第12話
「コン!」
急に床に座り込んだ瑞の鳴き声にアリヤは戸惑う。
「赤い狐の姿を見せたのは、魂こそが真であり、肉体は幻であることを判って貰いたかったからよ」
アリヤの頭の上からフワリと心配そうに近づいたアリヤそっくりの小人の首の後ろを親狐のように咥えると、瑞はゴロンと寝そべった。
そして毛づくろいするかのように、小人アリヤをペロペロ舐める。
「瑞!? その場で丸く寝そべったわ。どうしましょう。こんなことになるなんて」
「いや、大丈夫だ」
一通りの奇態を示すと、瑞は我に返ったようにスックと立ち上がった。
本体と同じように際どい露出の衣装を着た小さなアリヤは、肩紐が外れて上半身を完全に露出した姿でその腕にぐったり抱かれている。
「申し訳ない。取り乱した」
「そ、そう。落ち着いたのなら良いわ。それで私に何の用かしら。あなたの口から教えて」
「この世界は俺にはあまりにも小さい。もっと大きく広大な、別の世界へ連れて行って欲しい。肉体を万変とし、魂を導ける貴女なら容易いはず」
「そうね」
アリヤは顔だけふさふさ赤い毛の生えた狐へ変化するとニヤリと笑った。
「そういえば滅びかけた世界があったわ。あなたをそこへ案内してあげる」
☆☆☆
「救ってきた。次はどこだ」
「早!? もう? 資源も尽き、生物がすめる環境がみるみる減っていく、限界の世界だったのに」
「俺の種を残してきた。人口はみるみる元より増えることだろう。最終進化体の次元龍と俺の子だ。間違いない」
「何その自信!? ていうか、その次元龍が原因で滅びかけていた世界なのよ!?」
「いいから、次だ」
アリヤは送りだす前と違い、ドラゴンの翼を背に、太くて白い猫化の尻尾を腰に持つ瑞の姿に困惑しながらも現実を受け止めた。
「判ったわ。あなたの魂にブレはない。続けても問題なさそうね」
「当然だ。俺に動揺はない」
出会った直後、取り乱してコンコン鳴きながら床で丸くなっていた姿についてアリヤは触れなかった。
「滅びすらイベント未満なあなたに相応しい世界があるわ」
それはとても小さな世界。
外から入るには記憶すら大きくて持ち込めない、とてもとても小さな世界。
「あなたなら、きっと大丈夫。いってらっしゃい」
広い世界を望む瑞に何も説明せず、アリヤは送り込む。
その悪戯そうな笑顔に、油断のできない世界へ送られることを瑞は悟った。
だから彼は一切の護りを捨てて、無防備に全てを任せた。
作者 三毛狐さん
https://kakuyomu.jp/users/mikefox
代表作「ケエシンゴピムツ」
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