第13話
別世界への転送中。
真っ白い光の奔流、流されるエイルの魂。アリアの声がした。
「ちょっとだけ教えてあげる。この程度の記憶なら持ち込めるんじゃない?」
馬鹿にするような、あざ笑うかのようなアリアの顔がエイルの脳裏に浮かんだ。
◆
なぜ自分がサイリウムを手にしているのか。
菅谷英琉は地球で、日本で、思い出した。
なぜ自分が、丸めたポスターを挿したリュックを背負いヲタ芸を打っているのか。
菅谷英琉――エイルは十名程の客しかいない地下の劇場で、思い出した。
なぜ自分が必死に、サンダースネイクからロマンスへヲタ芸を繋ぎつつあるのか。
舞台で、泣きそうな顔で、おっそろしく下手くそな歌で、今日に引退宣言しそうな彼女達――地下ドルグループ「Valkyrja」の前で。
なぜ自分だけが必死になってヲタ芸を打って彼女たちを励ますか。
彼女たちの心が折れたら世界が終わるから。
彼女たちが引退したら翌日、この星が消滅してしまうから。
どう終わる。
地球が真っ二つに割れて、割れた地球が公転軌道を外れて、太陽に引き込まれて、太陽に飲み込まれて、蒸発する。
星が割れた時点で生き残れるかも分からない。生き残れても蒸発は確定。
太陽に飲まれたら魂すら完全に消滅してしまう。
彼が持ち込めた記憶はその話と、一つの使命だけ。
使命。
彼女たちを武道館で歌わせること。手段は不問らしい。
使命を達成できればアリアがエイルの魂を回収しに来る手筈だ。達成できるまでの間、アリアはただ、地球の外から傍観してゲラゲラ笑っているだけ。
エイルは我知らず「Valkyrja」のメンバー三名を調べ上げていた。
使命を思い出す以前から、ストーカーのように、執拗に調べ上げていた。
歌がクッソ下手クソで悪役令嬢風の格好。
印税生活したい。儲かりそうだからやってみた。だめなら明日やめたい。その位、やる気がない。
物静かで可愛いショートカットの女の子。雪の幼馴染みで無理矢理引き込まれた。パティシエになりたい。
ストレートの黒髪が印象的。一番可愛い。こいつ実は男の娘なんだよ!
ヒラヒラした服が着れるからやってるだけでアイドル自体はどうでもいいと思っている。
それでも、だ。
エイルは彼女たちを武道館まで導かなければならない。
そうでなければ死ぬから。
ヲタ芸応援だけでは……無理だ。
エイルはロマンスを打ちながら考える。
次の手は。
作者 匿名希☆望さん
https://kakuyomu.jp/users/tokumeiki_bou
代表作「爆死ですね☆」
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