。

 墓守の女の子は毎日スコップを使って死んだ人を埋めます。リスと躍る夕べまでに仕事を完了させます。

 それは何代も前のご先祖様と同じ暮らしです。墓守の女の子は毎夕、リスと一緒に踊ります。夕陽が見守る墓場にて。森と接した墓場にて。


 アイランド王国は大臣の娘、ツクリさんが発明した自律一頭身ロボット「チビギア」の影響で大きく変わりました。

 羊と小麦と農民であふれていた国が、たった数年でチビギアと工場の国に化けたのです。

 土地を持つ貴族は工場を手に入れて、チビギアと協力してもっと豊かになりました。

 一方で農民は畑も住処も働き口も工場とチビギアに奪われて、貧民になりました。


 墓守の女の子は毎日死者を埋めます。飢え死にした貧民は全て裸で埋められます。

 悪い人が服を盗んでいくからです。墓守の女の子は仕事を終えるとリスと踊ります。


 ある日の事でした。

「集団墓地と森を切り開き、チビギアの工場にします。異論、反論は明日のお城の踊りの公演で、最も美しく踊れた者にのみ伺います」とツクリ嬢が墓守の女の子を含む大衆の前で宣言しました。

「もちろん踊りの公演ですからドレスコードも有ります。みすぼらしい服の人は門前払いにしますので、そのつもりで」とツクリ氏は騒ぐ民衆を無視して告げました。そして用を終えると去りました。


 墓守の女の子は引っ越しの準備をはじめました。今日はリスたちとは踊れません。リスの誘いを断る必要が有りました。

 冬服を鞄に詰めている時にリスの誘いが来ました。墓守の女の子は家の扉を開けました。

 そこには、たくさんのリスと生まれたばかりのもっと沢山の子リスが居ました。

 リスに言葉は分かりません。昼のツクリの宣言も分かりません。でも自分の子供を産んだ嬉しさなら分かります。

 リスでも「嬉しみ」が分かるのです。ましてや、墓守の女の子に分からないはずは、伝わらないはずはありません。

「守らなきゃ…!」

 墓守の女の子は毎日使っている大きなスコップを握りました。

 

墓守の女の子は夜に墓場で地面にスコップを突き刺しました。そして掘ります。ここはお墓です。墓石はひび割れ、形も変わり、一部苔むしていますが、立派なお墓です。

 墓守の女の子は棺を1つ掘り出しました。

 墓守の女の子はその棺をひらこうとしましたが、あけられません。そんな時、助けが来ました。

 それはリスの大きな群れでした。それは鳥の群れでした。それはトカゲでした。それはイノシシでした。

 獣たちが棺を壊してくれました。中から出て来たのは踊りの公演などのときに着るやや古臭い見た目をした、しかし上質なドレスでした。


 翌日、夕部の踊りの公演。貴族の娘らが美しく舞います。そして、墓守の女の子も未知の音楽にあわせて、即興で踊ります。

 墓守の女の子の踊りは美しさの面ではツクリさんに負けていました。何故なら墓守の女の子の踊りは力強すぎて、かえって美しくなかったのです。


 にわかに、踊りの公演の会場であるアイランド王国のお城が騒がしくなりました。1つのチビギアが墓守の女の子と一緒に踊り始めたのです。

 他のチビギアも続きます。2つ、4つと参加個数が増えます。


 墓守の女の子はこれをきっかけに、毎日リスと躍る時に持っていた「楽しさ」を思い出しました。

 墓守の女の子はスコップを振って楽しく踊ります。

 チビギアも楽しそうに踊ります。そして踊りの公演は過ぎていきました。


「私の負けね。私はあなたみたいに楽しく踊れない。意見を聞きましょう」

 ツクリ嬢が墓守の女の子に訊きました。

 墓守の女の子が望みを口にしようとしたときでした。地震がアイランド王国のお城を襲ったのです。

 地震は短いものでした。


ツクリ嬢は矢継ぎ早にチビギア達へ指示を出し、墓守の女の子を含む踊りの公演の参加者、踊りの公演の関係者を城の外に避難させました。

「私で最後ね。怪我人は…」踊りの公演の会場の天井が崩れ落ち、ツクリ嬢の上に降り注ぎました。

 そしていわおのような大きなガレキがお城の会場に有りました。

 ツクリの父の大臣が嘆きの叫びをあげました。大臣の目にはガレキしかありません。

 誰もがツクリ嬢の死を認めざるを得ません。


 しかし墓守の女の子はガレキに両手を当て押し出そうとしました。

 その時でした。森の獣たちが何かを察し、お城に強引に無理やりやって来たのです。

 導いたのはチビギア達でした。さらにチビギア達は城中を巡り、縄という縄を探し集め、瓦礫に巻き付けました。


 墓守の女の子は、森の獣たちは、貴族たちは、城のチビギアたちは、見物客たちは瓦礫を引っ張ります。

 そして、ついに大きな大きな瓦礫を動かしました。

 見つかったツクリ嬢には息が有りました。ツクリ嬢の命をその場のみんなが救い出したのです。


 その後、大臣の声がかかった電光石火の治療でツクリ嬢は元気になりました。

 元気になったツクリ嬢がはじめて作ったのは次世代チビギアです。

 集団墓地と森は名前だけ公園になりました。

 そして墓守の女の子は今日も朝から死者を埋めます。

 そして夕べになると貴人、貧民、チビギア、獣と問うことなく踊るのでした。

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墓守少女が踊る森 寿マーモット @marmotkotobuki0106

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