第6話

 今日も疲れたぁ〜。

 もう夜か。


 今日は寝不足でずっと働いていたためか、いつも以上に疲れてしまった。

 今日は早く帰りたい…。


 ドンッ


「うわっ」「きゃっ」


 やばい、ぶつかった…!


「ごめんなさい!大丈夫ですか⁉」


 僕は転んで倒れ込んでしまっているその人に声をかけた。


「は、はい…」


 あれ?この声は…⁉


「ああああああああああああ!!!ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!」


 やってしまった…!

 僕が一目惚れ…したわけじゃない…はず…のナースに思い切りぶつかってしまった。


「あの、大丈夫ですか?」


 あ、まずい。ボーッとしてしまっていた。


「だ、大丈夫だよ」


「あの、私、谷口友紀です。

 …えっと、研修医の安藤先生ですよね」


「は、はい」


 思わず名前を知ってると言いそうになってしまった。危ない。


「あの、今日よかったら一緒に飲みにとか行きませんか?」


 なぬ!?

 これは千載一遇のチャンスでは!?


「は、はい!行く!行きます!」


 大慌てで言う僕に友紀は「良かった」と言った。


「「乾杯!」」


 かぁ〜!

 一日の重労働を終えたあとのキンキンに冷えた生ビールは最高だー!


 隣を見ると友紀がちょうどグラスを机においたところだった。


「今日は付き合ってくれてありがとうございます」


「いや、こっちこそ。

 えっと…何で僕を誘ったの?」


 そう、それが僕が一番聞きたかったことだ。


 友紀は何も言わなかった。

 他の客の笑い声がはっきりと聞こえそうなくらいだった。


「…えっと…、谷口さんってお酒強いんですね。…なんか意外だな」


「…友紀で大丈夫です」


 いきなり下の名前呼びー⁉

 ハードル高ーっ!?


「何で誘ったか、ですよね。

 それは…、先生、結衣ちゃんの診察とかを担当してますよね。それで…、先生もお気付きかもしれませんが、何かがおかしいんです。あの子が記憶喪失なんて何かがおかしい」


 そのことか。

 やっぱり他の人もそう思っていたのか。


 でもなんか複雑な気持ちだ。

 共感者が現れて嬉しいような気がするが、もしかしたら友紀が自分に好意を持っているのでは?という期待が消えてちょっと寂しいような…。


「私、あの子について調べて、あの子を救ってあげたいんです。でも私一人では何もできないし…。だから、先生に協力してほしいんです」


 確かにそれはいい考えだな。

 ひとりで調べるよりも2人で調べるほうが断然早く答えにたどり着けるだろう。


「分かった。一緒に調べよう」


 友紀の顔に明るい笑顔が浮かんだ。

 はじめにあったときの無愛想さが嘘みたいに。


「ありがとうございます」


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 飲みすぎた…。

 2日連続飲みすぎて死にそう…。


 ふと空を見上げると、闇に吸い込まれそうな錯覚に襲われる。

 その空が自分に、何か根本的に間違っていると訴えているように見えた。

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