第21話
腐った死肉と骨の体を鎧に包んだ亡霊武者たちが次々に現れる。その先頭には一際体が大きく豪奢な鎧の亡霊武者が立っていた。
「髑髏左衛門様!!恐れながら、この小娘と烏どもをその偉大なお力で葬って頂きたいのでございます!!」
権太丸は地に両膝をつき、うやうやしくそう言った。
「ふはははっ!!よかろう!!」
髑髏左衛門は高笑いするが、その様を見ながらアリアはハアとため息をついた。
こいつら、バカだなあ......
「小娘、覚悟しろ......って、え、あ、え、ちょっ、なにっ!?」
空一面を覆い尽くしていたおびただしい数のターヤガラスが、亡霊武者たちの死肉の匂いにつられていっせいにたかってきた。
「ばーか、大昔から、戦場では死体に烏がたかるって相場は決まってんだろ?」
アリアは頭を斜めに傾けて舌をべっと出しながら、ターヤガラスについばまれて泣き叫ぶ亡霊武者たちを眺めていた。
「いや、ちょっ、まじでやめて!!」
「あー!!そこの肉だけは食べないでー!!」
「いやー!!まだ死にたくないー!!」
「いや、死んでんだろ、お前ら」
亡霊武者たちの断末魔のひとつにアリアは的確にツッコミをいれた。そうこうしているうちに、亡霊武者たちの死肉は残らず食い尽くされ、骨と鎧だけがその場に取り残された。
「ど、髑髏左衛門様......」
権太丸は地に両膝をついたまま呆然としていた。
「さて、お前の体も烏たちが食べやすいようにしてやろうか?」
権太丸の後ろでアリアはすっと剣を抜いた。が、そのとき、亡霊武者たちの骨が突如ガシャガシャと音を立てて動き始めた。骨と骨が次々にくっつき、より大きな人骨を形成する。そして、最後には巨大な骸骨の姿になる。
餓者髑髏。戦死者や野垂れ死になど供養や埋葬がされなかった死者たちの怨念が集まって生まれる巨大な骸骨の怪物。これが、侍所別当髑髏左衛門の本来の姿であった。
『う、ううう.......この姿を保つには、血と魂が足りぬ.....』
数十体の亡霊武者たちが一つになって声を発し、巨大な髑髏がキョロキョロと周りを見回す。
『臭う、生きた人間の血が......』
アリアは自分が狙われるかと剣を構えるが、狙われたのはアリアではなかった。髑髏の眼窩はじっと権太丸の右腕を見ていた。権太丸の右腕は先程、ターヤガラスの初列風切羽で切り落とされ、今もぽたぽたと血が滴っていた。
「髑髏左衛門様......まさか......」
餓者髑髏は巨大な右手で権太丸を掴んだ。
「髑髏左衛門様!!ご勘弁を!!御慈悲を!!」
権太丸は泣き叫ぶが、餓者髑髏は全く意に介さず、前歯で権太丸の胴体を噛み切り、ぐしゃぐしゃと噛み砕いていく。権太丸の体は髑髏の口の中でどろどろとした赤黒い液体に変わり、ゴクリと飲み込まれる。液体は肋骨に囲まれた胸郭の中心を宙に浮いて流れていき、みぞおちあたりで宙に消えていった。
『まだ足りぬ。次は貴様だ。小娘』
作者 阿々 亜さん
https://kakuyomu.jp/users/self-actualization
代表作「大学受験に落ちて浪人するか悩んでたら、なぜか異世界に飛ばされた。仕方がないから、異世界でてっぺんとる!!」
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